新築が伸び悩み、リフォームやリノベーションが急増しています。しかし、新築に比べコストが割安という理由だけで、見た目優先の改修をしてしまうと、家や人の健康に影響する事態も起きかねません。リフォームは、壁や基礎までチェックする絶好の機会。合理的な改修を考えたいものです。
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見た目優先のリフォームのリスク
築後数十年の間に、何度もリフォームを繰り返し、結局は新築・建て替えとなってしまうケースが少なくありません。
問題が起きるたびに、数十万円、数百万円とリフォームをし、振り返ると一千万円以上も使ってしまうことも多いのです。
古くなったり、動かくなった設備の更新は必要ですが、躯体に手を入れるときは、いったん立ち止まって考えてみることも必要。
性能的に改修するという選択肢が、いまだ日本に根づいていないのです。
北海道では、行政が主体となって「性能改修」という言葉を使い、建て替えの前に、性能を意識したリフォーム=改修を選択肢として考えようと、さまざまな情報を提供しています。
ここでいう「改修」とはリフォームのレベルではなく、住宅再生=リノベーションに近いものといっていいかと思います。
大雑把にいいますと「性能改修」には耐震改修、断熱改修、高齢化対応の3つがあり、どうせ改修するのなら、個別にするのではなく、一緒に工事したほうが合理的、費用的にも建て替えより3割、4割安くできますよ、というような内容です(※)。
性能改修で家の寿命を延ばす発想
かといって、北海道が他の地域に比べ「性能改修」の事例が多いわけではありません。しかし、そうした選択肢が示されるかどうかで、安易な化粧直し的リフォームの抑制にはつながります。
日本の家の寿命はせいぜい30年前後。
そういわれて久しいのですが、実はいまも、どう見ても30年ももちそうもない家は減っていないのです。
リフォームでもリノベーションでも、せっかく壁や床を剥がして工事をするのに、断熱材の充填、耐震補強や防蟻処理もされず、設備や内装だけ更新されるのは合理的ではありませんし、何より、もったいない。
水分を含む、表面がカビだらけなど、劣化した断熱材は構造材まで腐らせ、耐震性能にも大きな影響を与えます。
光熱費も減ることはなく、工事後数年間は見た目こそよくなったものの、結局、以前のように結露や寒さ暑さに悩まされる結果となるのです。
見た目だけを直すリフォームは、災害時の危険性や家族への健康障害、加齢後の介護の不自由さ──といったかたちで必ず現われることを忘れてはなりません。
膨大な家のゴミから目を背けない
ペットボトルやアルミ缶、牛乳パックやトレイなどのリサイクルに熱心な人でも、焼却もできず再利用もできず、埋め立てをしてもなお土に還らない多くの建築廃材が、全国民の生活ゴミの量を上回ることを知る人は多くありません。
これだけ不景気といわれても年間100万戸近い新築住宅が誕生しているものの、中古住宅の流通は全住宅の約14.7%(国交省 2013年)。
英国では新築20万戸に対し、中古住宅の流通が100万戸を越える…といった情報は、マスコミで取り上げられることもないのです。
このことは、30年経つと、古いだけではなく、すでに住めない状態になっている住宅が多いことを示しています。
もったいない、もったいないと節約を美徳としてきた日本人ですが、こと住宅に関する限り、使い捨て意識しか持ち合わせていないといわれても、仕方がありません。
何もしない…という選択肢もある
話は少し逸れますが、先日、友人から、こんな相談を受けました。
要介護4のお父さんと同居しているのですが、家族や介護のヘルパーさんがもっと介護しやすいように改修したいが、お父さんが、ご先祖様から受け継いだ家に手を入れることはまかりならなん、というので困り果てている──という話でした。
あくまでも個人的な意見という前提で「自分だったら、お父さんの気持ちを最優先にして、リフォームはしない」と伝えました。
建て替え、性能改修、簡易なリフォーム、リノベーションといった選択肢のほかに、「何もしない」という選択肢があってもいいはずです。
何十年もそこで暮らしてきた家と人とは、魂のレベルで深くつながっていると考えてもいいでしょう。
土地と家、家と人、土地と人とのつながりの深さは(ましてや先祖代々その土地や家で暮らしてきたご家族は)数値で計ることはできないのです。
そうしたつながりを断ち切ることが最善策ではない、という考え方もまた選択肢の一つといえます。
選択肢が増えることで自由になる
選択肢が一つ増えると、自由度も一段ステップアップします。
何より、気持ちに余裕ができます。
これしかない、なんてことは人生には一つだってないのです。
安易なリフォームを否定するのではありません。
性能改修や住宅再生といった選択肢があることを覚えておくだけで、計画にも幅が出ます。
新築・建て替えは、いちばん最後に来る結論でいいのです。
都合のいいことばかりを選べるのが、自由ではありません。
いいことも、悪いことも、便利なことも、不便なことも、いつでも、どれでも選べる立場に立つことを自由といいます。
(編集/北海道立北方建築総合研究所 発行/(財)北海道建築指導センター)
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