Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【室内気候】=家は「第三の皮膚」。四季を通じて健康的な温湿度を保つために。

  

 

 

 

 

 

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家にも衣服にも気候があります。暑い季節は涼しく、冬は少しでも暖かく。住まいは人を守る皮膚であり、衣服であり、シェルター=器としても、多くの機能を求められます。いわば第3の皮膚。寒さから人を守り、健康にダメージを与えない暖かさがほしくなる季節。「室内気候」という言葉をはじめ、私たちは熱や温度について、意外に知っていることが少ないことに気づくのです。

 

Contents.

 

住宅・衣服にも「気候」がある

室内気候という言葉があります。

 外の気候に対するもので、簡単にいうと、人が住むための空間の内部の気候のことをいいます。

 

原始時代の洞窟の住居も、雨風をしのいで外界とは異なった室内気候を形成していました。

現代では、断熱・気密などの住宅性能を高めて高効率の設備を導入し、人工的な室内気候を創出しています。

 

同じ室内気候でも、冬はコタツにしがみつくような状態もありますし、外が寒くても軽装で活動できる環境もあります。

夏、24時間暑い室内もあれば、24時間、同じ温湿度の室内もあります。

 

日本の住宅では、自然エネルギーを利用したパッシブデザインにも、古くから取り組んできました。

 

衣服にも「気候」があります。

文字通り、「衣服気候」といいます。

 

暑いときには半袖などの軽装、寒いときには厚着。

中間の季節は、脱いだり着たりできるカーディガンなどで、こまめに調節します。

 

衣服の量や質をコントロールすることで、衣服気候をつくり、快適さ、健康的な温度を得るわけです。

 

暑いときには軽装と書きましたが、砂漠の民はいまでも、頭には白や縞模様の布(ガットゥラ)を巻き、身体はすっぽりとした服(カンドーラ)で覆います。

 

暑くないのかなと考えたりしますが、太陽や地表からの輻射熱を防ぐために皮膚と衣服の間に微小空間を作り出し、温度を調整しているのです。

 

 

 

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岩手県のホームスパン工房。食材や住居と同じように、衣服にもその土地ならではの気候風土に沿ったデザインと機能がある。

 

 

 

 

 

 

気候と衣服と文化と機能の関係

ベトナムの女性たちはアオザイを着ます。

アオ(襖)は上衣の一種を意味し、ザイは「長い」を意味する形容詞で「長上着」です。

 

色っぽくて素敵です。

一度来たら、Tシャツなどよりずっと涼しいと、女性たちは口を揃えます。

 

インドのサリーやクルタパジャマも、涼しい衣装。

インドには数カ月滞在しましたが、現地に着くとクルタパジャマを購入し、滞在期間はずっとインド人と同じ姿で過ごしました。

慣れるとTシャツに短パンなどより快適で、日本でも夏の正装にすればいいのではないかと真剣に考えたほどです。

 

日本の着物は、襟元をゆったりとさせ、袖口や裾から風が抜け、脇には身八つ口という風穴まである構造です。

 

暑苦しそうに見えますが、身体をゆるく覆うことで風の抜け道を確保するあたり、カンドーラやアオザイと同じです。

 

浴衣などは素材も機能も、完全に夏向きで、機能が美を備え、文化を形成していることに、改めて感心します。

これこそ【用と美】の極致といえそうです。

 

最近は、吸汗機能のあるものや発熱機能、冷涼機能のあるものなど温度調整機能を有した衣服が増えています。

冬には厚着をしなくても、ほんわか温かい感じがしますが、どうもあの肌触りが好きになれません。

 

夏は夏でドライ機能やひやっとした感触の下着があります。

これらも、苦手です。

 

木綿や麻など、自然の素材のほうが自分には合っている気がします。

木綿の吸湿性は8.5%でポリエステルは0.4%。

 

雪山登山、スキーのときなど、寒いときに汗で濡れると体温が奪われ、危険な場面もありますが、夏は肌触り、耐久性などの面で、木綿や麻が好きです。

 

 

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CASA SCHWANCK

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欧米人と体温や汗腺の数は違う

室内にも衣服にも気候があるわけですが、私たちの身体もそれぞれ独自の気候を有しています。

しかも、全自動に近い精巧なシステムです。

 

頭や心臓のあたりは、暑くとも寒くとも温度が一定に保たれます。

皮膚の表面温度は寒いときには血管が収縮して熱の放散を少なくします。

暑いときには皮膚への血流量を増やして熱の放散を多く、調整してくれます。

 

1日にかく汗は最大12リットルにもなりますが、常に蒸発しているので、あまり自覚はありません。

 

自覚できる汗は、暑いときの汗や恐怖を感じたときなどの冷や汗で、この汗も一般には夏の打ち水のように、皮膚の表面から蒸発熱を奪って温度を下げます。

 

面白いことに、人間は汗が出てくる瞬間を感知できません。

汗が噴き出すときではなく、流れたり、滴ったりするときに、汗を感じるのです。

 

汗腺は生後2歳半までに数が決定するとされ、暑い地域で生まれ育った人は、寒冷地の人より多くの汗腺があり、その逆もしかりです。

 

ちなみに、フィリピン人の汗腺は280万個、日本人は230万個、ロシア人は190万個と地域性が表われていることに気づきます。

 

参考ついでに、欧米人の平均体温は37度強で日本人は36.2度前後。

ロシア人の友人がいますが、来日して20年経ったいまも、日本の夏の暑さには馴染めないといいます。

 

日本人の女性と結婚したのですが、奥さんはたいへん。

夫は冬は20℃くらいの室温でもTシャツを着ていて、あまり暖房を使わない。

夏はエアコンを20℃以下に設定して、毎日凍えるような日々。

 

同じ室内気候でも、出身地によって、温湿度のコントロールが異なるのは興味深い話です。

 

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身体・衣服に次ぐ「第三の皮膚」

量販店で買った格安の衣服でご満悦の人もいれば、なかには高級ブランドでないと気の済まない人もいます。

 

以前、話をうかがったクリーニング店のご主人は「海外の有名ブランドだからといって、いいことばかりじゃない」と断言します。

 

四季を通じて乾燥し、夏もそれほど暑くならない欧州でデザイン、生産された衣服は、高温多湿の日本の夏に不向きな製品が少なくない、というのです。

 

デザインは一流かもしれません。

が、欧州とは比較にならないほど大量の汗をかく環境で、連続して着衣し、複雑なクリーニングを繰り返す。

 

このことで高級感は期待するほど長持ちしない、つまりコスパは低い、という話は納得する部分もあります。

 

住宅にも似たようなことがいえます。

デザイン優先の住宅が人気ですが、室内気候が考慮されているかどうかの見極めこそ重要です。

 

衣服とは比較にならないほど長期間使用に耐える構造、複雑なメンテナンスが要求される素材。

 

これらは基本の基本。

新築、リフォームの際には、ぜひとも確認したいところです。

 

住宅は身体の皮膚、衣服に次ぐ、「第三の皮膚」です。

 

生まれながらに授かった身体の温度調節機能、衣服気候、室内気候。

これらの3つのバランスが、快適で健康的な暮らしの基本といえそうです。

 

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身体をセンサーに快適さを計る

取材などで新築の物件にうかがいますと、その物件の熱的な性能が身体で分かることがあります。

 

室温(温度計の示す温度)は高くても身体のどこかかに冷えを感じる。

室温は低くても少し動いただけで、汗ばむほどの暖かさを感じる。

 

すぐに喉がカラカラに乾燥する家。

なぜか、呼吸が楽な家。

すぐに目が疲れてドライアイのようになる家など、さまざまな家がありますが

その都度、身体が正確なセンサーであることを実感します。

 

撮影の際には、

屋内空間全てを移動しますので温度差がある場合は、すぐに身体が反応します。

 

その温度差も、心地のいい温度差もあれば、たった1、2℃の差でも不快に感じるような温度差もあります。

断熱性が高いほど、1、2℃の温度差が分かるのです。

 

あらかじめ、UA値やC値などを把握していても、実際に、その場に滞在すると、同じ数値でも快適性が大きく違って感じることが少なくないことは、きっとどなたにも分かるはずです。

 

それだけ人間の身体のセンサーは正確にできているのです。

 

 

※出典 資源エネルギー庁

 

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伝導・対流・放射の違いとは?

身体が感じる熱のバロメーターの一つは輻射熱です。

この輻射熱、自分のなかでも、こんがらがってばかりで、なかなか整理がつきません。

 

ずっと昔、学校で熱の伝わり方には、「伝導」「対流」「放射」の3種類があることを習いました。

 

例えば、ガスコンロでフライパンを熱すると柄のほうまで熱くなります。

これが「伝導」です。

 

エアコンなどで温風や冷風を放出し、室内に強制的に風の流れを起こして暖めたり、冷房したりするのが「対流」。

 

「放射」。

これを説明するのは少々やっかいです。

いちばんわかりやすいのが、太陽や鋳物ストーブ、七輪などの炭火からの熱。

温度の高いものから出た熱が、空気中を通って届くこと、といったところでしょうか。

 

この「放射」は「輻射」ともいわれ、

「物体が電磁波の形でエネルギーを放出すること」

「物質を介さず温度の高い方から低い方へ熱が伝わること」

などといいますから、また混乱。

 

電磁波と熱はどう違うのか、電磁波って身体に悪くないのか、そんな疑問もアタマをよぎります。

 

 

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真冬でも太陽が暖かい理由とは

科学の世界でいいますと、あらゆる物質がその温度に応じた電磁波を放射しており、私たち人間からも放出されているといいます。

 

テレビなどで、熱カメラ(サーモグラフィー)の画像を見たことがあるでしょう。

あれは人体が放射している遠赤外線などの電磁波を赤く表わしたものです。

 

気温が低い日でも、お日さまがあたると暖かく感じるのは、太陽から放射された電磁波=遠赤外線を身体が吸収しているから。

 

軒下などに移動して日射を遮ると、暖かさは感じません。

「放射」(輻射)が遮られるからです。

 

放射される電磁波は、正確には熱ではなく、人間の身体のような有機物に吸収され、

吸収されてから熱に変わる性質を持っています。

だから、周囲の温度にはあまり左右されず、暖かさを感じるのです。

 

 

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by Bliss My HouseIdea

 

 

 

 

 

 

あちこち移動する輻射熱の活用

熱は物質の表面を暖めますが、放射される熱の代表でもある遠赤外線は、物質の内部を暖めます。

 

炭火焼などは、表面が焦げていなくても中味は熱が通っているという、あの理屈です。

 

遠赤外線は、太陽からも放射されています。

日焼け、日焼けによる皮膚の老化、熱中症などになるのは、同じ電磁波でも近赤外線や紫外線が原因なのです。

 

太陽の光でも、人体にいいものもあれば、そうでないものもありここでも混乱してしまいます。

 

遠赤外線によって、物体の表面温度が上がってできた熱が輻射熱。

輻射熱は別の物体に当たると、そこでまた新たな輻射熱を生み出します。

 

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Photos by Sweet Potato..

北海道の厳寒期でも利用できるという寒冷地向けエアコンも人気。エアコン暖房も間欠運転は禁物で、連続運転することで初めて室内の輻射熱を活用でき、省エネとなる。

 

 

 

 

 

 

 

弱い熱を連続して室内に溜める

例えば床や壁から遠赤外線が放射された場合は、室内の家具、天井、家電製品に至るまで、ありとあらゆるところに

遠赤外線が当たって、そこで輻射熱が生み出されます。

 

しかし、壁や床、天井などの断熱が悪かったり(冷たかったり)、いろいろな場所から

冷たい隙間風が吹き込んでくると当然、暖まる暇がありません。

 

直接空気を暖めないため、暖かさを感じるまでの時間が長いというデメリットはありますが、弱い熱(遠赤外線)でも途切れることなく、連続して放射し続けることで、室温はさほど上がらずとも、暖かく感じることができるようになるわけです。

 

エアコンは対流方式であることを先に述べましたが、それでも連続して熱を配って室内の内側全体にそれを溜め込むことで、輻射熱による暖房空間=室内気候ができます。

 

ここでも、高断熱・高気密が大原則です。

 

 

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Photos by Sweet Potato.. 断熱性能の高い窓でも壁などに比べると冷輻射が多い。それを遮るために、窓下に温水パネルを埋め込む方法もある。

 

 

 

 

 

 

空気を介せず伝わる「輻射熱」

暖房効果を上げるためには、石やレンガ、コンクリートなど、温まりにくい、冷めにくい物質に蓄熱することも大切な要因です。

 

ヨーロッパの家は伝統的に石を素材としてきましたので、おのずと輻射熱による暖房効果を得ていました。

 

アメリカ、カナダなど北米で木造住宅が主流でしたが連続して熱を配り、屋内に蓄熱するといったことが生活文化として根付いていたことが、日本の家とは異なるところです。

 

断熱性の低い屋内を換気しようとすると、すぐに暖まった空気が外に出て、寒くなってしまいます。

 

しかし、高断熱・高気密の空間では連続して熱を配り、輻射熱を溜め込むことでちょっとやそっとの換気でも、体感温度が急激に下がることはありません。

 

厳寒地の厳寒期に何度も試したことがありますが外がマイナス10℃の日にリビングの窓を10分ほど全開にしても、窓を閉じてから10分も経てばほとんど開ける前の室温を身体で感じることができます。

 

空気を媒体とせず、熱が伝わる輻射熱ならではの特性です。

空気を暖めることでしか暖房をしてこなかった日本人にはなかなか実感するのが難しいかもしれません。

 

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ほんとうに快適な家の気候とは

同じ性能でも、熱を溜めこむ素材をどこに、どのくらい使用しているかでも暖房感は違ってきます。

 

もちろん、暖房設備の種類や連続暖房の有無でも、大幅に違ってくるのです。

 

私たちが撮影の際に感じる感覚の違いも、そういった違いから出てくるものと思われます。

 

しかし、どんなに高い性能、輻射環境を誇る家でも、感じのわるーい家人がいたりすると、途端に身体もココロも冷え込んでしまいます。

 

理想の暖房空間、室内気候の最後の決め手は、そこで暮らす人たちの思いやりの心かもしれません。

 

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まとめ
1.室温(温度計の示す温度)は高くても身体のどこかかに冷えを感じることがある。UA値やC値の性能値がよくても、体感する快適さは異なる。
 
2.熱の伝わり方には「伝導」・「対流」・「放射」の3種類がある。この中でもっとも快適な暖房感は「放射」による熱=輻射熱。
 
3.輻射熱は物体に吸収されてから熱に変わる性質を持ち、周囲の温度にあまり左右されずに、暖かさを感じやすい。
 
4.暖房機などから遠赤外線が放射された場合は、室内の家具、壁、天井、家電製品に至るまで、遠赤外線が当たって、そこでまた輻射熱を生み出す相乗効果が得られる。弱い熱(遠赤外線)でも連続して放射することで、室温はさほど上がらずとも、快適な暖房感を得やすい。
 
5.エアコンは対流方式だが、サーモスタットを利用して連続して熱を配ることで省エネで室内全体を暖め、輻射熱による暖房空間ができる。
 
6.暖房効果を上げるためには、石やレンガ、コンクリートなど、温まりにくい、冷めにくい物質に蓄熱する工夫も必要。
 
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誰もが、最期の時間まで、住み慣れたわが家で過ごしたいと願っています。しかし、その願いが叶えられないのは、なぜでしょう。介護から在宅緩和ケアまでのシステムは整っていても、ベッドの置かれた環境が、夏は猛暑、冬は凍りつくような寒さだったら、介護のしやすい面積、建具があったら――などを考えるのが居住福祉。これらの著書は建築的なところまでは言及されていないものの、人間らしい最期を迎える「在宅医療」のためのノウハウを学びました。