新型コロナで、改めて注目されたのが「換気」。もともと、日本の家は空気が自由に出入りするスカスカが特徴でしたが、この四半世紀でようやく「換気」という概念が注目されてきました。常時スカスカではなく、スカスカにしたいときとしたくないときを分けるのではなく、健康的な空気環境を一定にして保つことが「換気」の目的なのです。
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エアゾル感染の怖さ
空気中に漂う、病原体が含まれた微小粒子の飛沫を介して感染するエアゾル(空気感染と表現する場合もありますが、厳密には原理が異なる)。
1回の咳で約700個、1回のくしゃみで約4万個発生するといわれ、換気が不十分な室内や、混雑した室内に長時間滞在することでの感染リスクが高まります。
2022年7月25日、感染症や物理学、法学などの専門家らが東京都内で記者会見し「接触感染と飛沫感染を重視し、消毒の徹底を過度に強調する日本の基本的感染対策は世界とずれている」と指摘したニュースはまだ耳に新しいところ(毎日新聞)です。
通常2メートル以内で、ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着し感染する飛沫感染では、実際のところ、飛沫が大きければ落下し、小さければ飛沫から水分が蒸発してしまいます(麻疹はしか、結核、水ぼうそうなど一部の病原体は乾燥し飛沫核となっても感染力を失わず、空気中を漂う)。
これに対して、飛沫より小さいエアロゾルは、軽いためにすぐに地面に落下せず、空気中を漂い続けるのが怖いところです。
特に、人が密集し、換気の悪い、密集・密閉・密接の三密状態では、飛沫感染に加え、エアロゾルが漂いやすくなり、クラスター(小規模な集団感染発生)の大きな原因となることが分かっています。
24時間換気システム
健康のために必須なのが新鮮な空気。それを可能にするのが「換気」です。
しかし、連日の猛暑の中では、窓を開けるといっても、エアコンの冷気が逃げるようで戸惑ってしまいます。テレビでは、省エネ、省エネ、なのです。
ここでは、結論だけをまとめます(詳細は、このブログに掲載した住宅性能関連のコラムも理解したうえで読まれることをおすすめします)。
現在、お住まいの住宅が2003年7月以後に建てられたものであれば、改正建築基準法により24時間換気システムが義務付けられているはずです。
しかし、実際にはスイッチを常にオフにしていたり、中には、スイッチの場所さえ知らないで住んでいる人も少なくありません。
日本人のDNAにある住宅観は「家は夏を旨とすべし」。換気などしなくても、窓を開ける、もともと隙間風だらけでOK、が基本ですから(これは基本的に素晴らしい住宅哲学ですが)、機械換気の習慣化は難しいと思います。
台所の換気扇もOK
高断熱・高気密住宅の普及と共に、建物の気密性は高まっています。
換気と気密性とは密接な関係がありますが、それでも、日本の住宅(特に戸建て)の大半は、C値(相当隙間面積 ㎠/㎡)が計測できないほどのアバウトな性能の状態で、計画・定量的な空気の入れ替えができない住宅が多くを占めます。
四季を通じて解消できない結露、カビ、ダニなどの問題は、屋内の通風よりも実は、この断熱・気密・換気のバランスなのです。
言い換えれば、日本の住宅の大半はいまも、換気装置を運転しなくとも、常に、どこかで空気が出入りしている状態で、エネルギーは垂れ流しに近いといってもいい過ぎではないはずです。
24時間換気システムは、C値が最低でも1.0㎠/㎡程度ないと、定量的な換気ができず「自然任せ」になっていることを理解しておいてください。「自然任せ」とは「いつも換気されている」状態ではありません。外の風圧や住宅の内外での温度差によって換気量が大きく左右されることであり、ときには、ほとんど空気が入れ替わらないという危険な状態をつくりかねないのです。
24時間換気システムはその名の通り、24時間連続して運転するのが基本です。空気は出入りしますが、当然、エアコンの冷気なども逃げてしまいます。熱中症もコロナも予防しなければならないこの季節は、いのちを守ることが第一。エアコン運転も換気の運転も仕方がないと割り切りましょう。
ただし、断熱・気密・換気の性能が数値で裏付けられているような住宅では、エアコンをつけながら、10分程度窓開け換気をする、機械換気を連続運転する、といったことでも体感温度は大きく変化しません。このことは下記の別記事をご参照ください。
建物が古く、24時間換気システムがないというお住まいでも、トイレや浴室、台所などには換気扇があるはずです。
どこか1カ所だけ、換気扇を24時間運転するだけで換気の効果はあります。
時々は、排気量が大きい台所の換気扇を運転し、一気によどんだ空気を排出することも考えます。その場合は、台所から離れた窓を開けると、大量の空気の入れ替えができます。
効率的な窓の開け方
窓を使った換気のポイントをまとめます。
ズバリ、次の3つだけでも覚えておきましょう。
①空気の「入口」と「出口」をつくる。
②1カ所の窓開けより、2カ所の窓開け。
③複数の窓がある場合は対角線上にある窓を開ける。
※参考
YKK AP資料
https://www.ykkap.co.jp/consumer/satellite/lifestyle/articles/ventilation/
複数の人が1つの空間で過ごすときには、24時間換気システムと時々の窓開けによる換気を行いつつ、エアコンを使用します。
エアコンは止めてはなりません。数日、留守にするときでも、30℃設定のままお出かけするくらいの気持ちでかまいません。
繰り返しますが、夏は、省エネよりもコロナ対策。室温が28℃以下(エアコンの設定温度ではない)を確保できる範囲で行いましょう。
①24時間換気システムを24時間ONにする。海外製の換気装置はOFFスイッチがない製品もあるほど、「換気はオフにしてはならない」が基本。連続運転しても電気代は1カ月、スタバのコーヒー1-2杯程度。
②2003年以前に建てられた24時間換気システムのない住宅では、トイレや浴室などの小さめの換気扇を24時間運転するだけで換気効果がある。
③急いで大量の空気の入れ替えをしたい場合は、台所の換気扇を運転する。その際は、できるだけ台所から遠くの窓を開けることで、より広い空間を、素早く換気できる。
④室内が暑い場合は、熱中症予防のためエアコンは止めない。複数の人が室内に集まる場合は、対角線上の窓を少し開けることを徹底する。省エネより生命を守る。このためだけにエアコン使用分を電気代に換算しても、一回の病院代にも満たないはず。
⑤24時間換気の効きめが感じにくいときは、窓開け換気、時々の台所の換気扇を回すなどのハイブリッド対策。
おまけ:
エアコンの連続運転(外出時、止めるか、止めないかなど)がいいか悪いかといった記事が、この時期、増えています。結論からいえば、建物の断熱性能、気密性能、日射遮蔽対策の有無などにより、エアコン本体の運転手法を語ること自体が誤りです。ドイツに代表されるEU仕様の断熱・気密性の高い構造で室内を25℃にするためにエアコンを運転するのと、窓を開けっぱなしにした百年前の古い町家で室内温度を25℃にするためにエアコンを運転するといった、ちぐはぐな条件で電気代を比べることは無理があります。
※参照 厚生労働省資料
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000657104.pdf