日本の家づくりは、古くから日射や通風など、自然界の
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窓から熱を得るのは昼間だけ
日本の家は伝統的に南面の開口部を大きくとるのが特徴です。
南面の壁全体が開口部のような家が、いまもたくさん建てられています。
都市部でも、建売住宅やマンションの広告を見ると「南面リビング」をPRする物件が根強い人気。
アパートも「日当良」は基本の基本というのはしかし、日本ならではのものかもしれません。
日本より緯度の高い欧州では、東向き、北向き、西向きとバラバラであることに気付きます。
道路に向いて建っているのが特色かもしれませんが、日本の家ほど南向きにこだわっていないことだけは確かです。
しかし、いくら天気のいい日でも、採光・熱の取得といったメリットが享受できるのは昼だけ。
夜には昼間に取り込んだ以上の熱が、大きな窓から大量に出ていってしまうのです。
古い時代の窓で、窓の面積が大きければ大きいほど、熱が逃げる量も多く、朝には外と同じような室温になっている、そんな経験をしてきた人も多いことでしょう。
開口部の面積をとればとるほどに、屋根を支える力が弱くなる。壁よりも窓のほうが支える力がないことは明白。昼間にたくさん日射を得ても、夜間にはそれ以上の寒さが出入りする部位になってしまう。
欧州では断熱性の高い樹脂、木製サッシに加えてペア、トリプルガラスなどが標準装備。方角を問わずに大きな開口部で採光、通風を操る。
by CASA SCHWANCK
窓を壁にすると大地震では?
大きな地震の際など、テレビを観ていると、倒壊した建物の多くが開口部の面積の多い部分から前のめりで倒れていることがわかります。
耐震性の面でも、壁のように窓を連ねることの危険性がおわかりになるかと思います。
南向き、大きな開口部のほとんどが掃き出し窓、引き違い窓。
そこに、出入口と通風・採光用の開口部と壁との役割を曖昧にしてきた、日本の家の原点が見えてきます。
掃き出し窓、引き違い窓が悪いのではありません。
これだけ伝統的な住文化が希薄になっているのに、洋「風」が主流になっているのに、なぜ窓のかたちだけが日本古来のままなのか、が問題なのです。
本物ではない「──風」って、いったい何でしょう。
窓の種類はこの20年で飛躍的に増え、性能も向上。ドイツ並みの断熱性能を誇る国産製品も増えている。窓は外観を決めるかなめともなるだけに、性能のみならず、デザインからも計画。同じ種類の窓を使って連窓などのデザインも楽しい。
掃き出し窓でゴミは掃けない
掃き出し窓は「窓」なのに、出入りができるドアみたいな窓。
縁側があって庭先とアクセスする名残でもありますが、文字通り、掃除の際にゴミや埃を外に掃き出す目的もあるのでしょう。
しかし、サッシの溝の凹凸がバリアになって、箒を使ってゴミやホコリを掃き出すことは難しく、掃除機を使っても隅々までゴミを吸い取ることはできません。
拭き掃除をきれいに仕上げるのも困難です。
庭先に洗濯物やお布団を干すときのために必要、という人がいますが、1人が洗濯物やお布団を抱えて出るには、ドア1枚程度のスペースがあれば十分です。
にもかかわらず、なぜ、大きなガラスが2枚、4枚とあって、根強い人気なのでしょうか。
問題はそこです。
家は夏を旨として建て、冬は南から太陽光を採り入れる。
そのために開口部は大きければよい、といった考え方、出入りのない部分まで大きな掃き出し窓にしてしまうといった考え方が、長い歳月をかけて根付いてきました。
だから、私たちは何の疑問もなく、昔ながらの窓を用いながら、生活だけは「和」を否定して、洋風に変化させてきたともいえます。
読書の時間。窓から入る光がまぶしくて活字が読めない経験は誰にでもあるはず。ほしのは明るさではなく、適度な光。by CASA SCHWANCK.
窓は壁であり、穴でもあり、開閉自在でありながらも高い防犯性も求められる。
by CASA SCHWANCK
日射をコントロールする方法
これまで日本の家には、熱を蓄えるといった発想はありませんでした。
南面からの日差しは日が照っているときだけ満足できるもの、大きく薄っぺらな窓は、夜になると、あるいは冬になると、日差しの何十何百倍もの熱を逃がしていたのです。
逆に、近年のマンションなどでは、「南面採光」にこだわりすぎることで、夏は蒸し風呂状態となり、高い冷房代を余儀なくされます。
日差しを取り込むばかりで「遮へい」など日射を制御することが考慮されていないからです。
日射は「取得」と「遮へい」の両方向でコントロールが大切ですが、古くは庇や軒にお任せして、窓そのものでどうにかしようとする発想はあまりなかったのかもしれません。
先にも述べましたが、「和」のDNAを維持しつつも、私たちはほんとうの「洋」も知ることなく、馴染めないまま宙ぶらりんの住宅文化のさなかにあるといってもいいでしょう。
北側採光には天窓=トップライトも可。終日、安定した光を屋内に導く設計に配慮する。窓の性能を高めることで、連窓などのデザインにしてもコールドドラフトは避けることができる。
by CASA SCHWANCK
住宅性能は窓の性能で決まる
もう一度、原点に還ります。
そんなに南からの強い日差しが必要でしょうか。
すがすがしい空気と朝日が入る東向きの居室がいいですし、書斎のように明かりがほとんど入ってこない空間も落ち着きます。
北側に素敵な眺望があれば、それを諦める必要はなく、大きな開口部を設けるべきです。
日中、南からの強い光が差し込むと、テレビが見えにくくなり、カーテンを閉めてしまいます。
窓のそばでは強い光に目がくらみ、新聞も読めず、読書もできません。
かつては縁側という緩衝帯がありましたが、それを失った建築での南面採光は、デメリットも多いことがわかります。
たくさんの日射を取り込むことと同時に、多くの熱が逃げる。
だから窓の性能にもこだわる、という発想が私たちには欠けていたのです(下図参照)。
窓の性能を上げれば、北側でも大きな開口をとれますし、南側を特別扱いすることもありません。
問題は、窓を取り付ける方角ではなく、窓そのものの(正確にはサッシを含めて)性能だったのです。
日本では引き違い窓がいまだメインだが、さまざまな窓の種類を知り、その組み合わせを考えることでデザイン、採光の幅は無限大。
by CASA SCHWANCK
終日安定した光は北側にある
敷地に制限がある、隣地に建物があり採光が制限される場合、あえて北側に性能の高い窓を設けて、終日、光を確保することもできます。
直射日光ではない分、温度上昇は少なく、夜明けから日没まで一日中光が安定しているのは、意外と知られていないメリットです。
1階でも2階でも反対の方角の窓を開けることで、効率のいい換気通路をつくることもできます。
大きな空間をまんべんなく明るくしてくれる天窓。北側の採光が夕暮れまで満喫できる。南面採光に配慮しても、結局、眩しすぎてカーテンを引いてしまうのでは本末転倒。窓の性能を上げて、北側の安定した光を長い時間確保する方が得策。
by Bliss My HouseIdea
断熱性の高い窓を北側に配置することで、終日、眩しさのない安定した光を確保。
by CASA SCHWANCK
トップライトで北の光を得る
隣家の距離が近い、設計上大きな窓が難しいときなどは、天窓(トップライト)という選択肢もあります。
外国の童話では、屋根裏部屋や2階に天窓がある場面がよく出てきます。
日本の家でも、吹き抜け上部に設置するなどすると、屋内全体に光を配ることができます。
寝室の北側に設置すると、ベッドに横になりながら、星空を観賞することもできますのでおすすめです。
同じ大きさの窓でも、壁に取り付けた窓に比べ約3倍の光を得ることができ、窓の開閉は手動・自動の両方がランナップされています(ブラインドも手動・自動の両方があります)。
天窓に関しても、やはりヨーロッパが先進的で見本が少なくありません。私の取材したなかでは圧倒的にベルックス社製(デンマーク 1941年の創業)が多く、欧米ではでトップシェアを維持しており、施工実績がけた違いです。
展示場に行く機会がありましたら、「北」の光についてもご確認ください。
吹き抜けのトップに設置した天窓。終日、生活空間に安定した光を導く。電動で開閉できる製品も多く、ブラインドの設置も可能。
1.古い家では南向きの窓があっても、採光・熱の取得といったメリットが享受できるのは昼だけ。夜には昼間に取り込んだ以上の熱が窓から出てしまう。窓の面積が大きければ大きいほど、熱が逃げる量も多く、朝には外と同じような室温になっている。
2.大きな地震の際など、倒壊した建物の多くが開口部の面積の多い部分から前のめりで倒れることが少なくない。耐震性の面でも、壁よりも開口部を多く取るのはリスクが高まる。
3.窓の性能が高まっても、日本ではまだ掃き出し窓、引き違い窓が多くを占める。サッシの溝の凹凸がバリアになって、掃除のしにくさが問題で気密性も低い。片開き、ドレーキップなど他の窓も検討したい。
4.躯体の性能、窓の性能を向上することで、北側にも大きな開口を取ることが可能になる。北側採光は直射日光ではない分、温度上昇は少なく、夜明けから日没まで一日中光が安定している。
5.天窓は同じ大きさの窓でも、壁に取り付けた窓に比べ約3倍の光を得ることができる。