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そして、私たちの「居場所」について。

【ドアか引き戸か】=家にドアは1つだけでいい。

 

  

 

 

 

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引き戸は日本で生まれた建具。海外の伝統家屋ではほとんど見かけません。ドアの開閉には一定の力と面積が必要になりますが、指1本でも開けることができるのは引き戸ならでは。設置にも少しの幅があればOK。デッドスペースがありません。車椅子の人でも開閉がスムーズなバリアフリー建具でもあるのです。

 

Contents.

 

世界に誇るべき日本発祥の建具

平安時代には、衝立、屏風など間仕切りするものはまとめて「障子」と呼ばれていました。

それが開閉できる機能を備え、外部と仕切る建具として引き戸が生まれ、屋内でも柱と柱の間に襖ができ、それらも引き戸となったのです。


開ければ大空間、閉めれば狭い空間になる引き戸は融通性に富んで、現代でも日本を代表する建具として根付いています。


石造りの壁に穴を開けて開口部=窓・ドアにしたのが西洋の家づくりなら、柱を立て、それらを梁でつないで開放的な構造としたのが日本伝統の軸組み工法。

 

もともと柱と柱の間が開口部のようなつくりでしたので、間と間をつなぐ「間戸」が「窓」となり、引き戸が生まれたのは必然ともいえます。


韓国や中国にも障子や襖のような引き戸は存在しますが、装飾のない板1枚の引き戸があるのは日本だけといわれています。
 
大きさや幅を自在に調整でき、複雑な金物が不要なのも引き戸の利点で、もともとはレールや戸車、鍵などの金物が一切使われませんでした。

 

昔の家ではギーコギーコ、ギシギシっと開閉するシーンをよく見かけました。

 
乾燥し冷涼な気候の欧州では、自然界と家を遮断する構造に穴を開けて開口部とし、密閉性の高いドアを生み出しました。

 

これに対し、高温多湿で雨の多い日本では深い軒を設けて窓は開けっ放しでもいいように引き戸を設けることが多くなります。

 

気候風土の違いで、建具まで異なることは興味深いところです。

 

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子ども部屋はあえて引き戸とし、かすかに家族の気配を感じられるようにした。レールのあるタイプのほか、天井や壁の上にレール設ける上吊り式もあり、いずれも開閉はとてもスムーズ。

 


 

 

 

 

  

 

 

 

空間を大きくも小さくもできる

戸建て住宅では玄関を引き戸するところが多く、家のなかにも襖や障子が引き戸として活躍しているはずです。

わずかな力で開閉が可能で、その開閉に必要な面積もドアより少なくて済むといった理由からでしょう。


ドアの開閉のために、一歩二歩下がって開けるには90センチ幅程度のスペースでは間に合いません。

その点、引き戸は横にスライドするだけなのでスペースも最小限で済み、敷地の狭い都市型住宅でも便利です。


大きな荷物を手にしたまま出入りもできますし、ベビーカーでもOK。

片手で戸を押さえていなくてもいいのは意外と気づかれない魅力です。

 

近年は断熱ドアに負けない断熱性の高い玄関引き戸もあり、雪の多い地域でも増えています。
屋内で使う場合は防音性が問題とされてきましたが、防音性の高い製品が出回っており、生活音を気にする家庭でも安心。
 
ドアを開けておいても、向こう側と空間がつながる感じはしませんが、引き戸の場合は、開けておくだけで空間が一気に拡大します。


もともと大きな空間を必要なときに開けたり閉めたりする建具ですので、引き戸にする場合は出入りをする機能を求めるのではなく、2室を1室にしたり2室にしたりする柔軟かつ曖昧な建具として発想するほうが自然かもしれません。

 

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開閉がスムーズということは、動線確保もスムーズということ。
                                                                                           

 

 

 

 

 

 

指1本で開閉できるバリアフリー

引き戸はバリアフリーの建具でもあります。

車椅子での移動を想像してみてください。

 

ドアの前に車椅子を移動します。ノブに手をかけて開ける。

ドアが進行方向に開くのであれば問題ないのですが、逆の場合は、いったん車椅子は奥に下がり、開いたスペースに入り込むようにして前進して侵入する格好となります。
 
西洋のドアは進行方向に開く仕組みですが、日本のドアは外向きに開く仕組みが大半です。

特に玄関ドアは外開きばかりで、玄関で靴を脱ぎ履きする習慣のためにというのが理由でしょう。

 

車椅子だけではなく、家を訪ねてきたお客さんも「こんにちは」と玄関チャイムを押したあと、家の人がドアを開け、お客さんはドアが開く分、一歩退くという行動パターンになってしまいます。

西洋のゲストは、日本の家の玄関先でムッとしてしまいます。


ドアの開閉にはノブを握っての操作が前提ですので、お年寄りや脳卒中の後遺症などで左右の半身が不自由な場合は、困難が生まれます。


その点、引き戸は車椅子での移動の際も、指1本のわずかな力で開閉でき、段差や通路で戸惑うことも少なくなります。

下にレールがない上吊り引き戸ならば、床面に凹凸がなくひっかかることもありません。
 
浴室や洗面所、洗濯コーナー、トイレなども引き戸にしておくと、車椅子ばかりでなく、健常者の使い勝手も快適です。

 

防音が必要なところだけ気遣いするだけで、屋内にはドアが1枚もなくたっていいくらいといっても言い過ぎではないでしょう。

 

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階段を中心にホールを構成し、ぐるりと回遊できる動線上に居室を配置。子どもたちの部屋が並ぶのであえてドアによる密閉性を避けた。

 

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引き戸の設置には一定幅の直線があれば十分。ドアのように開閉のための面積がいらない。ドアの併用を考慮すればもっと便利。

小さな空間を2つという発想ではなく、大きな空間を「いつでも開閉できる」のは引き戸ならでは。夫婦の寝室もこのように曖昧な仕切りにすると、どちらかが介護状態になったときなどに便利。

 

 

 

 

 

 

 

 

暮らしの場面ごとに使い分ける

引き戸を左右にスライドするスペースがあれば、引き戸は基本的に設置する場所を選びません。

 

引き違いを先にイメージしますが、1枚戸を壁に沿って開閉する「片引き戸」もあり、1枚を開けると2枚、3枚と連動して開くタイプの引き戸もあります。

 

壁の内部に引き込みをつくり、開け放ったときにはそこに収納する「引き込み戸」も人気です。

2枚の戸を左右に開ける「両開き戸」は間仕切り用の扉としても便利。

 

壁の上部のレールから吊る「上吊り戸」タイプは、床にレールがないので車椅子でも移動は楽ですし、つまずくこともなく、掃除も楽。

何より片手でもスムーズに開くので、引き戸のなかでももっともバリアフリーといえます。

 

最近の製品のほとんどが、勢いよく閉めてもゆっくり閉じるソフトクローズ機能がついているのには進歩を感じます。

 

リフォームの場合も、壁を壊さないで半日程度で施工できる玄関引き戸も登場しています。

 

リフォームの際、屋内のドアを引き戸にすることで、移動は快適になり、バリアが開放される場所が増えるといいと願うばかり(取り付け場所や体力壁の有無などで難しい場合もあります)。

 

空間を固定するのではなく、開放も間仕切りも自在にする引き戸は、千年もの歴史を経て、いまもなお日本の住まいで機能する優秀な建具です。

 

空間の伸縮を可能にすることは、その都度、必要に応じて生活空間を伸縮させる暮らしの知恵の体現でもあります。

 

機能=居室としてきた西洋の住文化と曖昧さを旨としてきた日本の住文化を決定づけてきたのは、引き戸と言い切ってもいいのはないでしょうか。

 

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防音性が低いのが引き戸のデメリットとされていたが、最近では遮音効果を備えた引き戸も豊富にあり、子ども部屋や寝室、トイレなどでも使用できる。出入りの際、向こう側に人がいてもぶつかる危険がないのも大切なメリット。

 

次世代住宅ポイント

 

まとめ

1.引き戸は「夏を旨として」発展してきた日本建築の名残。自然界と遮断する西洋の建具とは異なり、自然界とつながる機能を重視した日本固有の建具でもある。

 

2.大きさや幅を自在に調整でき、複雑な金物が不要なのも利点。高温多湿で雨の多い日本では深い軒を設けて窓は開けっ放しでもいいように引き戸を設けることが多い。

 

3.ドアは開閉のためにスペースを要するが、引き戸はスライドするだけなのでスペースも最小限で済み、都市型住宅でも便利。2室を1室にしたり2室にしたりする柔軟かつ曖昧な建具。

 

4.引き戸は車椅子での移動の際も、指1本で開閉でき、段差や通路で戸惑うことも少なくなるバリアフリー建具。上吊り引き戸ならば、床面に凹凸がなくひっかかることもなく、開閉はよりスムーズ。

 

5.出入りする際、向こう側に人がいても、ドアの開閉時より危険が少ない。

 

6.引き戸のデメリットはコスト。ドアなど、他の建具に比べてコストが高くなる場合もある。コストがかさむ場合は、大きな空間をつくっておき、パテーションなどで曖昧に仕切ることも視野に入れる。