日々の生活ではいうまでもなく、宗教や文化の面でも、水との関わりを大切にしてきた日本人。きれいな水が大地を潤し、食材を育て、街をつくり、健やかな人を育んでもきました。しかし、水と空気はタダだと思っているのは、どうやら日本人くらいかもしれません。「水」を通して世界を眺めることで初めて知る、環境のこと、自分の健康のこと。
Contents.
トイレの水は朝に流せばよい
以前、仕事でドイツを訪れたとき、
一般のご家庭で何日か
お世話になったことがあります。
季節は、冬。
エコロジー先進国として知られる国ですが、
室内は20℃以下に抑えられ、
肌寒ささえ感じます。
体格や汗腺の数など
日本人と温度を感じる身体のセンサーが
異なることもあるのでしょうが、
暖房エネルギーには
とても神経質になっている
印象を持ちました。
夜間の照明は、
20帖ほどもあるリビングでも
スタンド1灯か2灯。
廊下やトイレなどはセンサー付きの照明です。
どんな場面でも
省エネが徹底されているのですが、
電気やガスの節約より、
いちばん驚いたのは彼らの「節水」意識でした。
お世話になった
お宅だけのことかもしれませんが、
まずは、トイレ。
節水型の機器が導入されているのは
当然のことですが、
家族は「夜間は流さなくてもいいから」
というのです。
隣家への音を心配する
気持ちもあるのでしょうが、
「朝、一度に流せばそれでいいじゃないか」
と真顔です。
気候や習慣の違いもありますが、
浴槽にお湯をはるのは月に一度あるかないか。
シャワーも毎日ではありません。
シャワーを浴びても、
洗髪以外はからだに石鹸分が残ったまま
洗い流さずに
バスタオルでさっと拭き取るだけです。
そのシャワーヘッドも、
もちろん、節水型が採用されています。
食器のすすぎは必要ないのか
キッチンでも驚きの連続でした。
例えば、やかんに水を入れて湯を沸かすとき。
日本人だと、
適当に水を入れてしまいますが、
それは「NG」。
インスタントスープやコーヒーを飲む際にも、
使う分だけカップで
きっちり計って水を入れ、それを沸かします。
食器洗いについても、驚くことばかり。
日本では
スポンジに洗剤を含ませ、
一つひとつ洗って流水ですすぎ、
そのあと自然乾燥させたり拭いたりしますが、
そんなことはしません。
シンクに蓋をして
水やお湯をたっぷりと貯めたら、
汚れた食器をそこに放り込み、
スポンジでササっと洗って終わり。
流水ですすぐことはなく、
洗剤がついたままの食器を
タオルで拭いておしまいです。
そのまま乾かすこともあります。
身体の中に入っても
毒性などないから、という話でしたが
実はドイツに限らず、
お隣りのスイスやイギリスでも同じです。
水は「無料」と信じる日本人
ちなみに、日本人1人あたりが
家庭で1日に使う水の量は、
230~300リットルといわれています。
それが、ドイツでは90~130リットル。
私たち日本人は水を「使う」といいますが、
欧州諸国では
「消費する」という単語を充てますので、
根本から意識が違うのかもしれません。
一方では、徹底した節水によって
水道管の中に汚れた水が溜まってしまい
ドイツの水道公社は
結局、大量の水で水道管を
洗い流す作業もしています。
だから、トータル的には
節水になっていないのではないか、
という話も聞きました。
省CO2というと、
冷暖房や家電での省エネを思い浮かべますが、
水も資源であり、節水は省CO2に直結します。
私たちは雨や川の水を
そのまま使っているのではなく、
ダム建設にはじまり、
上水道・下水道処理施設など
電気やガスと同じように
たくさんの工程と
工程ごとに消費されるエネルギーを経て、
使っているのです。
ちなみに、節水型便器に
取り替えることだけでも、
節水量から換算されるCO2削減量は、
常緑樹を2本植えるのと
ほぼ同じ効果が得られるとされます。
歯磨きのときには、流しっぱなしにせず、
コップの水で口をすすぐと、
1回あたり約5.4リットルの水が節約でき、
家族3人ですと、
月300円ほどの水道代の削減となります。
節水の切り札は、食洗機。
6人分相当の食器なら、水量は手洗いの約7分の1。
手洗いの「水道・ガス・洗剤代」と
食洗機の「水道・電気・洗剤代」の合計では
1日2回使用・1年で
約25000円の節約になるというのです。
(※資料参照 パナソニック)
日本は世界1の水の輸入大国
仮想水という言葉があります。
バーチャルウォーターともいいます。
食料を輸入している国(消費国) において、
もし、その輸入食料を生産するとしたら、
どの程度の水が必要かを推定したもので、
ロンドン大学東洋アフリカ学科
名誉教授のアンソニー・アラン氏が
紹介した概念です。
(資料 環境省)
世界の水資源取水量の約7割は
農業用水として利用されており、
工業用水は2割、生活用水は
1割程度に過ぎません。
例えば、1キロのトウモロコシを生産するには、
1800 リットルの水が必要ですが
牛はこうした穀物を食べて育つため、
牛肉1キロを生産するには、
その約2万倍の水が必要になります。
この計算では
ハンバーガー1個に使われる水は1000リットル、
牛丼には2000リットル必要となります。
日本のカロリーベースの
食料自給率は38%(2016年度)。
多くの食料を輸入に頼ることは
形を変えて
水を輸入していることにもなるのです。
2005 年において、
海外から日本に輸入された
バーチャルウォーター量は、約800 億立方メートル。
その大半は食料に起因しています。
これは、日本国内で使用される
年間水使用量と同程度です。
※資料
東京大学サステイナビリティ学連携研究機構の沖大幹教授らの試算では、日本の主要穀物(大麦、小麦、大豆、トウモロコシ、コメ)と畜産物(牛肉、豚肉、鶏肉)についての仮想水総輸入量は年間約60兆リットル以上にのぼり、日本人1人あたりで計算するとおよそ50万リットルで、仮想水輸入量は世界一と考えられるという。
環境省のHPでは、バーチャルウォーター量を
自動計算できるようにしています。
ゲーム感覚で、試してみると
たくさんの発見があります。
日本には古くから
「身土不二」という言葉があります。
身体とその土地の気候風土は
一体のもので
その土地で採れる旬の食べ物が
健康によいと考え、実践してきたのです。
「四里四方のものを食すれば病せず」
という言葉もあります。
1里とは、
いまでいう約4キロですので、
四里とは16キロ。
つまり、16キロ四方で
生産されるような食材を
食べていれば、
健康でいられるというお話です。
当然、そこには水も含まれます。
穢れと禊と「水に流す」文化
「水と空気はタダ」と思い込んでいる
日本人ですが、
水も貴重な地球の資源であるという
認識を少し持つだけで
食事の内容も代わり、健康的になり、
水道料金にも跳ね返って、
お金の節約になるかもしれません。
ちなみに、日本では台所を
「流し」ともいいますが、
イギリスでは「Sink=シンク」。
この「Sink」は動詞としては「沈む」「沈める」
という意味があります。
なるほど、最初から、
流して洗うつもりはなく、
水を溜めて食器を沈めて洗う映像が
浮んできそうです。
私たちは、過去のいざこざなどを
帳消しにする意味で
日常的に「水に流す」という言葉も使います。
その背景には、「水で穢れ=けがれを洗い流す」
という「禊=みそぎ」の文化があります。
「禊ぎ」 の語源は「身濯 (すす) ぎ」「水濯ぎ」。
「禊ぎを済ませる」ことで
身も心もきれいになると信じてきたのです。
汚れること、澱むこと、滞ることを、
とりわけ嫌った日本人。
水が、文化のみならず、健康、環境にも
強く影響することを、
改めて、学んでいこうと思っています。