暑い夏は、まずエアコン。しかし、帰宅してすぐにスイッチを入れても、なぜか涼しくならないのはなぜなのか。24時間、省エネでえ涼しさを得る基本は、まず日射を室内に入れないこと、そして躯体の断熱性の向上、そしてエアコンの連続運転なのです。
Contents.
- 日射を遮る暑さ対策の基本
- 住宅性能の確保を大前提に
- 古くて新しいパッシブ設計
- 冷やすだけでは不快なまま
- Low-E・複層ガラスの選択
- 袖壁や樹木でも日射を遮る
- 一人でも1000Wの熱を放つ
- 省エネラベルの「★」とは
日射を遮る暑さ対策の基本
猛暑の日が続きます。
数週間前まで、時折、暖房がほしいと思うほど肌寒い日が多かったのに、突然の気候変動には驚くばかりです。
すでに、日の当たる部屋や2階はエアコンなしでは過ごせないほどの暑さ。
暑さは朝方まで続きます。
窓から入る熱は、壁や天井など断熱材のある部位に比べて30倍~50倍になり、家全体の7割前後の熱も窓から入ってきます。
あとの3割は屋根や外壁などからですが(日本建材・住宅設備産業協会 「省エネ建材で快適な家。健康な家」)、いずれも断熱不足が大きな原因であり、日本の住宅は改めて、断熱について検証し、温熱環境を整える必要がありそうです。
断熱化が進んだ住宅では、少ないエネルギーで冷暖房することが可能になりますが、夏期など、外部からの日射熱の侵入で室内がオーバーヒートすることもあります。
断熱性能の向上に伴い、窓からの熱の侵入を防ぐ「日射遮へい」が大きな課題となっているのです。
外側にオーニングを設け、日射を制御することも、冷房効果を上げる基本。
住宅性能の確保を大前提に
冷房時の省エネルギー対策はよく「28℃以下」などといわれます。
しかし、実は夏の冷房より、暖房のエネルギー消費、CO2発生量の方が格段に多いことはあまり知られていません。
家庭からのCO2排出量では、冷房は全体の2%なのに対し、暖房は30%前後にものぼります。
冷房時の省エネも当然大切ですが、トータルで省エネや省CO2を考えるときには、やはり暖房時の対策が最重要課題。
冷房時も暖房時も、ほどよく快適な室内の温熱環境とは空気の温度ではなく、表面温度がカギとなります。
表面温度とは壁や窓、床、天井などの温度のことをいいますが、これらが冷たい熱、暖かい熱を蓄え、逃がさない状態になって初めて快適な温熱環境ができることを忘れてはなりません。
そのためにも、冷暖房設備のあれこれを語るよりも、高断熱・高気密などの性能向上が前提といえます。
この対策なしに、いくら冷暖房をがんばってみても空気の温度を極端に上げたり、下げたりするしか方法はないのです(日射、通風、庭の微気候などさまざまな要素はありますがここで省略します。過去の記事を参照)。
by CASA SCHWANCK
古くて新しいパッシブ設計
性能の高い窓に加えて、窓の外側で日射を遮る工夫も欠かせません。
かつての日本家屋では簾(すだれ)やよしずで日除けをし通風していましたが、都市部の住宅でもこれらを使っている光景をよく目にするようになりました。
価格も手ごろで、百均でも売っていますし、ホームセンターではいろんなサイズがあり、数百円から買うことができます。
それらで窓を覆うと眺望が確保できないことがデメリットですが、ある程度の眺望を確保しながら日射を遮るには、店舗の店先などでよく見かけるオーニングやブラインドシャッター、ルーバー、日射遮蔽スクリーンなどの方法もあります。
なかでもオーニングや日射遮蔽スクリーンは手軽で効果の高い手法として世界的に普及している手法です。
複層ガラスに日射遮蔽スクリーンを設置した場合には、日射の侵入をおおよそ半分程度(約40%以下)までカットすることが可能です(P.V.ソーラーハウス協会)。
日本家屋では伝統的に、すだれや葦簀で日射対策をしてきた。
冷やすだけでは不快なまま
夏を快適過ごすためには、エアコンがすぐに思い浮かびますが、その前にしなくてはならないことが「室内に日射を入れない」対策なのです。
日射を遮ることを「日射遮へい」といいますが、大半の家では屋内側の障子やカーテンで日除けをしている程度。
しかし、カーテンなどで日射を遮へいしても、カーテンに当たった熱のほとんどは室内に放熱され、眩しさが軽減されるいくらい。
窓枠がアルミなど金属の場合は、触れられないほど熱くなり、単板ガラスはそのまま暑い日差しを透過させ、室温の上昇を手助けするだけです。
金属製のブラインドも同様です。
ガラスを通ってきた日射に熱せられ、壁の何倍もの暑さになっているはず。
ブラインドは内側に設置されることが多いので、せめて熱が伝わりにくい木材などの素材にしたいところです。
高熱になったガラス、高熱の窓枠、高熱のカーテンやブラインド。
これらに囲まれた室内は、室内側がストーブで囲まれているも同然で、冷房温度をいくら低く設定しても、体感温度=室内の表面温度+空気の温度)÷2は快適にはなりません。
仮に窓・壁・天井などの表面温度の平均が40℃としますと(西側の薄い壁・窓、屋根な度の温度はもっと高い)、エアコンを20℃設定で運転しても(40℃+20℃)÷2で体感温度は30℃のままなのです。
朝方まで暑さを感じるのは、いったん熱をもった表面温度がなかなか下がらないからで、高めの温度設定でもエアコンの連続運転が基本となります。
断熱+連続運転がカギだったのです。
エアコンはいったんオフにしてから運転が安定するまでの電力消費がもっとも多く、留守中も連続運転したほうが快適さも向上します。費用対効果はけっして高くないと思われます。
森に入って涼しさを感じるのは、日射が遮られていることと、地面近くで微気候がつくられているため。
Low-E・複層ガラスの選択
窓ガラスの種類によっても、日射遮へいの効果は異なります。
単板ガラスは日射の大半を透過させますが、ガラス表面に熱エネルギーの吸収・再放射率を抑える特殊金属をコーティングしたLow-E複層ガラスにすると遮へい効果は劇的にあがります。
同じLow-Eにも遮熱タイプと必要な光は取り入れるが室内の熱を逃がしにくい高断熱タイプがあり、地域性や方位性を考慮して選択します。複層ガラスの中空層にブラインドを組み込んだガラスもあります。
窓枠=サッシには熱伝導率が小さく、熱を伝えにくい樹脂、木製を採用するのが基本です。
開口部の断熱基準を厳しく法制化している先進国では樹脂サッシは60%を超える普及状況ですが、日本においての普及はわずか7%(H24.3)。
ちなみに、アメリカ・ニューヨーク州では、熱貫流率1.98(W/m2・K)以上の性能をもつ窓を使うことが義務付けられ、樹脂(または木製)サッシ(Low-E複層ガラス入り)以上の窓でなければ、家を建てることができません(資料 樹脂サッシ工業会)。
断熱性の高い樹脂サッシと複層ガラスとの組み合わせは、これからのスタンダード。
袖壁や樹木でも日射を遮る
袖壁も有効です。
もちろん、深い軒や庇も日射遮へいの効果はありますが、高度の低い東や西からの日射遮へいはできません。
この場合、袖壁が東西の高度が低い時間帯に効果を発揮し、周辺の風を取り込むこともできます。特に、春や秋の通風のいい季節は心地いい風を導いてくれます。
戸建ての場合は、庭の樹木も日射遮へいに効果があります。
落葉樹は夏期に日射を遮り、冬期には落葉して日差しを導くため、日射の豊富な窓面近くに植えておくと、眺めを楽しみながら、日射のコントロールをしてくれます。
庭木や草花はその場で「微気候」をつくります。
風の流れをつくり、それを地窓など低い位置の窓から導いて、屋内に涼を招くという手法で、京都の町家などはこうした工夫を取り入れています。
窓の位置が重要になりますので、設計の善し悪しが大きなポイントです。
「パッシブエネルギー」「パッシブソーラー」「パッシブデザイン」などという言葉をよく耳にするになりました。
「パッシブエネルギー」とは太陽光や雨、地中熱、風などの自然エネルギーのこと。
機械の力に頼ることなく自然界のエネルギーを最大限に利用するデザインを「パッシブデザイン」といいます。
冬期は日射熱を取得することで屋内に熱を蓄え、暖房エネルギーを削減しなければなりません。
夏期は反対に、日射を取り込みすぎると、冷房エネルギーの負担が増えます。自然エネルギーはおとくにもなりますが、じゃまにもなるのです。
室内に熱を入れてしまうと、逆にそれを室外に排出することが難しい。直射日光による熱を室内に取り入れないように、窓の遮熱対策を実施することが重要。窓の内・外に必要な対策(植栽・ブラインド・遮熱複層ガラスの設置等)をとり、太陽熱を遮断。ブラインドなどを設置する場合は、窓の外側に取り付ける方が、内側に取り付けるよりも、3倍近くの効果がある。庇やオーニング(日除けテント)の取り付けは、太陽高度の高い南側の窓では特に効果的。出典:資源エネルギー庁
一人でも1000Wの熱を放つ
窓は方位特性を配慮しながら、通風経路も考慮しなくてはならない扱いの難しい部位です。
暑さも寒さも遮断しながら、眺望の役目も課せられ、ときどき、かわいそうになります。
さまざまな対策を取り上げましたが、現在の住宅では夏も冬もエアコンありきで語らなくてはなりません。
住み手による人的な日射遮へいにも、できることとできないことがあり、そこに人が生活する以上、1人あたり100Wの熱が体温から発生しますし、料理や家電からも大量の熱が放出され続けます。
住宅の断熱性を高める重要性を書きましたが、性能が向上すると同時に、今後はますます室内にこもる熱の対処が課題となります。
そのためにも、やはり省エネ効果の高いエアコンの選択も大切なのですが、その前に、躯体の断熱化です。
国産の樹脂サッシもバリ―ションが増えてきた。引き違いにこだわらず、まずはバリエーションを学ぶ。
省エネラベルの「★」とは
エアコンなどエネルギーを大量に消費する機器については、その省エネ性能を示すラベルが表示されています。
基本的に★の数が多いほど省エネになりますが、これは容量ごとに定められた省エネ基準の「最低効率」を100%とした相対的な数字として解釈します。
エアコンを選ぶときには「小型」で「APFの高い機種」を選ぶことが基本とされますが、あくまでも住宅の断熱性能、設置場所、個数などを考慮しながら選択します。
メーカーはクレームが怖いので熱負荷を大きめに見積りしがちですし、販売店は個々の住宅の性能を確認せず、大きい(高価な)機種を販売してしまうこともあります。
最近の性能住宅ではオーバースペックとなることが多く、無駄にエアコン代、のちのちの電気代を支払うことにもりかねません。
カタログに記載された暖冷房能力の目安「◯◯畳」という表示は、断熱等級3程度(平成4年基準)の貧弱な性能を想定したものなので、あくまでも参考程度。
販売店よりもむしろ、ビルダーに相応のスペックをはじき出してもらったほうがいいケースもあります。
北海道仕様の性能を有する住宅では、断熱の最高等級でもある等級4の3倍もの性能になることもあります。
販売店ですすめる3分の1程度のスペックのもので全館冷暖房が事足りるケースもあるのです。
建物の日射取得、通風、蓄熱素材の有無、家族人数、延床面積によっても、機種は違ってきます。
〇畳につけるから「〇畳用」というだけでエアコンを選ばないこと。
1軒1軒、住宅性能が違うのに、最大公約数で選択するというのは、そもそも乱暴な話です。
1.本ラベル内容が何年度のものであるかを表示。
2.【多段階評価】
多段階評価基準は市販されている製品の省エネ基準達成率の分布状況に応じて定められており、省エネ性能を5段階の星で表示する制度です。
省エネ性能の高い順に5つ星から1つ星で表示。
トップランナー基準を達成している製品がいくつ星以上であるかを明確にするため、星の下のマーク(◀▶)でトップランナー基準達成・未達成の位置を明示
3.【省エネルギーラベル】
製品の省エネ性能や達成率などを表示。
4.メーカー名、機種名を表示。
5.【年間の目安電気料金】
エネルギー消費効率(年間消費電力量等)を分かりやすく表示するために年間の目安電気料金で表示。
電気料金は、公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会「電力料金目安単価」から算出。
by CASA SCHWANCK
1.窓の日射遮へいは屋外側で考える。屋内側のカーテンやブラインドは室温を上げるストーブのようになってしまう。
2.新築・リフォームの際には躯体全体の断熱性を向上させるのが基本の基本。住宅(断熱・気密)性能によって、選択するエアコンの能力が異なる。設計段階から計画することで、吹き抜けなどに1台のエアコンを付けるだけで30~40坪の住宅の全館冷暖房も可能。この場合は、高断熱・高気密が大前提。各部屋に設置する場合は小型のものでAPFの高いもの、が基本。
3.エアコンだけでは「体感温度」を快適にできないが、連続運転を基本とする。
エアコンのオン・オフを繰り返すことを避けることで、壁や天井などから放熱される輻射熱を防ぐ効果も期待できる(断熱性によって効果は異なる)。
4.Low-E複層ガラスがこれからの住宅のスタンダード。窓だけのリフォームでも効果はある。ガラスの間にアルゴンガス、クリプトンガスなどを充填して、さらに性能を上げた製品も多数。
5.自然エネルギーを最大限に活用する「パッシブデザイン」の応用。簾やよしずを上手に使う。水をかけることで、室内に入る空気を2℃ほど下げることができる。玄関先はこまめな打ち水。
6.躯体の断熱性能の向上に伴い、年間を通して屋内にこもる熱の対処が大きな課題になりつつある。四季を通じてエアコンの役割が高まり、省エネ効率を考慮して選びたい。
7..家電量販店では標準的なスペックでエアコンが選択されがち。オーバースペックになるケースも少なくない。後付の際にも、ビルダーに設置する位置、台数、スペックなどを相談しながら、選択したほうがいい場合もある。たいがいは、カタログスペックより小さ目のもの、安価なレベルで間に合う。工事の際には、断熱材や防湿シートに穴を開けることになり、細心の注意を払うこと。適当な処理をすると、穴の周囲から結露が発生し、構造材の腐朽に拍車をかける。