性能や設備の優劣、空間やインテリアの美しさだけではなく、私たちは五感、第六感までも駆使して、瞬間瞬間、家からのメッセージを感じようとします。これから家のことを計画する人は、耐震性、断熱性などに裏付けのある数値を求めることと同時に、数値に表れない感覚をないがしろにしてはいけません。どんな歓び、違和感も情報なのです。
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数値に表われない感覚
いろんな家があります。
家には必ず、人が関わっています。
どんなに性能がよく設備の整った家でも、それをつくった人、そこに住む人に会ったり、話をしてみますと、身体がいっそう暖かくなったり、反対に気持ちも身体も冷え冷えとしてしまうことがあります。
家のかたちや素材、性能、関わっている人の全部が、空間をつくったり、居心地をつくるのです。
人が家、暮らしをつくって初めて「うち」になります。
取材でうかがった家に滞在して話を聞いたり、写真を撮ったりするだけで元気になる家もあれば、玄関に入ってすぐに気持ちが落ち込み、30分も経たずにへとへとに疲れてしまう家もあるのです。
それをつくる人、住まう人のエネルギーが、密接に関わってくるのでしょうか。
全身で「感じる」もの
家づくりの際は、ビルダーの担当者と打ち合わせもするでしょうし、モデルハウスを見学することもあります。
情報誌やネットで調べたデータも大切ですが、五感を研ぎ澄まして営業担当のお相手やモデルハウスの空間を「感じる」ことも重要です。
例をあげると――。
【目】
光や陰、空間をどんなふうに感じるか。はじめはよくても、30分後、1時間後に目が疲れてこないか。夜の闇では、空間がどんなふうに見えてくるのかなどを考えます。いえ、感じるようにしてみます。
【手足】
掌も手の甲も、10本の指全部で感じることは? 足の裏、足の指が感じるものとは。素足で居間や廊下やトイレや浴室にふれた感触はどんなものでしょう。化学素材と自然素材、どちらが心地よいでしょう。階段、手すり、床、窓、できれば天井まで全部ふれてみてください。冷たさ、温かさも確認します。
【肺】
息をすると、どんな感じがするでしょう。人は1日に吸ったり吐いたりする空気の重さを知っていますか(答え:20キロ 水より、食料より多いのです)。
【胃腸】
おなかが、冷たくなるか、あったかくなるか。特に丹田を意識します。どんな感じがしますか。コンクリートが多く使われている家、逆に、無垢とはいえ、木材が目に入り過ぎる家もまた疲れます。
【頭】
数時間いることで、すっきりするか、どんよりするか、はたまた、頭痛がしないかどうか。化学物質の確認にもなります。
【腰】
足から膝、腿を通じて、腰がどんな具合になりますか。腰に重みや痛さを感じないかどうかなど。硬すぎる床は腰にきます。
【背中】
ぞくぞくしないかどうか。背骨のなかを、心地良い何かが通り抜けていくかどうか。気の通り道は正確なセンサーです。
【声】
自分の声、家族の声が、どんなふうに響くかも確かめます。想像してみましょう。それは気持ちいいのか、それとも? 音が響き過ぎる家は問題です。
【耳】
家のなか、家の外からの音に耳を澄ませましょう。感じ、いいですか。沈黙、静寂さも実は耳が感じとります。
【鼻】
香り、匂いは心地いいものかどうか。化学臭いは我慢できますか。無垢の木の香りだって、過ぎれば不快になることもあります。
【舌】
そこで食べる食事は、どんな味がするでしょう。コーヒーは、お茶は? 家族で素敵な食事の時間はつくれますか。
【喉】
カラカラになっていませんか。潤いを感じますか。湿度、どんな感じ? エアコンからの風の方向一つで、喉も違います。
【コメカミ・眉間】
力が入ったりしないかどうか。眉間の皺も鏡で見てみましょう。無意識で力が入ることがあります。
【肛門】
感じてみてください。そこにいると、どんな具合? 緊張してませんか。
【筋肉】
階段を昇り降りする、床を歩く、這う、座る、立つ。いろんな動作のときに、どこの筋肉がどんなふうに動きますか。その筋肉は喜びそうですか。疲れませんか? お年寄りだって元気なうちは二階の昇降で筋肉をつけたほうがいい場合も。
【肌】
空気はどんなふうに肌を包み込んでくれまか。肌は歓んでいますか。乾燥あるいはじめじめし過ぎませんか。あなただけの湿度計を使います。
【おっぱい】
あかちゃんが生まれたとき、その空間であかちゃんが飲むおっぱいの味は、おいしいでしょうか。そのとき、お母さんのおっぱいは歓んでいるでしょうか。
人にも空間にも相性が
私たちは、意識しようがしまいが、そこに生活している時間のすべてを全身で感じながら生きています。
五感や六感のことを考えたあとは、そこで眠ったり、話をしたり、音楽を聴いたり、笑ったり、遊んだり、本を読んだり、愛する人の肌にふれたり、撫でたりすることも考えます。
近年は、熱さ・冷たさを判断する感覚、空間のなかで自分の身体がどこにあるのかを把握する感覚、身体のバランスをとる平衡感覚の3つが加わった「八感」が研究されているといいます。
全部の感覚をフル稼動して、その家、素材や設備、そして、その家に関わるすべての人まで感じ取るようしていくと、次第に家と自分との相性のようなものが見えてきます。
これから家づくりに入るという人は、ビルダーさんの表情、スタッフ、その方々がこれまで建ててきた家を眺めたり、ふれたり、話を聴くだけでも、たくさんのことが感じられるはずです。
その直観に、耳を傾けます。感じてみます。ほんとは、私たちの身体も心も、たくさんの物差しをもっているのです。
性能や設備も物差しですがスペックは評価のひとつの手段。
空間に身を置く、家あるいはそこに住む、それをつくる人と関わるということは、それらをどう「感じるか」に尽きるといってもよいのです。
家をつくる人、家の素材、その他もろもろ全ての対象との相性といってしまえばそれまでですが、気が合う気が合わないというそれだけのことをないがしろにしてはいけません。
私たちの五感も六感は、全エネルギーを駆使して、いつも自分自身を守ってくれているのです。
1.耐震性・断熱性などの基本性能については、裏付けのある数値の開示を求める。もしくは性能値での実績で判断する。
2.【五感】= 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を基本に、自分のなかにある【第六感】=直観などのインスピレーションなども無視しない。
3.五感や第六感に加えて、熱さ・冷たさを判断する感覚、空間での身体感覚、平衡感覚なども重視する。
4.家の完成までに携わる人たち全てが、自分にとって感謝でき、心地のよい存在かどうかも判断材料となる。