Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【動線】=「短く」+「太く」が基本。理想は廊下をなくすこと。

 

  

 

 

 

 

by Bliss My HouseIdea

家づくりの際、大切なキーワードの一つに動線計画があります。動線とは、文字通り動く、つまり移動するための経路。寝室とトイレが離れている、キッチンと洗濯機置き場に移動するたびに、複数の角を曲がる、などは動線がよくないといういわれ方をします。私たちの建てる家はせいぜい30坪~40坪程度(地方によって異なります)。そのなかで快適な動線を計画することは、無駄なコストをかけない結果にもなるのです。

 

Contents.

 

日々の暮らしを細かく分析する

主に住宅内を人が動く経路を動線といいます。

エリアを広げて街なか、狭めて居室のなかの経路も同じです。

 

どちらも設計時に考えておくと、無駄な動き、余計な面積、場所も少なくて済みます。

つまりコストも削減できます。

 

百貨店などでは、お客を目的の売り場に導く経路として「導線」の文字を充てることもあります。

その場合は人が動くための線ではなく、人をどういうふうに導くかを目的とした線といえます。

 

動線には家事動線、通勤・通学動線、衛生動線、裏動線などいくつかの種類がありますが、基本的に個々の家族のライフスタイルによって意味合いは大きく異なります。

以下に、4つに大別して考えてみます。

 

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テーブルを中央にセッティングする。4方向の動線ができる。
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家族の数だけ異なる【家事動線】

どの動線でも、その目的は何かを考えてみます。

そこからスタート。

 

家事動線は、料理、掃除、洗濯などの日々の家事が少しでも楽にすることに尽きます。

 

個別に考えてみます。

料理は、朝食、昼食、夕食のどの作業の負担を減らしたいのか。

共働きのケース、それぞれの出勤・帰宅時間、毎回の食事の人数と量と質。

それらを考えるだけで、家族の数だけ動線の種類も考え方も違ってくるのがわかります。

 

料理のついでに洗濯をする、掃除は週に一度しかしない、お風呂の掃除と一緒に洗濯をするなど、家事の仕方によっても、動線の考え方は異なります。

動線に正解はないのです。

 

シンガポールや中国の共働き世帯では、朝食、昼食は100%外食という家庭も少なくありません。

こうした家庭ではキッチンは最小限の設備と面積で、料理に関する動線は重要視されません。

 

以前にも書きましたが、ドイツの集合集宅でも、リビングは20帖もあっても、キッチンは1坪程度で小さなコンロが2つだけ、などというケースもあります。

料理が家事の範ちゅうに入っていない文化もあって、廊下のない家が多くを占める設計では、動線も曖昧になります。

 

一般論はあてにせずに、まずはわが家の生活パターンや家族の癖、理想はどうなのかを考えます。

 

大人数ですと、重たい買い物袋を持ちながら、玄関から冷蔵庫まで移動するだけでも大変。

3人家族だったら、玄関と冷蔵庫の距離は重視することもありません。

 

ゴミを出す場合はこの反対ルートで、キッチンから玄関まで、どこを通ってどのくらいの距離なのかが気になります。

 

どうしても玄関とキッチンを最短距離で結びたい場合は、勝手口が選択肢に入ってきます。

勝手口を設けるなら、勝手口を入ってすぐは土間にし、そこに小さな食品庫をつくることもできます。

この食品庫は非暖房空間にすると、漬物を漬ける作業場にもなり、保存庫にもなります。

 

料理のときは洗濯もやってしまいたいという人には、キッチンと洗濯機、物干し場とのアクセスが重要です。

この際、物干し場は屋内と割り切っている家庭ではベランダとの動線は除外されることになります。

 

このように考えていくと、ビルダーや設計事務所が考える動線が先ではなく、自分の行動パターンの理想を考えることが、動線計画の基本であることが見えてきます。

 

動線に生活を合わせるのではないのです。

生活に応じた動線を生み出していくのです。

 

 

 

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朝夜を考える【通勤・通学動線】

この動線も家族の数、世代によって異なります。

わかりやすく考えるために、お父さん動線、お母さん動線、息子さん動線、娘さん動線、おじいちゃん動線、おばあちゃん動線など、個別に考えてみましょう。

それも朝の通勤時間、帰宅して、自分の部屋にたどり着くまでを考えてみます。

 

お父さんを例にします。

寝室で起床→トイレ→洗面→寝室で着替え(パジャマから部屋着)→朝食→寝室で着替え(部屋着からスーツに)→トイレ→出勤というスタイルが一般的です。

 

が、ここに共働きのお母さん、早起きのおじいさん、通学の子どもたちの動きを重ねるとどうでしょう。

 

動線が狭くならないように廊下を広めにするといったアドバイスも見かけますが、本来、廊下などつくらない大空間を中心とした空間構成が基本。

廊下の動線そのものが無意味になります

この場合は、ここで繰り返し述べている、高い断熱性能が基本となります。

躯体をすっぽり断熱できるからこそ、大きな空間をつくっても、温度差が気にならないのです。

 

廊下があったとしても、ぶつかりそうになった場合は、よければ済む話。

家族なのです。

 

気になるのは、重なり。

同じ時間にトイレに駆けこむ人がいる場合は、トイレの数が問題となります。

1階のトイレが使用中の場合は2階に移動する。

そのときの動線はどうなのか、といった順番です。

 

洗面所も同様です。

同じ時間帯に、洗面所を使いたい人が何人もいる場合、そこで長い間、ドライヤーを使ったり、髭を剃っていたりでは渋滞を起こします。

 

この場合も同様で、動線そのものの問題ではなく、洗面台の台数、コンセントの位置、数なども大事な要素となり、バランスのとれた設計が求められます。

 

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動線の壁を飾る。by Bliss My HouseIdea

 

 

 

 

 

 

 

水回りの移動を計画【衛生動線】

水回りは1つのラインにまとめると、工事面でも効率が良く、コスト面でのメリットもあります。

水回りだけは、動線よりも、余計なコストをかけないように、トイレ、浴室、洗面、キッチンは一直線上にまとめることを基本にしましょう。

水道工事は、かなりのコスト比重を占めています。

 

問題はそのまとめかた。

リビングやキッチンとトイレが近いと音の問題があります。

寝室から近いのが理想ですが、かといってキッチンや洗面と近いと、やはり音が気になります。

 

少し前ですと玄関ホールのほど近く、廊下に面して並べることもありましたが、来客時に見えるかどうかの配置がカギでした。

 

 

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プライバシーに配慮の【裏動線】

こんなときのために考えたいのが「裏動線」です。

来客時に、訪問者の視線に入らずに、音も姿も気にされないで済む位置にトイレや浴室があるかどうか。

 

洗濯に関しては、来客時は遠慮することで問題は回避できますが、トイレや浴室はやはり、隠れたところにあると便利、安心です。

 

裏動線は、訪問者が玄関を入ってから通されたリビングや客間の座った位置から、プライベートなものが見えないように配慮します。

 

ここで銀行やホテル、デパート、レストランをイメージしてみます。

 

実はこうした職場は私たちの見えるところだけでなく、荷物の搬入口、従業員専用の出入口から入って専用の更衣室、トイレ、場合によってはシャワー室や浴室、食堂や休憩室などの専用の「裏」があって、「裏動線」があります。

 

私たちが目にする職場とは区分けされているので、住宅にも応用できないか考えてみます。

方法は大きく分けて2つあります。

 

1つ目は、階段をリビングに取り込む設計。

玄関→階段→2階の子ども部屋という動線は、家族の顔を見ることなく個室に移動できてしまいます。

その点、階段をリビングに取り込むことで、まずは「ただいま」「おかえり」とあいさつができ、階段を中心にぐるりと回る回遊型の動線ができ、階段の裏側に水回り直線状に配置することができます。

 

この動線ですとキッチン→洗面・浴室→トイレ→寝室も可能で、訪問者とくつろぐリビングからは明快な一線を引くことができます。

 

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Photos by Sweet Potato..

どんな狭い場所でも【回遊】を意識してみる。引き戸一つで、家族用玄関と表玄関とを開閉しながらつなぐ。ぐるっと回れる、がヒント。

 

 

 

 

 

 

 

行き止まりのない【回遊型動線】

2つ目は、回遊型の動線。

ル・コルビュジェが実母のためにスイス・レマン湖のほとりに設計した「小さな家」には、小さいながらも行き止まりがなく、直線の動線もありませんでした。

 

リビングからトイレ、寝室に行くにも、途中にテーブルや衝立、椅子などがあると、そこを避けようとしますので、ニョロニョロ、グネグネと回りながら移動することになります。

往復、別な動線を辿ることもでき、毎日の生活に飽きがきません。

 

「サーキュレーション」ともいわれる動線ですが、これは家のなかに行き止まりをつくらないこと、直線の動線を最小限にすることなど示唆に富んでいます。

 

動線だけを計画することはあまり得策ではありません。

間取りを考えるときのようにパズルになってしまうのです。

 

まずは自分たちの生活を分析する。

そこで何が必要で、何が不要かを明確にする。

 

「太い」ことは幅が大事ということです。

車椅子を想定します。

できれば、太いことより、廊下などない大空間がいいのです。

「短い」は短距離でたどり着くこと。

当たり前ですね。

 

ここで大切なことはプラス思考をしないこと。

ここが足りないから、これがほしい、もっと広さ、設備がほしいとなると、面積も予算も際限なくなります。

  

まずは言葉を並べます。

 

【濡れたコートのままリビングを通り、寝室に行きたくない】

【夕刻、帰宅後、料理をするついでに洗濯、物干しまで一緒にしたい】

【トイレに行くとき、入浴時などは家族にも見られたくない】

などなど、

 

こうした言葉を何十、何百とメモにしたものをプロに委ね、そこで初めてたたき台の図面を出してもらいます。

 

大事なのは、素人の自分たちが、図面を描くという作業を経てはならない、ということです。

遊び半分の間取り図づくりも楽しいですが、素人がそこにはまると必ず壁に突きあたります。

 

建築費のあれこれ、素材や光、音、など建築のことがわからないままでの図面描きはむしろ危険。

それを鵜呑みにして、あ、そうですかとそのまま工事をするようなビルダーはもっと危険です。

 

正式な図面でなくとも、フリーハンドのイラストだって、互いにイメージを共有できることが大事。

そこから徐々にプランを固める方がずっと効率的といえます。

 

 

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まとめ

1.動線計画は、無駄な動き、無駄な面積、無駄なコストを削るのが目的。

 

2.出勤・帰宅時間、毎回の食事の人数と量と質でキッチンの大きさも動線も違ってくる。大家族の場合は玄関→キッチンではなく、勝手口→キッチンの動線も選択肢。

 

3.家事を同時にこなしたい人は、料理・洗濯・物干し場とのアクセスが重要。

 

4.家族の数、同居する世代によって異なるため、一人ひとりの朝の通勤時間、トイレや洗面、入浴の時間の重なり、帰宅して自分の部屋にたどり着くまでの経路などを考える。雨や雪の多い季節はコートをどこで着たり脱いだりするかを考えるだけでも動線が見えてくる。

 

5.水回りは、余計なコストをかけないように、トイレ、浴室、洗面、キッチンは一直線上にまとめることを基本にする。動線もおのずと同じラインとなる。

 

6.裏動線は、訪問者が玄関を入ってから通されたリビングや客間の座った位置から、プライベートなものが見えないように配慮する。階段をリビングに取り込む、行き止まりのない回遊型動線を応用するなどの手法がある。

 

7.動線は【太く】=幅をとる、【短く】=短距離で移動=が基本。しかし、大空間を中心とし、引き戸などで曖昧に開閉できる空間構成とすることで、廊下の動線はおのずと不要となる。

 

8.動線から家づくりを始めると、ほとんどがパズルの組み合わせのようになってしまう。まずは自分たちの生活を分析し、言葉でまとめる。そのうえで設計者にたたき台を依頼したほうが結局は近道となる。