気候には、大・中・小、そして微気候があります。微気候というと難しく聞こえますが、わかりやすくいうと、庭や樹木、植物などがある地面近くで発生する気候のこと。私たちのごく身近にある小さいけれども確かな気象でもあり、これを利用すると自然で心地よい「涼」を家に導くことができます。
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気候にも大・中・小がある
気候風土の「風土」とは地形、水、土壌、植生、さらに歴史的な建造物なども含まれます。
「気候」は、その土地における気象の平均的な姿をいいます。
この気候にも、200〜4万キロ、高さ120キロくらいの広い範囲を扱う「大気候」、水平的広がりが200キロ以下の「中気候」、数キロ以下の気候をいう「小気候」があります。
もう一つ。
畑のあぜ,水田,林の前後,丘の斜面,あるいは家や室内など、狭い範囲の気候が「微気候」です。
身近な例でいうと、アスファルトに囲まれた敷地では、地面からも近くのビルからも暑さを感じますが、田園地帯、とりわけ水田の多いところに行くと、一帯の気温が低めに保たれていることがわかります。
田園地帯でよく見られる防風林や、屋敷林などは、温度、風、雨、雪などから田畑、家屋を守る、微気候を利用した知恵。
扇状地や平野に点在する屋敷林は日本の稲作農村を代表する「散居景観」をつくり、富山県の砺波平野、東北の「イグネ(居久根)」、出雲・簸川平野の「築地松」、沖縄の「フクギ(福木)」などは、日本を代表する気候景観といえます。
庭の樹木の日陰には下降気流ができ、冷やされた空気が地面に降りて、涼風となる。その涼風は日に当たると上昇して、樹木の下にかすかな風をつくる。また植物は枝葉の温度が上がり過ぎないよう根から水を吸い上げ、その水分を葉から蒸散させることで水分が空気中に放出され、周辺の外気温を下げる。町家に設けられている坪庭は、気温差により生まれる自然の気流をつくるための環境装置でもある。
表格子は外から中が見えにくく、防犯性も高い。開けっ放しにしておくことで家の中に風が通る。簾(すだれ)も目隠しをしながら風を通し、蒸し暑い夏を涼しげに演出してくれる。日射遮へいの機能もあり、視覚的にも涼やかな「用と美」。
微気候で涼を得た日本家屋
大気候、中気候、小気候は人間の知恵や技術で変えることはできませんが、微気候については、さまざまな工夫がなされてきました。
伝統的な町家では、坪庭がキーワードの一つ。
日の当たる部分と日陰をつくることで温度差を生じさせ、これに挟まれた室内に気流を発生させます。
地窓や欄窓など、高低差のある窓を活用し、微気候を活用する方法もあります。
玄関先に打ち水をすれば、建物と坪庭との間の気圧差で内部に空気が引き込まれます。
庭の植物が豊富であれば、たくさんの植物の葉の水分が蒸散されるときに周囲の空気を冷やし、その空気が地面を這うようにして涼しい風となり建物内に引き込まれます。
こんな場面でも「微気候」が計算されていたわけです。
庭にたくさんの植物を育てることで、そこで生まれた気候を家の中まで取り入れる工夫ができる。
地面と植物の間には静かだが微気候が生まれ、動いている。
縁側と庭は家の続きだった
縁側は半分が外で半分は中の緩衝エリア。
夏期は開ければ外気を入れて風を入れ、冬期は中間にある空気が断熱層となり、温熱環境を調整してくれます。
天窓は安定した採光を確保し、室内にこもった熱を逃がす役割も果たしてきました。
現代の住宅でも、庭に大きな落葉樹があれば、窓に入る日射を遮ってくれます。
冬は葉が落ちて日射を入れます。
庇を伸ばすなどして日射を遮る工夫がされていれば、暑い夏でも、涼しい微気候がつくられるでしょう。
トップライトは、町家の天窓同様、屋内にこもった空気を逃してくれるはずです。
庭木に覆われた庭は、視覚的に涼感も期待できます。
簾(すだれ)や葦簀(よしず)、格子戸などの工夫も、涼を呼び込むための先人たちの知恵。
古典的な技術ではありますが、現代の戸建て、マンションでも応用できる、粋な工夫でもあります。
●微気候のメカニズム:町屋タイプ
出典:ミサワホーム14「自然環境を活かした伝統的住生活の知恵」
機械設備の使用をできるだけ少なくし、日射の侵入を抑え、風の流れをつくって、涼を得るのがパッシブクーリングの基本。
樹木で日射のコントロールをし、植栽の微気候でつくられた涼感を屋内に導く。庭の植栽による蒸散効果でできた涼しい気流を地窓から導き、上昇気流を生み出して建物のなかを通し、2階などから排気するのが、本来の換気。現在は機械換気がメインだが、窓を開放して、自然の風を感じる歓びも大事にしたい。
- 緑陰の創出
- 照り返しの防止
- 打ち水の効果
- 十分な地中水分の確保
何もかも設備任せではなく、「人」が動く。それを補うための性能、設備という考え方が大事だと思っています。