家を建ててから、少しずつ家具を買い揃えていく。家の計画と同時進行で、購入する家具も検討する。これまで、家具が最小限で済んだ日本家屋で育ってきた私たちは、家具の選択が苦手。しかし、暮らしも住まいも、洋の佇まいが主流となってきました。そんな時代の空間と家具の関係について。
Contents.
- 建築費の3~4割が追加費用になる
- 家具なしで空間デザインはできない
- ビルダーは家具の専門家になれるか
- 建築費の10%を家具に充てる考え方
- 家具のための空間ではなく生活空間
- クルマより家具にお金をかける価値
- 立式なしでは成立しない日本の住宅
建築費の3~4割が追加費用になる
家を建てるときの費用は、建築費だけではありません。
この家は坪60万円、70万円…といった話をよく聞きますが、実際には、どこまで含んでの「坪単価」なのか、はっきりしないのです。
建築費のみならず、外溝工事費、インテリア、家具、家電、工事の諸雑費、引っ越し費用などが別途にかかり、諸契約時の印紙税・登録免許税・不動産取得税・固定資産税・都市計画税など、それらをまとめると建築費用の2割以上になるといわれます。
庭づくりは時期をずらすこともできますが、どうせなら何もかも一緒にやりたいというのが人情。
庭や外溝にプラス300〜500万円かかってしまうと、予算の3~4割が追加費用となってしまうこともあるでしょう。
そして、家具を考えると、さらに追加費用がかかってくることがわかります。
かつての日本の家は、家具は最小限で暮らせる工夫が潜在的に機能していた。そのDNAを持っている私たちは家具の選び方が苦手なのは当たり前。だからこそ、少しでもノウハウを応用したい。
家具なしで空間デザインはできない
家具にどれだけ費用をかけるかは、難しい問題です。
間取りや動線、デザインのディテールにこだわったはいいが、実際には、以前の家で使った980円のカラーボックス、19800円で買ったダイニングセットで我慢…というでは少し寂しい話。
なかには、有名デザイナーの設計という触れこみで、デザインに費用をかけ、ピンクの壁や白いらせん階段のあるおしゃれな空間で、磨き抜かれたフローリングに家族みんながぺたりと座り、古いちゃぶ台と旧宅のカラーボックスに囲まれて食事という家族もほんとにいたりします。
それがいい悪いという話ではなく、何のために空間やデザインにこだわってきたのか、費用をかけてきたのか、というお話です。
空間のプランニングは家具なしでは成立しません。
数ある諸費用のなかで、家具にどれだけにコストをかけるかといった問題が、家づくりでは欠かせないテーマなのです。
テーブル、椅子といった小物でも、最初から設置する予定があれば、空間設計に加えるのは当然。ベッドのような大型家具は、どんな家具がほしいのか目途をつけたうえで空間計画に入る方がスムーズ。
ビルダーは家具の専門家になれるか
おおよそのビルダーさんは、家具に関して無頓着です。
自分の儲けにならないから、というのもあるのでしょうが、家具やインテリアに関しての知識まで持ち合わせてない、自分は建物で勝負する、というのが本音かもしれません。
それもそのはずで、構造のプロがインテリアや家具のプロである必要はないといえばないのです。
事実、照明やカーテン、家具はお好きなものをどうぞと突き放され、置かれていった分厚いカタログで、自分で選んだものを取り付けてみると、ちぐはぐなイメージになってしまったということも珍しくありません。
私たちもそうでした。
造り付け家具を提案するビルダーもいます。
しかし、家具屋さんやインテリアコーディネーターからいわせると、家具には家具ならではの奥深いデザイン観や機能、伝統文化があって、専門の職人やデザイナー、技術者がいる。
だから、ビルダーが家具の世界にまで口を出してほしくない、といった反論もあります。
むべなるかなです。
確かに、造り付け家具は移動が困難で、必要でなくなったときにはじゃまにしかならないデメリットは見逃せません。
ない知恵を絞って考えた空間も家具の質、機能、デザイン一つでさらによくなることもあれば台無しになってしまうこともあります。
施主を悩ますところです。
建築費の10%を家具に充てる考え方
日本の家ではもともと、居間にもソファーやダイニングテーブルはなく、ちゃぶ台を出して食事をし、それが終わって布団を敷けばすぐに寝床、という曖昧な空間の使い方をしてきました。
家具はないか、あっても最小限しかない暮らしです。
高価な家具があっても、目に見える場所にそれを置かず、納戸にまとめてしまいこんでおくという、奥ゆかしくも合理的な面もありました。
生活が西洋化するに連れて、ソファーやベッド、コーナー家具が家のなかになだれ込んできたのです。
実際には、床にぺたんと座って、ソファを背もたれにして焼酎をあおっているお父さんでも、ソファがあればそれはそれで便利ですし、ちゃぶ台で座式の食事をしてきた人でも、ダイニングテーブルでの食事が快適なものと知っています。
完全和式でも完全洋式でもない空間のなかでは、どれくらい家具に予算をかけるのか、ということは本当に難しい話です。
家具の専門家のなかには、建物本体の1割を家具に予算を割けばデザイン・機能も一流品が揃い、一生、大事に使える家具が調達できるといいます。
どうせ家具を買うつもりなら、プランの段階から、家具に合わせた空間づくりをするべきという話もうなずけます。
3000万円の建物価格の1割として300万円。
坪80万円として4坪弱。この300万円を建物価格にプラスして考えるか、差し引いて考えるか。
もしくは最初から家具は予算として考慮しないか悩みますが、予算をとる場合も家具屋さんで調達するか、造り付けの家具にするかという選択肢があって、ここでも考え込んでしまうのです。
食事は「座」で食べるのか「立(椅子)」でいただくか。この選択だけで、空間の仕様が変わってくる。家具と空間設計は同時進行がいい。
家具のための空間ではなく生活空間
家具と空間を一緒に考えることは大事なこと。
家具屋さんの話にも、造り付け家具の得意なビルダーさんの話にも一理あって、せっかく空間のこと、暮らしのことを考えるのだったら家具にだって真剣に取り組んでください、というのは理屈が通っています。
一つだけいえることは、家具を入れるには、それ相応の広さが必要になるということです。
家具のための空間ではなく、生活するための空間であり、家具であることを忘れてはなりません。
また、家具屋さんの家具にせよ、造り付け家具にせよ、近い将来、粗大ゴミになってしまうような安易なものは避けるべきです。
ガラクタを「しまう」のではなく、ただの「隠す」収納や棚であったら無駄以外の何ものでもありません。
家具のために、いくら面積を割いたか考えます。
それだけ建築費も無駄になっているのです。
北欧家具の多くは数十年間デザインが変更されていないほどの完成度。家具の歴史では欧州にかなわないだけに、素直にノウハウを学びたい。
クルマより家具にお金をかける価値
欧米などの一流メーカーのソファーやテーブル、棚、ベッドになると、100万円単位のお金が動きます。
300万円というと、高級車が買えるくらいのコストですが、ここで大切なのは「どうしてクルマと比べてしまうの?」ということです。
家具も高級なものになると、50年、100年の使用に耐え、欧米では古ければ古いほど価値が上がることを、私たちは知っています。
もともとが、せいぜい10年程度で買い換えられるクルマと比較するのが、おかしな話です。
快適性は現代に及ばないまでも、昔の日本家屋は100年育った木は100年以上は使うという願いで建てられてきました。
稀少価値だった家具も同じだったはずです。
しかし、戦後になって日本の住宅の寿命は30年前後と極端に短くなり、家具や雑貨も価値よりも安さ、合理性が優先されるようになります。
住宅寿命が100年前後と長いままの欧米とここが違うところです。
彼らの場合は、住宅そのものが100年もつのですから、家具が10年やそこらで使えなくなっては困るのです。
ですから、家具にもそれ相応のコストをかけ、かつての日本と同じように、100年育ってきた木は100年以上の寿命があることを前提とした家具しか選ばないわけです。
100年住宅がスタンダードになる時代は、家具も100年の使用に耐える普遍的なデザインと品質を選びたい。
立式なしでは成立しない日本の住宅
もう一ついえることは、どんなに日本文化を愛しているとしても、私たちの暮らしはすでに着物ではなく洋服、和式トイレではなく洋式トイレ、引き戸と同時にドアのある生活になっていて、オフィスでも自宅でも「座」の生活に「立」の生活が混在し、椅子やソファーなしの生活が成り立たなくなっている現実があります。
どんなモノにもいえることですが、椅子もテーブルもソファもいいものを買って長く使う方のが基本。
日本の住宅も欧米並みに100年以上の寿命をめざす時代ですが、日々の暮らしを支える家具も同じ視座を持って選んでいかないと、この考え方そのものが根本から揺らいでしまいそうです。
絶対に必要な家具――ソファー、ベッド、ダイニングテーブル、椅子などが決まったら、自分たちが理想に描く空間にどんなふうにセッティングされるべきかを考えることは大事なこと。
ビルダーさんや建築士が家具の専門家でなくても、最初に希望の家具を話してもらうのとそうでない場合とでは、圧倒的に前者のほうが施主の希望に近い空間を描きやすいでしょう。
また、家具屋さんによっては、この家具を入れるのであれば、こんな空間が望ましいといった家具の視座でのアドバイスをいただけるところも増えてきました。
セカンドオピニオンを得る気軽さで、建築のプロに家具についてアドバイスをもらう。家具のプロには理想の空間についての助言をしてもらう、といった作業を重ねるのです。
手間を惜しまないことで、家づくりは深みを増して、思いもよらない化学反応を起こすこともあります。
次世代にまで継承できる、ということこそ家具の価値。
1.間取り=空間を計画するのと同時に、必要な家具をリストアップし、家具へのコスト配分を考慮する。完成した空間に合わせて家具を選ぶより、あらかじめ家具を決めてから空間計画に臨むほうが効率的。
2.ビルダーの「造り付け家具」は割安かもしれないが、移動ができず、必要がなくなったときの処分が難しい。
3.建築費用の1割を家具の購入に充てるといった意見にも一理ある。
4.家具の価格とクルマの価格を比べてしまうことがそもそも間違いのもと。クルマは10年前後で買い換えされるが、家具は100年単位の使用が可能。そう考えると、10年で破棄するクルマに200万円かけるより、100年使える家具に200万円かけたほうが、はるかにコスパが高い。