正座というと、しびれる、膝が痛いなど、あまりいいイメージがありませんが、腰痛改善や睡眠の質の向上、産後の体力回復など、さまざまな効果があります。ヨーガのポーズの一つでもありますが、意外にも、日本での正座の歴史はまだ100年程度。痛くない程度に、ちょっとだけ楽しむつもりの正座について。
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起床時の正座が睡眠の質を決める
中国人の留学生の取材で「日本の生活でつらいことは」と尋ねたところ、即座に返ってきたのが「正座をすること」。
確かに、西洋ではもちろん、アジアの国でも正座の文化、習慣がある国は多くありません。
年に何度か冠婚葬祭などの席で正座をすると、気が引き締まり、まんざらでもないと思います。
が、長時間できるかといえば、とても、できません。
資料を調べていくと、日本に正座が浸透してから、まだ100年ちょっと。
江戸時代の中期頃は、正しい座り方といえば立て膝であり、胡座(あぐら)のような姿勢でした。
正座という言葉の歴史は百年少々
座り方の呼称はたくさんあります。
両足の裏を合わせるのが楽座(らくざ)、正座状態から足を左右にはずして尻を床につける割座(わりざ)、剣道の試合でよく見る蹲踞(そんきょ)、片方の膝を立てる建膝(たてひざ)など。
貝原益軒の『養生訓』に「坐するに正坐すべし、膝をかがむべからず」という記述がありますが、このときの正座は胡座に近かったことを示しています。
もっとも、昔の日本の家屋は板の間が大半で、畳は高貴な人のためのものでした。
いまでいう正座ですと、とても板の間に長い時間座ることはできません。
「正座」という言葉は1882年の「小学女子容儀詳説」で初めて使われ、座のスタイルではむしろ、まだ新しいものであることがわかります。
ヨーガの正座は「稲妻」の意味が
ヨーガでは正座をVajrasana /(ヴァジュラーサナ)といいます。
サンスクリット語で「ヴァジュラー」は「稲妻」という意味です。
骨盤まわりや背骨の強化、内臓の働きを高め、消化器官を活発にする、集中力を高めるなどの効果があるとされ、足の親指を重ねないのが、日本式の正座と少し違います。
産後の授乳時などに行なうと、骨盤と背骨を意識することで腹筋が鍛えられ、体幹を整え、骨盤底筋群を修復させることができるといわれます。
座骨がずしっと沈み、足首とすねの内側がゆったり伸びていくのを感じて座ります。
また、性別を問わず、朝、寝床で1分程度の正座をするだけで、腰痛改善となり、その夜の睡眠の質も高まるという話を知人のドクターから聞き、この何年も続けています。
確かに目覚めもよくなる気がします。
同時期に体操も始めましたので、そのせいか、腰痛もありません。
夜に行えば、下半身に体重がかかることで、むくみの改善にも役立つといいます。
仮にフラシーボ効果だとしても、実際に服薬するわけではなく、身体を動かすだけですので、安全性は保証されます。
自分に合うかどうかを、ほんの数十秒試してみるといいでしょう。
日本人の身体は透き通って見える
「おっちゃんこ」は、北海道や東北でよく使われます。
正座に限らず、お座りをすることをいいます。
同じ東北でも、「ねまる」といわれることもあり、茨城では「えんこする」、富山では「おちんちん」などが使われます。
「モモ」の作者のミヒャエル・エンデは、日本人の正座を見て「脚を引き込み、腕も引き込むことで自分自身を引き込み日本人の身体は透き通って見える」と述べています。
西洋人がソファに座ってもなお、手足を伸ばしているのと対極にあり、そこに「精神的なものが秘められている」というのです。
同じアジアでも異なる正座の意味
違いは建築にも表れています。
何かもかもデザインとして昇華していく西洋建築と、徹底して無駄を省いて形を消し、「無」や「間」に宇宙を表わそうとする日本建築。
話を聞いた中国人留学生は、「正座はつらいが、日本人が正座をする姿勢は美しい」といいます。
中国での古刹はカラフルな色遣いが多いが、日本の寺社建築のモノクロームの美に感動した、とも話してくれました。
正座のポーズと建築物との共通性を感じずにはいられません。
韓国の人たちにとっての正座は、教会やお寺などで祈りを捧げるときの姿勢、過ちを犯した人が許しを請う罪人の座り方などにあたります。
以前、韓国・慶州のお宅にお世話になった際、家長であるおじいさんの前で正座をしましたら、ご家族から「やめてください」といわれたことを思い出します。
私たちが、あなたを戒めているようだ、というのでした。
韓国女性は立て膝の姿勢が美しい
韓国では女性でも、胡坐や立膝で座るのふつうです。
日本と同じ床座。
韓服の「チマ」で立て膝をする女性は、美しいだけではなく、誇りと品格さえ感じさせます。
イスラム教徒はモスクで礼拝の際、アッラーへの畏敬の念を表わすために正座をします。
以前、トルコを訪問した日本のある政治家がモスクを訪れた際、正座して話を聞く場面がテレビで放映され、トルコ国民から尊敬を集めたという話がありました。
欧米の首脳はモスクを訪問しても正座することはありませんので、なおのこと親しみを抱いてくれたのかもしれません。
背筋を伸ばすことで、内臓が正しい位置に戻る。このことだけでも、正座にはメリットがあります。
長時間は遠慮したいところですが、毎日、気持ちを引き締める程度の正座は続けていくつもりです。
【正座の効用】
1.集中力が高まる。
2.内臓の血流循環が高まり、消化機能が高まる。
このほか、たくさんの効用があることをこの本で学びました。