Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【簡素・省略・余韻】=文章も写真も音楽も空間も、究極のテーマは「余韻」。

 

プロの小説家はもちろん。著名な研究者や専門分野で執筆機会の多い人でも、腕のいい編集者の手にかかると、2000字を500字くらいに減らしても、十二分に要点を伝達できる文章にできます。それだけ大半の人は、無駄なことを書いているのです。

デザインも同じ。限られた誌面に過剰なケイ線、必要以上に大きな活字、そこまで増やさなくてもいい写真の点数、目立ちすぎるノンブルやキャプションなど、過剰に情報を詰め込むタイプのデザイナー、余白を生かしてシンプルに徹するデザイナーなどいろいろです。


写真について大切にしているのは、キャプション(写真説明)を付けられる写真かどうか。テーマを絞り切った写真は、キャプションを付けるのも容易ですが、どんなに見た目のいい写真でも、伝達したいことを絞りきれない写真はキャプションが付けられません。撮り方次第で、カメラマンが「きれいさ」を優先しているのか「ストーリー」を大事しているのかがわかります。


住宅や空間のデザイン、インテリアでも同様のことがいえます。シンプルな家、シンプルな空間が売りの物件でも、伺ってみると無垢だらけ、色だらけ、家具だらけ、結局はモノが頼りの空間ということも少なくありませんでした。

 

 
 
ヘミングウェーは文章の推敲時に、ほとんど加筆することなく、文章を削除する作業を徹底しました。とりわけ、形容詞と副詞の少なさは世界一といわれます。もと新聞記者らしい書き方です。
 
向田邦子は文章を書くにあたって【簡素・省略・余韻】を常に意識していたと書いています。
 
文章に限らず、あらゆる表現は、引き算なのです。

絵でも音楽でも住宅でも、最後の決め手は「余韻」。無駄をなくすのは大切ですが、削り切ったその先で立ち上がる「余韻」の表現は永遠のテーマ。学びを繰り返すほかはありません。



  
 
 
 
※「数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで」 ベン・ブラット (著) 坪野圭介 (翻訳) DU BOOKS 

gently(穏やかに)、sadly(悲しげに)、extremely(非常に)など、主に-lyで終わる副詞の、1万語ずつの-ly型使用回数を調べると、スティーヴン・キング18位、マーク・トウェイン2位、アーネスト・ヘミングウェイが1位という結果だそうです(『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キングJ・K・ローリングからナボコフまで』(ベン・ブラット:著、坪野圭介:翻訳/DU BOOKS))。

ヘミングウエイの文章はそれだけ簡潔というのですが、その割に原文には
Then the fish camealive, with his death in him, and rose high out of the water showing all hisgreat length and width and all his power and his beauty(「老人と海」)
――のように1センテンスに意図して「and」を繰り返し使うなど、リズムにも気を配っていたことがうかがえます。
朗読して耳に心地よい文章がいい文章であるのは、英語も日本語も同じです。