Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【ほんとうのバリア】=家づくり。最期の時間を支えるための、譲れない条件。

 

 

 

 

 

バリアフリーという言葉があります。屋内外の障がいとなるもの(バリア)を取り除き、安心して暮らせる設計というような意味です。段差の解消や手すりの設置が代表的ですが、それらよりも優先したいのが夏の酷暑や冬の寒さ(温熱環境)、居室や出入り口の狭さ(狭小サイズ)という二つのバリアの解除です。日本の場合は、交通事故死よりも家の中に最大のバリアが多く存在することを忘れてはなりません。そして、望めばそこで最期の時間を過ごせる家であるかどうかを考えることは、究極の家づくりといえそうです。

 

Contents.

 

交通事故より怖い住宅の中

脳卒中は、がんに次ぐ国民病です。

引き金となるのは、実は寒さそのものではなく「暖」と「寒」との温度差です。

これをヒートショックといいます。

 

全国では浴室だけで年間約1万4000人が死亡しており、原因の多くはこのヒートショックとされます。

暖かい部屋から寒い浴室に移動し、裸になる。

浴室がもっとも無防備で危険な場所となることは明白です。

 

脳卒中から完全に回復する人は2割程度で、4割は一時でも寝たきりとなります。

要介護になる原因の第1位でもあり、治療やリハビリに要する国民医療費は、年間2兆円にも及びます。

住宅が、国民医療費を増やし続けているとしたら、こんなに悲しいことはありません。

 

 

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冷暖房を屋内全体で考える

屋内に温度差をつくらないことを全館(冷)暖房といいます。

断熱・気密性能を上げることで全館(冷)暖房が可能となり、性能が高いほど四季を通じて、割安な光熱費で全館同じ温度にできます。

断熱はQ値(熱損失係数)やUA値(外皮平均熱貫流率)、気密はC値(隙間相当面積)で表され、数値が小さいほど性能は高くなります。

これを確かめずに家を建てることは、乗り心地やリッター何キロ走るのかを確かめずにクルマを購入するようなものです。

新築時は必ずこれらの数値をビルダーに確認しましょう。

全館を冷暖房することは何もぜいたくなものではありません。

全館を暖めるのではなく「寒さを取り除く」手法といえば分かりやすいかもしれません。

冷房の場合は、「熱くない」環境に近づけます。

それはわずかな光熱費でヒートショックを防ぎ、病院や施設に頼らず在宅介護・療養を体現する、つつましやかですが積極的な設計・冷暖房手法といってよいと思います。

 

 

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見落とされがちな「狭さ」

狭さは段差よりも深刻なバリアです。

30坪程度を細かく仕切り、狭い居室を複数設ける設計は廊下やトイレ、浴室の全てがバリアとなります。

在宅介護は布団もベッドも三方介護(左右と足元に人が立てる空間を確保する)が基本ですが、4畳半や6畳で三方介護は不可能です。

寒い環境ではパジャマ1枚での介護は難しく、狭く寒い廊下、トイレ、浴室は介助者にも大きな負担となります。

空間をむやみに「小間割り」せず、必要に応じて仕切りが変更できる可変性で家を考えることが大切です。

大空間は必要なときに自在に仕切れますが、狭い居室は使用しない状態が長く続くと死に部屋となり、のちに開放するにも多大なコストがかかります。

間仕切りを最小限とすることでおのずと廊下は不要となります。

引き戸は指1本で開閉できる、日本が世界に誇るバリアフリー建具。

トイレや浴室の出入り口の幅は最低でも85~90センチ

車椅子の回転は110センチ以上ないと困難です。

狭さのバリアを除くと、介助者にも健常者にも快適で安全な空間が出現します。これをせずに段差を解消し、手すりを設置しても、本当のバリアフリーにはならないのです。

厚労省はすでに、自宅での看取りを推進するプランを進めてます。

しかし、家で最期を迎える施策を打ち出しても、計画に家の性能に関する項目は見あたりません。

医療・社会保障費を削減するのが目的で、介護や看取りの環境はおざなりにされたままなのです。

 

 

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空間を小間割りしない設計

小さな家でも大空間を旨とします。

20坪程度の平屋でも仕切りをなくせば40畳です。

10畳×4、20畳×2の発想でもいいでしょう。

個室がほしければ、可変設計とします。

大空間でも少ない光熱費で温度差をなくすのが断熱・気密の性能であり、高断熱・高気密そのものが目的であってはなりません。

 

誰もが「ついのすみか」として家を建てます。

家は生の輝きを包み込んでもくれますが、人の最期を支える場でもあるのです。その意味では、家づくりは「死に場所」づくりでもあります。

手足や目、耳が対で初めて深遠な機能を発揮するように、生もまた死や老いと対で見据えることで深みのようなものが見えてきます。

家も同様です。

終末から生を透視して、それらを対で眺めることで、日常を平穏に生きるための「家のかたち」が浮き彫りにされてくるのではないかと考えます。

 

 

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In summary

そんな家、高そうでできませんという声が少なくありませんが、次のような図式で考えてみましょう。

1.躯体の断熱性能が弱い。

2.空間を小さく間仕切りにしてしまう。

3.個別の冷暖房が必要となる。

4.個別の部屋をつなぐ廊下が必要となる。

5.無駄な空間、バリアが増える、温度差が生じる。

6.介護の際、複数のバリアが立ち塞がる。

7.自宅があるにもかかわらず、施設介護を余儀なくされる。

8.住宅ローンに加えて、介護費用が重くのしかかる。

──という図式が出来上がります。

いつまでたっても日本人がゆかたな生活を送れない理由が見えてきます。