もっとほしい。もっと生きたい。もっと前に。もっと大きく。人生は限界、締め切りだらけなのに、私たちはいつも「もっと」を望みます。何かを「しない」ことは罪悪なのでしょうか。人生にもいつか終わりが訪れます。その締め切りを意識すること、しないことで得られること。
Contents.
みんな「締め切り」の中で生きている
限界。
水も電気も石油もガスも森林も有限のはずですが
私たちは、いつの頃からか、
そこに限りがあることなど考えもしなくなってしまいました。
みーんな、どこかにあって
なければ、どこからかやってきて
お金さえ払えば、みんな手に入ると信じてきたのです。
締め切り。
これも同じようなものです。
私たちは、
ほとんど例外なく、
あらゆる締め切りの中で生きています。
出社のタイムリミットは午前9時。
この仕事は○○日まで、あの仕事は○○日まで。
燃えるゴミは火曜日で、燃えないゴミは金曜日。
帰宅途中にスーパーで買い物する場合も
閉店時間は決まっていますし、
同僚たちと一杯飲んで帰るときには
終電も時間が頭から離れません。
住宅建築だと、細かな工程の連続ですから
一つの工程の期限が守られないだけで
その後の工程に大きな影響が出るのは必至となります。
「もっと」の先に待っているのは何?
時間やお金に、もっと余裕があればなあ、
とは誰もが思うことです。
もっと時間があれば、仕事も、もっとうまくいくはず。
出社時間がもっと遅ければ、
もっと寝坊ができる。
もっと時間をかければ、もっといいプランができる。
もっと時間をかければ、
もっといい家づくりができるし、
いいビルダーが見つかるかもしれない。
もっといいクルマや宝石、
ファッションもグルメも、クルマも…といった具合です。
数を選ぶことと深さを選ぶことの違い
アメリカのジャーナリストで、
ジョン・ガンサーという人がいました。
この人がある国の取材をしたとき、
現地の人から「たった3日間の取材で何がわかるのか」
と詰問されました。
彼はこんなふうに答えます。
「3年いたら、絶対に記事は書けないだろう」
私たちも同じような体験をいくつもしているはずです。
1時間程度で何ができるのか。
たったの2日間で、こんなに難しい仕事を
完成できるはずはない。
確かに、一つの現場に1時間ではなく、
5時間いたとしたら、
収集できる情報量、仕事の量は多くなります。
では、5日間、5か月間で何ができるでしょうか。
500倍、5000倍の情報を得られるか、
理解度も数百倍になるか、実績が劇的に増えるといえば、
そういうわけにはいきません。
極論かもしれませんが
私たちの寿命が200年に伸びたとしたら
80年の人生よりも
数倍、充実した内容の人生を送られるかと考えると
自信をもてそうにないのです。
いま・ここでしか生きられない私たち
締め切り、あるいは限界のなかで、
最大限の力を尽くす。
言い換えれば「諦める」ほかはないのです。
私たちは、常に締め切りの中で
一つの結論を下さなければならない状況に
置かれていることを、
認識しなければなりません。
漫然と数時間かけて一つの作業をするよりも
与えられた締め切りの中で
全神経を駆使したほうが
中身の濃い仕事ができることも少なくないことを
私たちは知っています。
私は過去でも未来でもなく
いま・ここ――にしか生きられない。
諦めて、前に進むほかはないのです。
締め切りを受け入れ諦めることの豊穣
借金で夜逃げをするような人でも、
直前まで自家用車はもちろん、
あらゆる家電製品に囲まれ生活しているご時勢です。
節電が叫ばれながら
コンビニの数も自販機の数も、
夜の街の明るさも日本は世界一です。
限界を意識する。
自分で自分なりの締め切りをつくってみる。
要は「もっと」のうちの、いくつかを諦める。
こうしたことだけで、
いろんなことが片付いていきます。
一見、マイナス思考に見える「諦め」。
前進、成長が感じられないかもしれませんが、
ものごとの深みのようなものを見せてくれることがあります。
そのもっとも顕著な例が、人間の寿命。
死を意識した人は、そうでない人より、よりよく生きる。
そんな文章を、
なにかの本で読んだことがあります。
ここでの「死」は「締め切り」そのものです。
生命の締め切りを考えるとき
いま、この瞬間が少しだけ輝きを放って見えてきます。
エネルギーも人間も、
そろそろ「もっと」を見直す時代なのかもしれません。
第1章 つながりすぎない(入ってくる情報が増えれば増えるほど心は乱れる/ 相手を屈服させて自分の価値を実感するという愚かしさ ほか)/
第2章 イライラしない(自分は何に怒りっぽいのかをチェックしてみる/ 悪意のない愚かさに怒っても疲れるだけ ほか)/
第3章 言い訳しない(知人が高く評価されるとなぜ反射的に否定したくなるのか/ 妬みはごく自然な感情、恥ずべきことではない ほか)/
第4章 せかさない(坐禅瞑想で、鈍感になった脳をリセットする/ ものごとに集中するには、頑張りすぎず、だらけすぎず ほか)/
第5章 比べない(健康に執着し、自分が老いて死ぬことを忘れている愚かさ/ どんな環境でも、今ここを「心が静かになる場所」にする ほか)
メールの返信が遅いだけで「嫌われているのでは」と不安になる。友達が誉められただけで「自分が低く評価されたのでは」と不愉快になる。人はこのように目の前の現実に勝手に「妄想」をつけくわえ、自分で自分を苦しめるもの。
煩悩に苛まれるとき役に立つのは、立ち止まって自分の内面を丁寧に見つめること。辛さから逃れようとして何か「する」のでなく、ただ内省により心を静める「しない」生活を、ブッダの言葉をひもときながら稽古。=「BOOK」データベースより。