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そして、私たちの「居場所」について。

【採暖と暖房】=日本にはなぜ、全館・連続(冷)暖房の家が普及しないのか。そして「床暖房」についての素朴な疑問と持論。

 

 

 

 

 

 

 

日本の住宅寿命は30年前後。欧米諸国の数分の1しかない短命な住宅のためにローンを組み、世代を超え、ほぼ全ての国民が住宅ローン完済に働き続けます。「100年住宅」という言葉を耳にしますが、実現まではまだまだ遠い道のり。また「100年」には憧れても「1000年住宅」はというと、心の中は複雑です。一向に高まらない省エネ意識と、耐久性との関係。そこには、日本人の生命観、生活文化も微妙に影響しているかもしれません。これまで「暖房」と思っていたことが実は、日本ならではの習慣、生活文化だったり、全く混乱してばかりなのです。

 

Contents. 

 

カビのある家が日本の標準?

もう10年以上も前。

東京の出版社で行われた編集会議でのことです。

 

20年以上の経験を積んだベテラン編集者が集まる会議でしたが、たまたま、日本では「100年住宅」や「カビのない家」「省エネ住宅」などできるはずがない、という雑談になりました。

 

結論からいえば、現代の技術で「100年住宅」も「カビのない家」も「省エネ住宅」も十分に実現可能です。

 

当時の技術でも100%できたはずですが、会議に出た人のなかで「カビのない家」に住んでいる人はゼロ。

なかには、「カビのある住宅が、日本のスタンダードじゃないの?」と真顔で述べる人もいました。「我が家は、梅雨になると、和室の畳が(カビで)青くなる」という人がいましたが、この方は工学博士でした。

 

一流大学を卒業し、素晴らしいキャリアを積んできた方ばかりでしたが、ここでも日本人の住宅観を目の当たりにしたように思った記憶があります。

 

99年に施行された次世代省エネ基準(※)は、その後いくつかの変更を経て、2013年に改正省エネルギー基準として施行されました。

しかし、ベースはいまもほとんど99年の「次世代省エネ基準」のままです。

 

外壁、屋根、天井、床、窓など「外皮」といわれる全体で断熱性能を評価し、消費エネルギーを給湯器や冷暖房、照明などの「一次エネルギー(石油・石炭など化石燃料、原子力燃料、水力等の)消費量」で換算し、太陽光発電などの自然エネルギーを加味して計算するなど、住宅を丸ごと一軒で、省エネの度合いを判断します。

 

国は2020年をめどにこの基準の「義務化」を目指してきましが、資源エネルギー庁が策定するエネルギー基本計画には、2020年までの省エネ基準への適合義務化を「段階的に進めていく」という方針に変わり、事実上、義務化は「見送り」になってしまったのです。

 

※次世代省エネルギー基準(ウィキペディア 2019.08.14現在)

次世代省エネルギー基準、もしくは、住宅の省エネルギー基準とは、1999年3月に、建設省により改正された日本の断熱化基準の通称である。 この基準により、先進国の中では最低だった日本の住宅の断熱基準が、やっと欧米基準の最低レベルに達するようになった。ただし、次世代省エネルギー基準も、多くの先進国の断熱基準よりゆるく設定されている上、法的拘束力がないため、日本の住宅の断熱化率は先進国の中でも最低である。 2010年にドイツで行われたパッシブハウスカンファレンスにて日本の次世代省エネルギー基準の値を発表したら会場から笑いが起こった。さらに、この基準が義務ではなく努力目標であり、住宅の30%以下しか達成できていない事を発言したら会場から失笑を買った。

 

 

●改正省エネ基準 (見直し前とは99年次世代省エネ基準)

資料:一般社団法人 日本サステナブル建築協会

 

 

資料:一般社団法人 日本サステナブル建築協会

資料:一般社団法人 日本サステナブル建築協会

※ここでは省エネ基準の詳細は割愛しますが、上記の資料がとてもわかりやすくまとめられていますので、ぜひご参照ください。

 

 

●義務化が期待される改正省エネ基準の考え方
 義務化が期待される改正省エネ基準の概要  資料:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構

資料:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構

 

 

 

 

 

 

 

温熱環境には無関心な日本人

次世代省エネ基準が策定される前後、東京大学や当時の厚生省、建設省などの関係機関を取材しました。

 

当時は、関係者、研究者の大方の意見が、基準そのものは「時期尚早」で「義務化などとんでもない」というものでした。

 

なかには基準を義務化すると、日本の地方工務店の7割が廃業を余儀なくされると指摘する研究者もいました。日本の技術は、欧米レベルの断熱・気密水準に追い付いていないというのです。

 

20年以上も前から、意識の高いビルダーさんとともに訴えてきたことが、いまもなお、実現されないことは残念なことです。

 

家には、人の誕生から教育、加齢、健康、福祉、環境などありとあらゆる要素が関わり、いずれも一定レベルで同時に具現されなくてはなりません。

 

省エネ性能も、家づくりを構成する要素の一つ。

 

冬は寒い家、夏は暑い家に住みたい人はいないはずです。

どうせ冷暖房するのであれば、より少ないコストで快適になったほうがお得でしょう。

 

20年でゴミになる家より、100年の寿命があったほうが家計面でも有利で、環境への負荷が少ないことも明白です。

 

こうした温熱環境、耐久性への関心がいまも高まらないのも、日本の住文化、日本人の住宅観の特徴といえます。

 

 

 

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日本の住宅を短命にする結露

EUレベルの省エネ基準の定着を願ってきたのは、単なる省エネ性能の向上だけが目的ではありませんでした。

 

省エネ性能を向上することで、温熱環境が整えられます。

専門的にいえば内部結露などの問題が解決することが多くなる、といった理由もあったのです。

 

ヒートショックなど、健康被害を防ぐ願いもありました。快適な環境で介護ができたら、という希望も抱いてきたのです。

 

理想の温熱環境とは、温度も湿度も制御可能jな室内環境をいいます。

 

ここでは簡単に説明しますが、目に見えるところに結露があれば、すでにその壁、天井、床など目に見えない部分にも、ほぼ100%の確率で結露が発生しています。

これが内部結露です。

 

結露は、水です。

 

水に繊維状の断熱材がふれると、湿気を含んでしまいます。水を含んだ繊維がいつも木材にふれるとどうなるでしょうか。

 

日本では木造住宅が多いので、家を支える構造材全体が弱ってきます。

腐ると言い換えてもいいでしょう。

 

欧米諸国の住宅寿命は軒並み70~120年ですが、日本の住宅は30年前後。

石造と木造の違いもありますが、日本では住宅を腐らせてしまう対策が、ずっとおざなりにされてきました。

 

リフォームなどで古い壁や床を剥がすと、例外なく、構造材が真っ黒になっています。

内部結露で腐朽したものです。

断熱不足、気流止めなどの欠損、間欠・部分暖房など、技術的なものと生活習慣が複雑に絡み合って、結露被害がまん延しました。

 

50年かけて育った木で建てた家を25年で廃棄してしまえば、自然のサイクルが狂います。

25年でゴミになるより、100年もつ家にすることで、単純計算ですが、100年間で廃棄される家は4分の1になるのです。

 

省エネ基準が全てではありませんが、少なくとも、熱も湿気も制御できない従前の住宅より高い寿命伸長効果が期待できることは証明されています。

 

昔の木造建築は何百年も、もっているではないか。

必ず、そういう意見が出てきます。

 

家の温度と外の温度を同じくし、通気を放任にする、つまり屋内をスカスカの状態にすることで、構造材は常に乾燥され、構造体の寿命は当然長くなります。

法隆寺は1300年以上です。

 

しかし、現代人はもはや、お寺のように、外の温度と同じ環境で暮らすことはできません。

 

少量でも断熱材を入れ、気密を意識したサッシを採用し、科学的な冷暖房設備を使って人工的な室内気候をつくり、外と家の環境を遮断したところで、こうした問題が生まれてきたのです。

 

30年のローンを組んでも、ローンが終る頃には、家も朽ちてしまう。

日本人が生涯あくせく働かなければならない背景には、住宅寿命の短さも大きく影響していると考えます。

 

 

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屋内に極端な温度差があると結露のリスクが増大します。いちばん温度差のあるところはどこですか? 外気と接する薄いガラス、熱伝導の高いアルミサッシ、断熱材の薄い壁など、ですね。

ガラスのコップに冷えた水を入れると途端に結露しますが、カップ麺の容器に冷水を入れても容器に結露がないのと同じ理屈。カップ麺の容器が厚めの断熱材と考えればいいでしょう。

結露はカビを発生させ、そのカビを餌にするのがダニです。ファンヒーターなどの開放式の暖房設備は灯油1リットル消費時に同じくらいの量の(汚染された)水蒸気を屋内に排出します。

健康面でのリスクを考えると、なぜ、日本にはこんな家が野放しにされているのか悲しくなります。

 

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欧州の家は大半が高断熱・高気密仕様でリノベーション。UA値は省エネ基準の北海道仕様を軽く超える。

 

 

 

 

 

 

 

空間=房=を暖めるから暖房

焚き火や囲炉裏は、手をかざしたり、身体を近くに寄せて暖を採る。

これが採暖です。

寒い空間のなかで下半身だけを暖めるコタツも採暖です。

一方、暖房とはその名の通り「房=空間」を「暖める」手法です。

 

日本の家は伝統的に「夏を旨」として発展してきたため、家は外を意識して開放され、

熱的に内と外を明確に区別することをしてきませんでした。

開放的に建てられた家では熱は逃げ放題であり、快適を得られにくいことを誰もが知っています。

 

採暖と暖房の大きな違いの一つは、温度分布にあります。

断熱性が低く、冷たい壁面や隙間風、隣室から侵入する冷気など温度むらが防ぎようもない状態では、採暖でも暖房でも多くのエネルギーを消費する力任せの暖房器具が必要となります。

 

性能の低い家では、それをごまかすために床暖房を採用するケースも多くありました。床暖房も採暖です。

コタツと同じように局所的にその場を暖めるだけなのです。

 

高断熱・高気密が徹底された北海道では、電気などの弱い熱源でも床面の温度は20℃前後となり、床暖房の必要性はありません。

 

事実、床暖房は普及していないのです。

構造躯体の性能を上げることで床や壁、天井の表面温度が一定になることを、ビルダーはもちろんのこと、依頼する施主も熟知しているからといえます。

 

欧米では、開口部近くに温水パネル、ラジエータを設置して窓面からのコールドドラフトを防止しながら、室内を暖める方式が主流です。

 

床暖房があったとしても、エントランス(玄関)などが多く、なかでも積雪の多い国では、濡れた靴を乾燥させる目的で玄関だけを床暖房にするケースが多かったように記憶しています。

 

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EU諸国では、全室どこでも20℃前後の室温が維持されることが住まいの大前提であり、だからこその「省エネ」が徹底される。新築でも中古でも、こうした条件でどのくらいのエネルギーが消費されるかを明示するエネルギーパス制度が普及している。ちなみに、床暖房の住宅はほとんど見たことがない。

 

 

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発熱体を皮膚につける床暖房

日本では、レベルの高い高断熱・高気密にして床暖房を推奨するビルダーも存在します。

UA値が0.2~0.3前後と高く、床面の表面温度が人の体温以下にすることが可能であれば、理想に近い輻射環境を得ることも可能かもしれません。

 

しかし、いくら生活が洋風化したとはいえ、日本の家は玄関で靴を脱ぎ、皮膚を床に接しながら生活する「座」の文化です。

 

個人的には、いくら低温とはいえ、発熱体に皮膚をつけて生活することはご辞退したいというのが本音。

高齢者であればなおのこと、在宅時間が長くなり、床面に皮膚を接する時間も多くなります。

別の健康被害が考えられないのか、今後の研究成果を期待したいところです。

 

もう一つ、目に見える場所に設置されたラジエーターなどはメンテナンスや故障時の修理も容易ですが、床材の下面が発熱体となる床暖房に不具合が生じた際、いったい、どうやって修理をするのでしょう。

ラジエーターやエアコンの修理とは比較にならない大工事になりはしないかと、不安になってしまいます。

 

日本の家で、採暖や部分(冷)暖房が主流だった理由は、構造躯体全体の断熱・気密性能が低いため、自分の居場所のみを冷やしたり暖める手法のほうが経済的であるという誤った考えによるものといえます。

 

冷房時などは、扇風機をエアコンに替えただけで、ほぼ部分冷房だけであり、全館を快適な温湿度に保とうなどと考える人はまだまだ少数のはずです。

 

構造躯体全体を高断熱・高気密化することで屋内全体が一つの空間となり、設置場所にもよるものの、エアコン1台でも玄関から2階の押入の隅まで同じ温度にすることが可能となります。

 

個室がたくさんある場合は、必要時以外はドアを開放しておくことなど(熱を意識したデザインにもよる)が前提ですが、個室に冷暖房機器を分散する場合でも、最小限の設備で十分となるわけです。

 

全館どこにいても快適であることはもちろん、温度差を移動するときに誘発される脳卒中などのヒートショックの予防も期待できる。

要介護状態になってもパジャマ一枚で朝から夜まで過ごすこともできる。

温度差がないことで結露も解消され、カビやダニの問題も少なくなるわけです。

にもかかわらず、こうした熱の仕組みが理解されないのは、日本に住教育がなされていない証拠でもあるでしょう。

 

 

 

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連続して暖めたり冷やされた屋内では、壁、床、天井などはもちろん、家具や家電製品の果てまで、存在するものすべてが輻射熱を蓄える。連続した冷暖房では温度も一定になる。せっかく暖まったり冷えたりした屋内の輻射熱を逃がさないための高断熱・高気密でもあるのだ。壁や床、天井などの断熱・気密性が低いと、熱を蓄えることが難しいことから、いくら室温を調節しても一向に暖かさも涼感も感じられず、多くのエネルギーが必要となる。

 

 

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「日本は部屋の空気を暖めるが、欧米は建物を暖める」といわれる。冷暖房の設備容量(最大出力)は小さくても、連続運転することによって屋内全体の蓄熱性を最大限に引き出すことができ、温度調整機能(サーモスタット)を上手に利用していけば、おのずと消費エネルギーは低いレベルで一定に維持され、24時間連続運転しても、オンオフをこまめにするのと経済性は変わらない。参照/「家は夏も冬も旨とすべし」(加藤大志朗 日本評論社)

 

 

In summary

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欧米の住まいでは、全室の窓下に温水を循環したラジエータが標準装備(窓面の下をよくご覧下さい)。70年、80年前の欧米の映画でもいいので、画面に出てくる室内をじっと観察してみて下さい。全室の窓下に温水のラジエータが備わっていることが分かります。「寒くないこと」は人間の最低限の生活の条件であり、人間の尊厳であり、なくしてはいけない文化だったのです。by Bliss My HouseIdea