Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【家庭内事故】=段差だけではない、濃淡・色彩・明暗の「バリア」を見逃さない。

 

 

 

 

 

 

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視覚障害のある家族のために、動線にLEDを埋め込み、自活性を高めた工夫。

段差の解消はもちろん、「狭さ」というバリアも解消する。明るさの確保もバリアフリーの一つ。

 

 

バリアフリーというと段差の解消や手すりの設置などが思い浮かびますが、その人の持つ障害によって、対処すべきバリアは大きく異なります。特に、足腰が弱くなったり、視力の衰えなどは加齢とともに進み、誰もが避けて通ることができません。それだけに家のなかのバリアとその解消には、早目に対処したいところです。

 

Contents.

 

階段を踏み外しそうになる

左目がかすんでいます。

まったく見えないわけではないのですが、食品用のラップを二重に眼球に貼りつけたような状態でしか見えないのです。

 

重度のドライアイに、直線が歪んで見える黄斑前膜、飛蚊症が重なります。

白内障の症状もあります。

 

パソコンモニターを見ることはつらく、カメラのファインダーを覗くときはもっと苦痛です。

ほとんど勘で撮っています。

 

近々手術をすることになりましたが、以前のように見えるようにならないことだけは確かなようです。

 

こういう状態なので、どんな場所でも転倒には気をつけています。

それでも、先日、住宅の取材で2階から降りる際、階段を踏み外しそうになり、ひやっとしたばかり。

 

階段の踏面が連続して見え、途中の数段がフラットに見えました。

片目が不自由ということもあるのでしょうが、初めて「色」を認識できない異変に気付いたのです。

 

踏面は板張りでしたが、一瞬、同じような色に見えて、境目がわからなくなったのでした。

 

段差のあるところは濃淡をつけたほうが区別しやすいことが、自分の身体で理解できた気がします。

 

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Photos by Sweet Potato..

 

 

 

 

 

 

40歳を超えると「高齢視」

歳を重ねると、近くが見えにくくなったり、照明を暗く感じたり、逆に眩し過ぎることが増えてきます。

 

老眼とひとくくりにされがちですが、専門的には「高齢視」といい、老眼は高齢視の一部の症状でしかありません。

 

程度の差こそあれ、40歳頃からほとんどの人に現れ、遠視が「屈折異常」であるのに対し、老眼は「調節異常」とされます。

 

目の瞳孔の直径が小さくなり、網膜に映る画像の明るさも低下します。

極端な例ですが、80歳では光の量が小学生の15~20%にまで減少してしまうというデータもあります。

 

これらの現象はゆっくりと進行するため、ふだん見えづらい状態でも、ある日突然、家の中で絵も驚くようなことを経験することになります。

それが、家庭内事故です。

 

ちなみに人間には、約750万~1,000万の色が見えるといわれています。

リビングだけでも、数千から1万ほどの色が存在します。

それらを必死で、私たちの眼は見極めようとして、生活しているわけです。

 

歳を重ねると、見分けられる色の数は減少し、やがてはモノの形状の違いまで判断しにくくなります。

 

いくらきれい好きの人でも、床の隅に落ちている細かなホコリは見えづらくなり、食器のわずかな汚れも見逃してしまう。

衣服についたゴミや汚れにも気づきにくくなってしまう。

こういう話も、よく聞く話。

 

同じ色の階段の段差が見づらくなって、踏み外す危険性が高まるのも当然です。

逆に、屋外での転倒事故は、段差のみならず、横断歩道の白とアスファルトの灰色、アスファルトとマンホールの蓋など、色や素材(質感)が一瞬で異なる場所で多く起きています。

 

雨の日。

歩道から、スーパーやデパートに入ってすぐに、足が滑って転びそうになったことはありませんか

 

歩道と店内のフロアの色が明確に違っているのならまだいいのですが、同系色で素材が違っている場合は、身体が、色と質感の変化に反応しきれず、つまづいたり、滑ったりしてしまうのです。

 

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色を判別できないハンディ

高齢者は若い人の2~3倍の照度が必要とされます。

しかし、明るすぎても、眩しすぎることにも対応できません。

歳をとると難しいことが増えます。

 

暗い色どうし、明るい色どうしの組み合わせも見分けにくいので、コントラストをつけることが大事なのです。

 

先日、仕事で訪問したグループホーム(認知症のお年寄りが入居)では、完成して間もないだけに、玄関、廊下、階段、居室、冷暖房など、どこも新しく清潔で、設備も最新のものばかりでした。

 

しかし、なぜか、居室のドアと玄関、洗面・トイレ・浴室などのドアが全て同じ色・質感で、若いスタッフの方々も、しょっちゅう部屋を間違えたり、戸惑っているとの話をうかがいました。

色はダークブラウンです。

 

内部を見渡すと、玄関の引き戸と隣にある事務所の引き戸は同じ色と質感で、同じかたち。

確かに、間違ってしまいそうです。

 

事務所の隣はトイレで折れ戸なのですが、ここも同じ色。

出入口のかたちが違っていても、同系色どころか同じ色ですので、ほとんど区別がつきません。

 

入居されている方々は主に、認知症の患者さん。頻繁にほかの人の部屋に入ってしまうといいます。

 

画用紙に大きな字で名前を書いて、それぞれのドアに貼る。

文字が認識できない方は、デジカメで撮ったご本人の写真を数枚切り取り、画用紙にオムニバスに貼る。

好きな動物や花の絵を描いたものを貼る。

 

スタッフの方々の工夫で次第にトラブルは減少しましたが、基本的な設計ミスといわざるを得ません。

 

構造は理解していても、色について、特に、高齢者や認知症、障害を持つ方々には、専門的な知見が求められることを痛感しました。

 

 

 

 

 

 

 

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ほぼ全員が経験する白内障

高齢視で一般的なのが、近くに焦点が合わせづらくなる老眼です。

早い人では40歳代から始まり、70歳台以降になると誰もが例外なく老人性白内障を患います。

 

白内障には、視力の低下や視界不良、眩しく感じるなどの症状があり、進行すると、色の識別能力も低下します。

 

色のコントラストがわかりにくくなり、同系でまとめられた色の差が識別しにくくなるのです。

 

先の施設は、こうした高齢者の生理がよく理解されていなかった例かもしれません。

いえ、若い世代でも戸惑うのですから、共通したバリアを設けてしまった例ともいえます。

 

私が階段を踏み外しそうになったのは、視覚の識別能力に問題が生じてきたからにほかなりません。

 

高齢になると、色のコントラストをはっきりさせることが必要になります。

 

夜間になると明かりが不足するので、色はさらに識別しにくくなり、光の強弱の問題も浮上します。

 

代表的なバリアともいえる段差や階段の蹴込み板と踏み台には、色のコントラストを付ける、壁や手すりと色分けをする、高さを認識できるようにするなどが基本。

明るさも大事ですし、境目をつける、サインを工夫するなどしてリスクを回避します。

 

蛇足ですが、階段の素材には、金属製のものはなるべく使わないこと。

光の反射具合で奥行きが判断しにくくなることもあり、何より、素足でふれたときの冷たい感触はどうにも好きになれません。

 

視覚障害(全盲)を持つ方々が身障者トイレに入った際のバリアの実験で、最初に気になったのは「寒さ・暑さ」と「手すりの冷たさ」だった、という実験データを見たことがあります。

 

施設では素足で歩くことは稀でしょうが、自宅では当然、あり得ます。

手でふれた「手すりの冷たさ」が不快であったように(不快を通り越して、驚くそうです)、素足で感じる金属の冷たさ、硬さはバリアの一つと考えていいのではないでしょうか。

 

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あらかじめ、必要な箇所に手すりを付ける。もしくは、後付できるように下地を補強しておく。

 

 

 

 

 

 

 

コントラストの淡さの危険

色は視覚だけでなく、皮膚でも感じています。

皮膚が色の光に反応し、自律神経に働きかけ、筋肉を緊張させたり、緩ませたりするのです。

 

いちばんわかりやすいのが、地下鉄など、自然光のない場所。

どんなにきれいな人でも不健康で、あまりきれいに見えません。

こちらの気持ちも、暗くなりがちです。

 

反対に、床からの反射までも計算された間接光が中心のデパートなどでは、どんな人でもきれいな肌で健康的に見えます。

 

スーパーなどでよく経験しますが、蛍光灯の下と電球の下とでは、肉や魚の鮮度が全く違って見えるのと同じ話です。

 同じ人工光でも、こんなに違って見えることがわかります。

 

住宅はもちろん、高齢者施設や病院なども(内装の色にもよりますが)蛍光灯を多く使うことで、屋内は寒々しく不健康な印象が強くなります。

 

反対に、ダウンライトや間接照明をメインにした暖色系の照明環境では、健常者でも気持ちがやさしくなります。

 

高齢者は明るい場所から急に暗い場所に移動した際、目が順応するのに時間がかかることもあります。

 

夜間トイレに行く回数も増えますので、足元がしっかり見える常夜灯を設置しておくのもよいでしょう。

2階に居室がある場合は、階段、廊下にも明るい照明を基本としたり、足元灯をつけます。

 

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段差をなくした玄関。素材と色でエリアの境界を設けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

交通事故死より多い家庭内

もう一つ、最近気になったことが、施設に入った母がテレビの音が聞きにくいと言い出したことです。

かといって、私との会話は、小さな声でも十分に聴こえています。

 

デジタル放送になってから、聞きにくさは顕著になり、特に高音が聞き取りにくく、ときには不快といいます。

 

これも老化現象の一つで、高齢者は、特に若い女性の声のような高い音が聞こえにくくなります。

 

なかでも、さ行、は行、か行などの子音は高い音域に属するため「寿司=すし」「皮膚=ひふ」「7時=しちじ」などを聞き取りにくくなる現象が多くなるといわれます。

 

電話の呼び出し音や体温計の音などが聞えにくくなってきたら、耳の高齢化も認識しなくてはなりません。

 

音の情報そのものが変化して聴覚に入ってきますので、言葉の内容を認識するのに時間がかかることも増えてきます。

 

お年寄りが、早口で話す人の内容が聞き取れず、ぽかんとした表情をしてしまうのは、テンポの速い会話に付いていけないだけではなく、聞き取れていない場合もあることを覚えておきましょう。

 

 

1年間に家庭内事故で亡くなる人の数は1万3952人。

この数字は交通事故死の5646人の2倍以上です(厚生労働省 人口動態統計 2015年)。

原因は「転倒・転落」が、「溺死及び溺水」「窒息」に次いで3番目。

 

ヒートショックの危険性は以前にも書きましたが、家のなかで交通事故より多くの人が亡くなっているという事実から、目を背けることはできません。

体力だけではなく、「視力」からも家のなかのバリアを考えたいところです。

 

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まとめ

1.段差のあるところは濃淡をつけたほうが区別しやすく安全。

 

2.40歳を超えると「高齢視」も間近。80歳では光の量が小学生の15~20%にまで減少する。階段の踏面、小さな段差などは色の使い分けやコントラストを意識する。

 

3.壁や階段、ドアなどの開口部は色分けする。明るめで暖色系が基本。

危険な場所は、境目をつける、色を変える、サインを工夫する。

 

4.夜間トイレに行く回数が増えてきた場合は、足元がしっかり見える常夜灯を設置するのもおすすめ。2階に居室がある場合は、階段、廊下にも明るい照明や足元灯をつける。

 

5.明暗の差が大きいことも危険性が高まる。

 

6.1年間に家庭内事故で亡くなる人の数は交通事故死の2倍以上。屋外よりも家の中のが事故のリスクが高いこと、その原因の多くが視力の低下によることを前提に家づくりを考える。