Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

「35坪の家がほしい」の広さの根拠は?

 

 

 

 

絵画


家づくりの希望を500出せますか

関西のとある街。

家づくりセミナーの講師として呼んでいただいたときのことです。

いつも通り、約2時間の話を終えたあと、60代のご夫婦に「ちょっと相談があるのですが」と引き留められ、その場でお話をうかがうことになりました(私はコンサルタントではありませんので、立ち話程度のお話しかできません。アドバイスもできませんし、個人的な意見しか述べられません)。

 

「土地はあるのですが、なかなか家のかたちが見えてきません」

「住むのは、ご夫婦だけですか。どんな家にしたいのですか」

「35坪ほどの家にしたいと思っています」

「どうして35坪なのですか」

「築40年のいまの家が40坪なのです。いまは2人なので35坪でいいかと」

「住むのはお2人だけですね。35坪も大きな家です」

「たまに、娘たちが孫を連れて泊まりにきますので」

「年に何日くらいですか」

「盆と正月を合わせて1週間ほど」

「いまの家は、どういう状態ですか」

「子ども部屋はもう物置場になっています」

 

 

22坪・平屋で建てた夫婦だけの終の棲家。寝室、アイランドキッチン、ダイニングを直線状に並べ、縦長のコンドミニアム調にした。

 

「同居の予定はありますか」

「ありません。2人とも他県に嫁いでいます」

「予算はどれくらいですか」

「坪80万円として35坪で2800万円、その他諸経費と…」

「坪80万円と、どうして決めたのですか」

「おおよそ、そんなものかと」

「夫婦2人の家ですと、25坪でも立派な家ができます」

 「25坪!?」

「たとえばの話です。あとは、どんな希望がありますか」

「お話を聞いて、温度のバリアフリーが大切なことがわかりました」

「ありがとうございます。そのほかは」

「夫婦のどちらかが介護の状態になっても、自宅で過ごしたいです」

「自分たちの要望をなんでもいいですから、500まとめてみてください」

「え、500?」

「思いつきのメモでいいんです。まとまったら、優先順に並べ替えてみてください」

 

 

 

 

素人間取りより「言葉」にする

 「500…」

「気持ちのいい居間、光熱費の安い家…など抽象的な思い、メモでかまいません」

「抽象的とは」

「例えば、朝はどんなふうに起床したいですか」

「いまの家は冬寒いので、起きたら暖かい寝室なんて夢ですね」

「では、起きたらすでに暖かい寝室、という具合です。奥様は」

「主人と料理をすることもありますし、娘たちが帰省すると台所が狭くなるので」

「では大人2人が作業できるくらいのキッチン」

「そんなのでいいのですか」

「いいと思います」

 

 

「妻と間取り図も描いてみたのですが」

「立面図は描けますか」

「とんでもない」

「窓の位置は、どうして決めますか」

「適当にです」

「隣家との距離、敷地の関係で日差しも通風も変わってきます。しかも、季節によっても日々、違います」

「確かに」

「それらを理解していないと、間取り図はただのパズル遊びに過ぎません」

「でも、そんなことをしたら3000万円どころじゃなくなります」

「予算は大事ですが、ビルダーも施主の要望をまず把握したいのです」

「まず希望を整理するということですね」

「500の要望を整理し、優先順に並べ替え、それを2500万円以内で実現してみましょう」

 

「2500万円!?」

「間取り図ではなく、そのメモをビルダーや建築士に見せるのです」

「欲張りだと思われませんか」

「要望が見えないことのほうが、お相手はよほど不安です」

「予算を明示して、500のメモをたたき台にして、ですね」

 

「玄関から始まり、いえ、玄関ドアに行き着くまでのアプローチから始まり、玄関、ホール、居間、寝室、キッチン、トイレ、浴室、和室、家具、照明、庭など、部位ごとテーマごとに10個くらい出していくと、500なんてあっという間です」

「なるほど」

「キッチンだって、何もメーカー製でなくてもいいでしょう」

「大工さんにつくってもらってもいいかも」

「希望があれば、収納の取っ手のデザインまで希望をメモにします」

 「そんなことまで」

「残りのお金は老後のためにとっておきましょう」

「ほんとに、そんなことできますか」

「素人さんの図面をそのまま家にする業者など、逆に不安です」

「社長を知っている工務店があるんです」

「信頼関係があるのでしたらなおのこと、この方法でトライしてください」

「全て要望が叶うとは思いませんが、大切な条件はクリアできそうですね」

「予算を決める、500の要望を出す、先方と優先順位を決めるという順序です」

「楽しみになってきました。やってみます!」

 

ほんの10分ほどの立ち話でしたが、ご夫婦は笑顔で会場を去っていきました。

 

ドア

 

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アイランドキッチンは来客時も便利。みんなでワイワイ料理をつくり、みんなでサッと片付け。モノを置かないことを徹底していつも清潔に保つ。

 

 

 

家は「買う」ではなく「建てる」もの 

予算も大事ですが、もっと大事なのは自分たちの要望が、きちんと整理されているかどうかです。

 

日本人の多くが、こうしたことができませんので、ハウスメーカーのパンフレットから、好みに合うものを「選ぶ」あるいは「買う」ことをしてしまいます。

テレビを観ていても、「家を購入」という言葉が使われますが、この言葉には強い違和感を覚えます。

 

家は「選ぶ」ものでも「買う」ものでもありません。

 

四季折々の気候、季節ごとの日射の角度、風の向き、気温や湿度、家族の人数、年齢、生活スタイル、家族それぞれの身長や体重、趣味などによって、1軒1軒異なるのは当たり前。

だからといって、要望を全てクリアすると、いくら予算があっても足りないことは誰にでもわかります。

 

最小限の予算で、どれだけ多くの要望をクリアできるかが勝負どころ。

換言すれば、そこで初めてプロの出番となるわけです。

最初からオーバー気味の予算を組み、必要以上の機能を盛り込んでも、3日もすれば、無駄だったことが実感できるでしょう。

 

「あったらいいな」は、たいてい「なくてもいい」のです。

 

ローンが終わってもなお、生涯にわたってつきまとう光熱費をどれだけ安く抑えられるか。

身体状況が悪くなっても、住み慣れた我が家で暮らしていけるか。

年に数日しか帰省しない子どもたちに、数百万円のコストをかけていいのかどうか。

介護はできそうな空間構成か。深夜にヘルパーさん、訪問看護を依頼するとしたらどうなのか。

 

 

希望によっては、在宅での看取りもできるかどうか。

庭を眺めながらの、日曜日の遅い朝食。

コーヒーを美味しく味わえる居間。

夜、寝室で奥様の表情がいつもよりもっときれいに見える、照明計画。

洗濯機からキッチンまで、移動がスムースな家事動線。

難しいことはわからないけど、来客時にも洗濯、入浴ができる裏動線。

年金生活になっても、月々の光熱費はいまより安く抑えられるか。

将来、独居生活になっても、掃除やメンテナンスで手間のかからないこと――などなど。

 

なんでもかんでもメモをしてみます。

ここでやってはならないことは、

「キッチンからサニタリーまで3メートル」

「部屋は〇畳が2つで3つで…」

といった具体的な数字でプランを作ることです。

〇坪、〇万円も同じです。自分で勝手に自分の首を絞めることになります。

 

距離を決めなくても、快適な動線はいくらでも計画できます。

部屋数を決めるよりも、大空間を生活スタイルに応じて可変的に使えるほうが、はるかに経済的です。使い勝手もこちらがいい。

 

しょせんは素人の描く間取りより、生活をベースにした「言葉」のほうがはるかに説得力を持ちます。

 

最後は優先順に並べ替えていきますが、そこで当然、予算とのせめぎ合い。

家を建てるということは、そこから始まるのです。

 

家のかたちではなく、将来にわたる生活面での要望をできるだけ多く揃えることで、ビルダーとのプランニングはより深くなり、信頼関係も強固になります。

 

こうした作業は面倒だと思う人は、メーカーのカタログのページを開いて「これちょうだい」と指で示せばいいでしょう。

ハウスメーカーのプランも、日本人の生活の最大公約数をきちんとかたちにしてくれるはずです。

 

後日、ご夫婦からは、600もの要望が書かれたメモが送られてきました。

それをもとにして図面ができあがり、「終の棲家」が完成したのは、10か月後のことでした。

 

照明イメージ

  

まとめ

1.私たちは建築に関しては素人でも生活のプロ。世界に一つ、自分たちの家族にフィットしたオーダーメイドの家を建てる覚悟で家づくりにのぞむ。

 

2.間取り図は描かない。その代わりに抽象的でも、家族の希望をメモにまとめ最低500揃える。まとまったら、優先順に並べ替える。

 

3.譲れない予算は決めておく。予算は1円でもオーバーしない覚悟でのぞむ。

 

4.500のメモをたたき台にしてたたき台の図面を出してもらう。この段階ではフリーハンド程度のほうがイメージを把握しやすい。

 

5. 「あったらいいな」は、たいてい「なくてもいい」。

ここでは例として「35坪」という数値を示したが、マンションなどは3LDKでも22、3坪。お年寄りの夫妻用には、25坪でも十分な機能を備えた家ができる。

 

6.家は「買う」ものではなく「建てる」もの。その過程を楽しむ。

 

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