Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【小岩井農場】=ラリツクス いよいよ青く 宮沢賢治

 

本棚の奥から引っ張り出してきた
ちょっと埃の被った
宮沢賢治全集Ⅰ(ちくま文庫)。

ここ数日、改めて『春と修羅』を読み耽る。


長い間、難解だと思い込んできた言葉の束が、
実はとても平易な表現で
この人の宇宙観を語っている。
そんなふうに肩の力を抜いて、読めるようになった。

 

『パート四』と『パート六』の最後の言葉がとても好きだ。


みちがぐんぐんうしろから湧き
過ぎて来た方へたたんで行く
むら気な四本の桜も
記憶のようにとほざかる
たのしい地球の気圏の春だ
みんなうたつたりはしつたり
はねあがったりするがいい  『小岩井農場 パート四』

 


もうけつしてさびしくはない
なんべんさびしくないと云つたとこで
またさびしくなるのはきまつてゐる
けれどもここはこれでいいのだ
すべてさびしさと悲傷とを焚いて
ひとは透明な軌道をすすむ
ラリツクス ラリツクス いよいよ青く
雲はますます縮れてひかり
わたしはかつきりみちをまがる 『小岩井農場 パート六』


久々の小岩井農場
駐車場脇には、残雪の山。農場は白一色の世界。

 

岩手山は相変わらず、麓のラインが艶っぽい。
農場の空気は冷ややかに光り、
古いサイロの赤い屋根が、退屈そうに鈍色の空を眺めている。


桜の季節まで、まだ3月はありそうだ。
会いたい人にまだ会えない。

 

「またさびしくなるのはきまつてゐる」

「けれどもここはこれでいいのだ」

 

春の気配を頬に感じながら、この部分を何度もリフレインしてしまう。



※注
ラリツクス=Larix(落葉松)。
針葉樹ではあるが、落葉して春には新しい葉をつける。