家づくりの際、子ども部屋をどんなふうに計画したらよいのか悩んでしまう、という話をよく聞きます。子どもが独立したあとは物置になってしまった、という話も珍しくありません。子どもにとっても、親にとっても、生涯、無駄にならない子ども部屋にするために「可変性」という観点から考えます。
Contents.
子どもの個室は必要なのか
新築の際、ほとんどの家族が人数分の子ども部屋を考えてしまいます。
2人で2室ならまだしも、3人だから3室というお宅もあります。
思春期が近い子どもを抱えるお宅だと、子どもから個室がほしいという要望を突きつけられることも想定されます。
子どもにとっては、自分の縄張りを得ることも夢の一つ。
誰もが、親の監視から逃げられることを考え、狭くてもいいから自分の部屋がほしいと願ったはずです。
2人の子どもがいるのに、1室だけという人は、よほど家のことを勉強している人かもしれません(理由は後半で)。
子どもが2人の場合、最初は大きな空間にしておき、ドアも2つ設け、思春期になってから室内を間仕切りできるようにしておくのも、一つの考え方。
棚もベッドもデスクも広さも、固定しない。子どもの成長、部屋を使用する人数に応じて、柔軟に変化できる空間がベスト。by Bliss My HouseIdea
日本人のプライバシー感覚
わが家を振り返ると、子どもたちがプライバシーを主張し始めたのは中学生くらいからでした。
それまでは、娘も息子も、勉強はいつもリビング。
自分の部屋があったにもかかわらず、勉強のために使っていたのは、高校受験直前の数カ月間だけだったのです。
子ども部屋は、寝るだけのスペースだったことになります。
わが家のような暮らしだと、子どもが3歳ならあと10年は個室としての子ども部屋は不要となります。
10歳でも5年間はただの寝る空間です。
しかし、日本では、小学生まではたいてい親と寝ていますので、寝るための部屋も不要となり、子ども部屋はただのモノを置くだけの部屋に近い空間という期間が長いことになります。
子どもたちがいなくなったあと、用を解かれた子ども部屋は物置と化し、それが2室あれば2室とも、無駄な空間になってしまうのです。
大きな空間を2人で使う。家庭の中の、兄弟という小さな社会でルールを身に付ける。
機能を決めつけない可変性
少し前まで、日本の家の間取りの大半は、絵に描いたような「田の字型間取り」でした。
玄関を入る。右手に居間、左手に和室。
暗いホールの正面が行き止まりで左右どちらかにトイレやお風呂。
その手前には2階に上がる階段。
そうでなかったら、左右が反対の配置のどちらかでしょう。
目を閉じても、真っ暗な夜中でも泥棒が徘徊できる間取りで、子どもにとっては、帰宅しても親と顔を合わせることなく2階の自室に上がることができ、思春期以降の子どもにとっては非行の温床となることも少なくない間取りです。
思春期になると、子どもたちはドアにカギをかけ、そこにどんな友だちがいつ来て、いつ帰ったかもわからない。カギだけではなく、自分の部屋にミニキッチン、テレビなどを要求し始めると、プライバシーを通り越し、何のための家族、何のための家であるかがわからなくなってきます。
こうしたことを子ども部屋の「装置化」といいます。
日本ではまだ、赤ちゃんの段階から個室を与える文化は定着していない。一定の時期まで親と過ごすことを考えると、子ども部屋はおのずと「寝るだけ」のスペースがあればよいことにもなる。by Bliss My HouseIdea
あとで仕切れば済むはなし
子ども部屋は最初から仕切るのではなく、当初は、大き目のワンルームとして考えます。
子ども1人ごとに6畳なり8畳なりの個室を与えてしまうことは、子どもに大人のサイズの服を与えてしまうようなもの。
Mサイズであれ、LLサイズであれ、大人のサイズはいずれも、子どもにとっては意味をなしません。
子どもが2人で8畳×2=16畳(6畳×2でもいいのですが、一つの例として)というのが、これまでの発想でしたが、これを16畳ではなく、一回り小さい12畳を確保する考え方に転換してみます。
12畳といえば、かなりの大空間です。
受験期や思春期などに2つに仕切ることを前提としますが、最初から8畳を与えるより、12畳の大空間を与えられるほうが、双方、のびのびした空間で過ごすことができるのはおわかりでしょう。
間仕切りを壊すのは大きな工事になりますが、1室を2つに仕切る工事は、半日もあれば済んでしまいます。
このように「子どものための」という固定した機能に縛られず、最初は曖昧な空間とし、生活の変化に応じて変えていけるプランを「可変デザイン」、「可変プラン」などといいます。
兄弟姉妹の仲が良ければ、本棚や衝立、パネル、ロールカーテンなどで軽めに仕切ってもいいでしょう。
下記の写真のように、最初から可動式の引き戸を設けて、開閉自在にしておくことも合理的です。
6畳を2つ設けるよりも2坪の削減となり、単純計算ですが建築費が坪80万円として160万円もの節約となります。
図1
図2
子どもが3人の場合。図1では、寝る場所と勉強する場所(実際はデスクもなくフリースペース)とを区分けし、どちらの空間も往来できるように大空間としておく。図2は、長男が受験期にさしかかった時期に簡易な間仕切りを設け、独立した空間とした。長男が独立後は長女、次女が1部屋ずつ使用し、子ども3人が巣立ったあとはまた間仕切りをはずして大空間に戻し、両親の趣味室や客間、あるいは親との同居などに活用する。このように「機能」を固定せずに、その折々の用途に応じて機能を変化させることを「可変デザイン」という。
この家でも、あらかじめ大空間にドアを2つ設けておき、将来、必要になってから間仕切りする可変デザインとしている。
by Bliss My HouseIdea
大人も子どもも片付けが基本。狭い空間でも最小限のモノと設備で、おおらかな子ども空間はできる。
吹き抜けで気配をつなげる
吹き抜けのない場合は、そのまま1階、2階が断絶されます。
以前は個室にこもった子どもに声をかけるために、インターホンまで付ける家庭もあったのですが、これでは家のなかにアパートがあるようなものです。
子ども部屋を2階に設ける場合は、リビングやダイニングと吹き抜けで空間をつなぐ手法もあります。
子ども部屋が複数ある場合は、共用スペースとなる部分が吹き抜けに面する設計もおすすめ。
子ども部屋から吹き抜けに面する部分は小窓を付けるなどして、開閉自在にします(写真下)。
閉じたところで1階の家族の生活音は感じられますし、その程度の気配が、子どもにとってはちょうどよい安心材料になります。
朝、1階からおかあさんが「起きなさーい」と声をかければ、子どもを部屋まで起こしに行く必要もありません。
ご飯のときは、階下から立ち上ってくる料理の匂いだけで、合図になりますし、古き良き日本の家屋、日本の家族の形式も踏襲されます。
20年、30年前ですと、天井付近の温度は高く、1階は寒くてしようがないというのが吹き抜けのイメージでした。
が、近年の断熱性能の向上で開放的な間取りができるようになり、廊下、上下階などで断絶しなくてもよいなど、デザインの幅が広がってきたのです。
Q値=熱損失係数1.9~1.6W/㎡・K程度の性能を有する家であれば、吹き抜けを設けても床面と天井面の温度差は1、2℃しかありません(東北―北海道の厳寒期でもです)。もちろん、全館暖房にしても、旧宅より割安か、同レベルの光熱費で済んでしまいます。
屋内の「音」の響きの問題が生じてきますが、だからといって家族の住まいのどこかを防音処理するなどは論外。
家族だからこそ互いの気遣いで問題を共有するくらいの嗜み、礼儀を育むことこそ、家族と家の役割であるように思います。
子どもが巣立ったあとには
子どもの独立後は元の大空間に戻し、両親の趣味の空間や客間として使用することができます。
子どもたちが結婚し、お孫さんたちを連れて帰省する時期には、かつての自分たちの部屋を宿泊スペースとするのもいいでしょう。
両親の趣味室として活用することもできるのがメリットです。
子どもが独立したあとの部屋はたいてい物置化しますが、可変デザインなら、どんなふうにも転用でき、いつも進行形で使用される空間となります。
もう少し発想を拡げてみると、思春期を迎えるまでの子どもの居場所を、家のなか全てと考えれば、リビングやダイニング、床の上、階段までも勉強や読書のスペースとなるのです。
小さな家でも、ゆとりある家にするには、できるだけ間仕切りを排し、大きな空間を開閉自在に使うことを基本に考える。そうすることで、板1枚でも、カウンターを設けて書斎がつくれるなどの利点がある。by Bliss My HouseIdea
互いを察し合える家族空間
押入れのなかや部屋の隅、階段に座って本を読むと、落ち着いて読めたり、学べる経験は、誰もがお持ちだと思います。
音のない環境がいいわけではなく、適度に人の気配があることも勉強がはかどる環境になります。
図書館がいい例です。
静かだけれど、近くに誰かがいる気配があるほうが、安心して読書も勉強もはかどるようです。
子どもたちが、リビングやダイニングで教科書を開いたら、親は少し離れて新聞を開いたり、知らんぷりをして家事をしたりすればいいでしょう。
言葉を交わすことのない時間でも、親と子の気持ちはちゃんとつながっています。
何歳で子ども部屋を与えるべきというマニュアルなど、どこにもありません。子どもの自立は、三歩進んで二歩下がるみたいに、ゆっくりと進むのです。
数字では表わせない、言葉にもできない部分を探りながら、互いの絆を深めていく。そこにやがて、壁も床も天井も見えない、家族だけの【空間】ができます。
その子が家から巣立ったとしても【空間】はいつまでも心の中に残ります。
大人になったとき、どんな人でも、あたたかく迎え入れることのできる【空間】になっているかもしれません。
ワンルームの真ん中に吊り引き戸。開放は自在。
1.子どもが2人だから子ども部屋2室という固定概念にとらわれず、兄弟が幼いうちは1つの大空間を共有し、思春期を迎えた頃に簡単な壁を設けて間仕切りをする(そのために最初から入口は2カ所設置)、子どもの独立後はまた親の好みで空間の用途を変更する。これが【可変デザイン】。
2. できれば、玄関→ホール→2階子ども部屋という動線ではなく、玄関→リビング→(階段など)→子ども部屋という動線を設ける。
3.子どもへ部屋にミニキッチン、テレビなど、独立した生活ができる機能をもたせない。子ども部屋の「装置化」は家族の断絶のはじまりとなるケースも。
4. 屋内の「音」の問題は防音など建築的な対処ではなく、できるだけ互いの気遣いで問題を共有し解決する。
5.子どもたちが、リビングやダイニングで教科書を開いたら、親はそっとテレビを消す。その場が瞬時に、子どもの学習スペースとなる。