衣食住のなかでも、日々の「食」と健康との関わりは密接です。1日に2キロ前後も体内に入るのですから、水にも食糧にも健康的な素材は欠かせません。しかし、1日に20キロも体内に取り込まれるものがあります。空気です。空気の質によってはシックハウスも懸念され、健康との関わりは無視できません。食材、水以上に関心を持ちたい空気の質と住まいと健康の関係。
Contents.
突然始まった頭痛の原因
A町のあるお宅を訪ねました。
話を聴いているうちに目頭がじゅわっと痛み始め、そのうち頭痛が始まりました。
最初は風邪かなと思いましたが、帰り際になって原因がわかってきました。
芳香剤です。
玄関、居間、廊下、トイレ(確認のためお借りしました)など、あらゆる場所に芳香剤が置いてあります。
1つ2つなら、むしろ香りを楽しめたかもしれませんが、どこに行っても異なる種類の臭いに戸惑ううちに、頭痛が始まったのでした。
残念ながら、掃除があまりされていない様子。
屋内はどこも湿っています。
あちこちに、汚れが目立ち、タバコの臭いもします。
家の人たちは、せめていやな臭いをさせまいと、芳香剤をあちこちに置いて暮らしていたのでした。
常に発散される化学物質
建材に含まれるホルムアルデヒドは厳しくチェックされるようになり、2003年には、機械換気が義務付けされました。
しかし、家具や家電製品、芳香剤などから発生する化学物質は、どれだけの量でどんな影響が出るのか、いろんな物質が合わさってどんな化学反応を起こすのかなど、解明されていないことがたくさんあります。
参考までに、住宅に使用される建材は現在、下記のような規制があり、換気との関連性が示されています。
(1)ホルムアルデヒドを発散する内装仕上げの面積を制限
ホルムアルデヒドを発散する建材はJIS・JAS及び大臣認定によって、発散量の少ない順にF☆☆☆☆、F☆☆☆、F☆☆、(F☆)と等級づけされ、等級によって使用できる面積が異なる。
→F☆☆☆☆マークの建材を使用するのが得策。
(2)常時換気できる設備の設置を義務付け
ホルムアルデヒドを発散する建材をまったく使用しない場合でも、原則として全ての建築物に一定以上の換気能力を持ち、常時換気ができる設備の設置が義務付ける。居室では0.5回/時以上の常時換気設備が必要。
→建物本体が自然素材が多く使用されても、家具についてはホルムアルデヒドなどの規制が甘く、安価な家具は海外生産が多いのでF☆☆☆ランク以下が大半。
(3)天井裏や床下、収納部材の内部の制限
天井裏、作り付け収納部材の内部などの下地材(柱や梁のような「軸材」は除き、構造用パネルなどの建材が対象)もホルムアルデヒド発散の少ないF☆☆☆以上の建材を用いる。居室へのホルムアルデヒドの流入を抑制するために、気密層または通気止めによる対策をしなければならない。
→見えない部位にこそ、健康に害のある素材を使用しないようビルダーと取り決めする。
換気の基本は定期的に窓を開け、空気を入れ替えること。しかし、定期的にできないからこそ、機械に任せた換気で空気を新鮮に保たなければならない。
1日に吸い込む空気の量
私たち人間が1日に摂取する飲食物は量に換算すると2キロ程度。
しかし、空気は0.5リットル×28,800回=14,400リットル=20キロ にもなります。
ごはんにすると、約100杯分。
飲食物として体内に入る化学物質は肝臓という解毒器官を通って全身を回りますが、空気から取り込んだ化学物質はそのまま血液に溶け、全身に回ります。
自然素材をたくさん使って建てたつもりでも、家族が入居したその日から、自分自身がたくさんの化学物質を取り込んだ生活を始めてしまいます。
家具やファブリックがまだ新しい引っ越し直後の空気環境は、どんなふうになっているのでしょうか。
家具や家電の量、換気システム、気密性能によって大きく異なりますが、残念ながら、個々の住まいに応じて、ホルムアルデヒドなどの測定を行うしかありません。
家のなかには抗菌処理製品、殺虫剤、カビ取り剤、衣料用防虫剤、消臭剤、芳香剤、掃除機の紙パック、制汗剤、抗菌加工の衣類など数えきれないほどの化学物質が大量に存在します。
いま、私たちの目の前にある化学製品はいくつあるのか、数えきれませんし、化学物質同士が組み合わさると、星の数ほどの有害物質に囲まれてしまうリスクもあるのです。
2003年から義務化となった24時間換気。1時間に0.5回は空気が入れ替わるようにする。
自然素材がほとんどない
古い家でも、タンスやケースから取り出した衣類には、防虫剤の化学物質が含まれることがあります。
それらがしみこんだ衣類を身につければ、否応なく化学物質を吸い込んでしまいます。
クリーニングから戻ってきたばかりの洋服にも、溶剤が残留している場合があります。
室内にかけておくだけで、ホルムアルデヒドを測定すると強く反応する現場がいくつもありました。
雨の日など、部屋を閉め切っておく時間が長ければ、濃度は一層高まるでしょう。
毎日使用する掃除機の紙パックにも、殺虫剤が含まれている製品があります。
抗菌加工といわれるものですが、掃除機をかけるたびに殺虫剤の成分(農薬成分)を室内にまき散らせることになります。
防虫・抗菌加工されていない紙パックもありますので、そうした製品を選びたいところです。
殺虫剤も化学物質。
しかも、虫といえども、生命を殺す成分を含みます。
スプレー式、燻煙式、マット式など種類は豊富ですが、燻煙剤を使用したあとは臭いも成分も長く残ります。
昔の家も換気はできない
こういう話題になると、「だから昔のような隙間の多い、スカスカの家がよかった」という話になりがちです。
確かに、昔の家は断熱も気密もないに等しく、自然の成り行きの換気でそれなりに屋内の空気が入れ替わっていました。
しかし、50年も100年前の日本の家は、家具はもちろん、食品の包装も買い物袋も、住宅の建材や建具まで、ほとんどが木や紙、石などの自然素材だったのです。
納豆を例にとってみます。
藁(わら)に付いている自然の納豆菌を利用したものは、そのまま藁に入ったまま売られ、樹皮を薄くスライスした経木で一つひとつ包まれるなど、容器は全て自然素材でした。
駄菓子屋さんで買うお菓子は、白く薄い紙袋に入れて渡されました。
レジ袋もなく、お母さんたちは買い物かごを使い回し、近所でお豆腐を買うときなどは、鍋やボールを持って買い物に行ったのです。
ブリキのバケツからポリバケツに変わったときなど、日本人の多くは初めて文明人になったような気持ちになったはずです。
それくらい家のなかに化学物質でできたものが少なかったことがわかります。
家のなかの空気が換気されるのは、建物に風圧がかかる場合と屋内外の温度差があるときだけ。
そのほかの状態では、窓を全開にしておいても空気が入れ替わることはありません。
それでも自然素材でできたものばかりだった昔の生活では、シックハウスなどは無縁のものだったのです。
昔の家だから、いつも換気ができる、というのは誤りです。
気密性を高める意味とは
化学物質がゼロにならない現代の暮らしでは、計画的に換気ができる家を建てる、24時間連続して換気を徹底することが重要です。
換気を計画的に行うためには、曖昧な空気の出入りをなくし、気密性を高めることが原則。
建築基準法で機械換気が義務付けになっていますが、24時間、運転を止めずに換気をしている家庭はまだ少数です。
窓を開けっぱなしにしておくことも効果はありますが、冷暖房のエネルギーが逃げっぱなしになります。
夜間、窓を閉めると、換気効果は一気に下がります。
先に述べたように、風圧、温度差の条件がないと、空気は動きません。
隙間だらけの家では「無計画」な換気しかできないのです。
穴だらけのストローで水を吸っても、口に入ってこないと同じで、隙間だらけの家では、換気を連続運転しても空気の出入りは制御できません。
エネルギーが出ていくばかりなのです。
右手が換気装置。高断熱住宅では第2種はあまり使われず、熱損失の少ない第1種や第3種が主流。
3種類の換気を理解する
2003年、屋内の空気を1時間に0.5回入れ替える機械換気が義務付けとなりました。
この時期を境にシックハウス問題は減少傾向に転じましたが、気密性が高まるに連れ、換気は計画的に行なうことは必須といえます。
換気方式には次の3つがあります。
第1種換気方式
給気・排気とも機械換気で強制的に行う換気方法。
機械換気の中で最も確実な給気・排気が可能。
空気の流れを制御しやすく戸建・集合住宅ともに適しています。
第2種換気方式
給気は機械換気で行い、排気は排気口から自然に行う換気方式。
03
第3種換気方式
排気は機械換気で強制的に行い、給気は給気口などから自然に行う換気方式。
排気が機械換気のため、湿気が壁内に侵入しにくい。
高気密住宅では、低コストで計画換気が可能。
※出典 日本スティーベル
換気を止めると、すぐに汚れた空気の環境ができます。
汚れた空気をごまかすために、化学物質を使い、さらに汚染物質を増やしていくのでは本末転倒。
高気密にすることで、息苦しくなるといった心配はほとんど無用です。
潜水艦ではありません。
住宅建築のレベルでは、隙間総面積=C値を限りなくゼロに近付けても、ゼロになることなどないのです。
気密性を高めるほど空気の流れ、出入りする量を制御しやすくなります。
24時間、連続して換気をしても電気代は月数百円~1000円前後(面積により、第1種はもう少しかかかります)。
新築時、ホルムアルデヒドなどの数値が指針値を大幅に上回っている場合でも、約3カ月程度で指針値以下となります。
日本スティーベルの第一種換気方式・LWZシリーズ(セントラル換気)。熱(温度)交換率は90%。冬であれば外気温が0℃の時、室内の気温 が20℃だった場合、外気温を0℃のまま給気せず、18℃まで温めてから室内に給気することができる。つまり、エアコンで余分な空 気を暖めたり冷やしたりする必要がなくなり、冷暖房費の削減につながる。出典:日本スティーベル
ベイクアウトで発散する
新築、リフォーム後、入居前に室温を30~35℃に引き上げ、数日間継続して建材等に含まれる化学物質を発散させる「ベイクアウト」という手法もあります。
山形大学環境保全センターの報告によれば、
竣工後2~4ヶ月の新築住宅においてベイクアウト(約30℃、24時間~72時間)を実施し、実施前後における化学物質の室内濃度変化を測定した研究報告によると、ホルムアルデヒド濃度が約23~52%減衰し、加熱温度を高くするとその効果が増大すること、揮発性有機化合物に対しては、減衰効果が認められないケース(濃度が上昇するリバウンド現象)と数十%の減衰効果が認められたケースがあること、ベイクアウトの実施時間を延長することでその効果が増大する傾向が観察されたことなどが報告されています。
http://www.id.yamagata-u.ac.jp/EPC/17disease/hausu/5haijyo.html
とあります。
電気ストーブなどで強制的に室温を高めますが、冬期よりも夏期に行なうと作業が行いやすくなるでしょう。
いずれの場合も、対処したあとに家具や家電製品、その他の化学物質を追加すれば、当然空気環境は悪化します。
したがって、新築の際は、気密性能向上→計画的・定量的な連続換気→空気質の安定という図式が理想と思われます。
有機農法、無農薬、ミネラルウォーターなど、口から入るものには気をつける人が多いのですが、空気に関していうと、日本人はまだまだ無頓着。
健康を考えるのであれば、1日に20キロも体内に取り込む空気のことは、避けては通れないのです。
良心的なビルダーはい1棟ごとに気密測定を実施。気密性が高いほど、計画的な換気が可能になり、室内の空気が常時、新鮮に保たれる。気密性が高いからといって、木造住宅の場合は、息苦しくなるなどの問題は皆無。季節によっては、窓を開放しても全く問題ない。
2.すかすかの家だから、昔の家だから、いつも換気ができる、というのは誤り。機械換気が義務付けられても24時間換気をしている家庭はわずか。屋内では家具や家電製品、芳香剤などから大量の化学物質が発生しており、健康への影響がわからない部分も多い。換気装置を運転しても、気密性が低い家では、穴だらけのストローで水が吸えないような状態で、計画的・定量的な換気ができない。
3.住宅建材はホルムアルデヒド発散量の少ない順にF☆☆☆☆、F☆☆☆、F☆☆、(F☆)と等級づけされ、等級によって使用できる面積が異なる。自然素材を多く使用しても、家具やファブリックがまだ新しい状態では、引っ越し直後の空気環境は不安が残る。新築・リフォーム後、何年経っても、化学物質を屋内からなくさない限り、換気は必要。空気清浄器はわずかな範囲でしか空気清浄効果はない。
5.気密測定を実施して隙間相当面積=C値を把握する。気密性能は、現場での技術が必要となるため、ビルダーの施工技術の目安ともなる。
6.入居前に室温を30―35℃にあげて数日間放置し、化学物質を発散させる「ベイクアウト」という方法もある。ただし、入居後、化学物質を排除した生活はほぼ不可能なので、やはり換気計画が必須。
7.一日、飲食物として体内に入るのは2キロ。空気は重さにして20キロになるため、良質な空気が健康の基本となる。いくら自然食を徹底してもアトピーが治らなかった人が高断熱・高気密で計画換気のできる家に入居し、症状が改善した事例は少なくない。
8.Q値1.0前後の「超」高断熱住宅では第1種換気方式、その他はコストが割安な第3種換気方式が採用される。