Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【暖房】=体感温度は温度計の温度ではなく「輻射熱」を目安にする。

 

 

 

 

 

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空気の温度と体感温度は全く違います。聞いたことはあるのですが、実際、ほとんどの人はこのことを理解していません。理解していないからこそ、無駄な暖房、冷房エネルギーを消費し続け、高い光熱費を支払いながら、不快な環境で暮らし続けているのです。

 

Contents.

 

日本人は「暖房」を知らない

昔の暖房といえば、焚き火や囲炉裏。

私、そんな古い時代の生まれじゃないという人でも、ストーブで身体を暖めた経験はあるはずです。

 

手をかざして、身体を近くに寄せて、暖を採る。正確には「暖房」ではなく「採暖」といいます。

足腰だけを暖めるコタツも採暖の一つで、日本の伝統的な暖房手法であり、日本特有の暖房文化です。

 

寒い屋外から家のなかに入り、強い熱に身体をかざすと、快感に近い暖かさを感じます。

しかし、すぐに暖かさは熱さに変わります。身体の裏側は暖まらないままでいることに気づきます。

 

顔も手も、熱源に近付けないほど熱さを感じますが、背中はぞくぞくしたままで、少しも暖まりません。

コタツに入っていると、背中が丸くなるのも、身体の裏側が寒いからです。

 

このとき、身体の裏側は暖まるどころか、壁や天井、床面からの冷たい隙間風や放射熱をまともに受けて、冷却され続けているのです。

 

身体を循環する血液は表面で熱せられ、裏側では冷却されるの繰り返し。

心臓や血管に強いストレスを与え続け、健康的ではないことは誰でもわかります。ヒートショックの原因にもなるでしょう。

 

外から帰ってすぐに快感を感じたはずの暖かさは、数分経つと、すでに不快でしかなくなってしまうのです。

 

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冷暖房をオン・オフする無駄

日本人の歴史のなかで屋内全体を暖めることは有史以来、経験したことがあったでしょうか。

 

1000年前も、50年前も、現在も、私たちは自分の近くに暖房機を置いて、身体の表面だけを暖めようとしているのです。

 

冷房も同じです。

 

自分のいる場所だけを涼しくすれば満足で、その他の部屋はもったいないからとエアコン運転は止めたまま。

家のなかに、(中途半端な)冷房空間と熱帯空間が同居しています。扇風機などは典型的な「採暖」ならぬ「採冷」です。

 

同じ屋内での温度差は、やはり結露やヒートショックの原因となり、健康的とはいえません。

結露はカビを呼び寄せ、カビはダニの温床となり、年中、アレルゲンをそばに生活することになります。

 

採暖と暖房が異なるように、冷房にも暖房にも全館冷暖房と部分冷暖房があります。

全館冷暖房とは屋内全体を冷房したり暖めたりする手法で、部分冷暖房とは個室単位に冷暖房設備を設置し、冷暖房します。

 

日本では圧倒的に後者が多くを占めます。

 

日本の家で部分冷暖房・間欠運転が主流だった理由は、躯体の断熱・気密性能が低かったため。

自分の居場所だけを涼しくしたり、暖めるほうが経済的であるとの考えによるものでした。

 

逆をいえば、日本人はこれまで、設備に頼らず、建築を自然界に開きながら、涼しさや暖かさを得る手法を工夫し続けてきたのです。

 

先人たちの知恵には頭がさがるばかりです。

 

その建築技術は現在でもパッシブデザインとして応用できる高度なものですが、自然界にはないもの=冷暖房機器(エアコンなど)に依存するようになってから、家を閉じる=断熱・気密=に建築手法が転換されます。

 

とはいえ、まだまだ日本の家の断熱・気密性能は発展途上で、熱の出入りのある構造で冷暖房は、就寝時も外出時もスイッチはオフとされ、起床時や帰宅時は、寒くなった、暑くなった空間をまたゼロから暖め直す、冷やし直すを繰り返しています。

 

建物は少しだけ進化したのに、この手法は数百年前と同じです。

根底にあるのが、採暖文化のDNAです。

 

断熱・気密性能を求める建築では、発想も手法も変えないと、快適さも得られず、省エネにもなりません。

ここでもう一度、発想の転換が必要となるのです。

 

 

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ヨーロッパでは100年近く前に建てられた古いアパートでも、窓際に暖房用のラジエーターが標準で付いている。窓から逃げる熱の多さとコールドドラフトを理解しているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

体感温度と省エネとの関係性

温度というと、空気の温度だけと思われがちですが、床や壁、天井などの表面温度、相対湿度、空気の対流やその速さ、輻射熱の量などで、体感温度は違ってきます。

 

以前も述べましたが、体感温度は(表面温度+空気の温度)÷2で求められます(ほんとうは、湿度や気流なども加味します)。

 

断熱・気密性能を向上させた家では、屋内の表面温度が安定していることから、エアコンなどで空気の温度をそれほど高く設定しなくても快適な空間となり、夏期もキンキンに冷やすほどの設定をしなくても、涼しい空間をつくることができます。

 

以下に冬と夏の例を示します。

 

※例 冬の場合(暖房時)

・断熱・気密性能の低い家で、エアコンなどを間欠運転する場合は、表面温度が(外気温に冷やされて)低いままなので、エアコンを26℃設定にしても体感温度は18℃のまま。

(表面温度10℃+エアコン設定26℃)÷2=体感温度18℃

 

・断熱・気密性能の高い家で、エアコンなどを連続運転する場合は、表面温度が一定なので、エアコンを20℃設定にしても体感温度は20℃のまま。

(表面温度20℃+エアコン設定20℃)÷2=体感温度20℃

=暖房時、26℃設定と20℃設定とでは、どちらが省エネですか?

 

※例 夏の場合(冷房時)

断熱・気密性能の低い家で、エアコンなどを間欠運転する場合は、表面温度が(日中の日射により)高いままなので、エアコンを20℃設定にしても体感温度は30℃のまま。

(表面温度40℃+エアコン設定20℃)÷2=体感温度30℃

 

断熱・気密性能の高い家で、エアコンなどを連続運転する場合は、表面温度が一定なので、エアコンを28℃設定にしても体感温度は20℃のまま。

(表面温度30℃+エアコン設定28℃)÷2=体感温度29℃

=冷房時、20℃設定と28℃設定とでは、どちらが省エネですか?

 

 

 

 

 

 

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北海道の新築物件では、全館暖房がスタンダード。エアコンも増えてきたが快適性では温水パネルによる輻射熱暖房の快適さに及ばない。デザインも自在にできる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

エアコンの間欠運転で熱中症

気密性能が高ければ高いほど換気のルート、量が計画的に制御でき、空気の質は24時間変わることはありません。

 

換気の影響で、屋内の熱を逃がしてしまうのではという疑問もあるでしょう。

しかし、高断熱・高気密化された屋内では、連続して屋内の表面=壁・天井・床面・家具など=を冷やしたり、暖めたりすることで、熱は屋内側に蓄積され、空気の温度に左右されずに、プールされた輻射熱で穏やかな冷暖房空間となりやすいのです。

 

暖房の感覚はお日様の暖かさ。冷房の感覚は高原の爽やかさに近い、といったらイメージがつかめるでしょうか。

 

エアコンなどを連続運転しても、サーモ機能で温度が一定に保たれますので、オン・オフを繰り返す間欠運転よりエネルギー効率は高く、電気代も抑制されます。

 

仮に、間欠運転時と同じ電気代としても、24時間同じ温度に維持された空間のほうがはるかにコスパが高いことはいうまでもありません。

エアコンメーカーなどのHPでも、間欠運転と連続運転を比較しているサイトがありますので、参考にしてみるのもいいでしょう。

※ダイキン(一例です)

 

夏になると熱中症のことが毎日のように報道されますが、屋内では朝方に死亡者が多い

原因の一つは、夜間にエアコンの運転をオフにすることで、日中に蓄えられた熱が屋根や壁からじわじわと朝方まで放射されるからです。

 

ある程度の断熱・気密性のあるRC構造(マンションなどの集合住宅)ではなおのこと、コンクリートや鉄筋に膨大な熱がプールされますので、屋内側から熱を侵入させない意味でも冷房の連続運転は欠かせません。

 

特に日中、留守中のエアコン稼働がカギになります。

 

この際も、先に述べたように、設定温度になるとエアコンが運転を止めてくれますので連続運転といっても、エネルギーの垂れ流しになるわけではないのです。

 

冬期は室内を暖めるというのではなく「寒さを取り除く」、夏期は「熱を取り除く」程度が本来の冷暖房のかたちといえます。

 

RC造でも木造でも、高断熱・高気密化することで、連続運転でいったん保たれた温熱環境は外気の影響を受けにくくなり、一定温度になってしまえばこっちのもの、という感じになります。

 

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全館暖房といっても、居室と洗面、玄関などの温度は18℃前後でも十分に暖かい。暖房の基本は暖めるのではなく「寒さを取り除く」ことにある。

 

 

 

 

 

 

 

先進国では最低の省エネ基準

 先進国では最低レベルの

ここでも何度かふれていますが、改めて今回も書き留めておきます。どのくらいの断熱・気密性能が必要なのかを最初に数値で示したのが、1999年に施行された国の次世代省エネルギー基準です。

 

基準では地域によって細かく熱損失係数(Q値)や隙間相当面積(C値)を定めていて、北海道ではQ値1.6W/㎡・K、C値2.0㎠/㎡以下、東京ではQ値2.7W/㎡・K、C値5.0㎠/㎡という数値が示されました。

 

数値は2020年の省エネ基準義務化に向けても指標とされ、現在の改正省エネ基準ではQ値がUA値(外皮平均熱貫流率)に置き換えられ、北海道では0.46W/㎡・K、東京0.87W/㎡・Kという数値が示されています。

 

いずれも数値が小さいほど性能が高いことになりますので、展示場見学などの際には必ず、この数値を担当者に確認します。

 

温度というと空気の温度と思われがちですが、実は、建築の性能によって大きく左右されることを、私たち日本人は最近になって知ったばかり。

 

EU諸国では、新築も中古も、戸建ても集合も全ての住宅に、健康的な温熱環境をベースに年間どれくらいのエネルギーが消費されるかを表示する「エネルギー・パス」制度が定着しています。

 

ここで大事なことは、「屋内全てが20℃前後(冬期)という温度に設定して」という前提でエネルギー消費の表示を義務付けしていることです。

 

クルマにも安全性能、省エネ性能などがあるように、家にも性能があり、その性能によって、体感温度も快適さも光熱費も大きく変わってきます。

 

日本は技術先進国ですが、こと住宅に関しては、いまも、どうなのかしらと考えてしまいます。

 

2020年に省エネ基準が義務化される予定ですが、基準は20年前の水準のもので、国際的には欧米基準の足元レベルに過ぎないことを、ここでも繰り返し検証したいと考えています。

 

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 脱衣場こそもっとも無防備になる空間。弱い熱を連続して配る。

 

まとめ
1.身体の表面だけを暖める手法は「暖房」ではなく「採暖」。身体に強いストレスを与え、省エネにも逆行する。

 

2.日本ではもともと屋内全館を冷暖房する発想はなく、必要な部分だけを必要なときにだけ間欠的に冷暖房する手法が主流だった。

しかし、断熱・気密性を向上させると、全館冷暖房+連続運転でも省エネで高い快適性を得ることができる。

屋内の温度分布が均一だとヒートショックの予防や在宅介護の際にも、温度のバリアフリーとなり大きな効果を発揮する。

 
3.(表面温度+空気の温度)÷2=体感温度
断熱・気密性能を向上させた家では、屋内の表面温度が安定していることから、省エネで快適な冷暖房空間ができる。
 
4.断熱性能を示すUA値(外皮平均熱貫流率)の目安は、北海道0.46W/㎡・K、東京0.87W/㎡・K。
東京以西でも北海道仕様の性能とすることで、劇的な光熱費の削減が可能となる。
 

5.古い住宅でも30℃、31℃など高めの温度設定で連続運転を試してください。もちろん、留守中もオンのままです。マンションなどのRC構造には最適な方法です。帰宅して35℃などになっているより、30℃のほうがまだ快適さを感じるはずです。これを数日繰り返すことで、壁にも天井にも、家具にも熱が滲み込んでくることを防いでくれます(滲み込むという表現はわかりやすくするために使っています)。連続運転で外からじわじわ侵入してくる熱を跳ね返す、そんなイメージです。そうすると、壁や天井や家具などが設定温度に近付きます。空気の温度が仮に35℃のときは、鐘や天井などはもっと熱いのです。


次第に、屋内が設定温度に近い表面温度(壁や天井、床などの温度平均)に近付いてきます。こうなると以前の30℃といまの30℃と同じ温度でも違いがわかります(体感温度 参照)。

建物の構造にもよりますが、湿度も低くなり、カビも少なくなるなどの効果も期待できます。

できれば猛暑の前のこの季節に試していただき、電気代を確認しておきます。
以前よりいくら高くなっているか。
仮に1000円、2000円高くなっていたとしても、健康やストレスフリーを維持するためのコストと捉えれば、コスパはかなり高いと思われます。
 
冬期の暖房もまったく同じ考えで、連続運転が基本です。機械に依存する以上「採暖」は省エネと健康によく作用しません。