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【災害と住宅】=生き抜くための「バリア」が改善されないままの、日本の仮設住宅。

 

  

 

 

 

 

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地震、台風、大雨など大きな災害が続く日本列島。その都度、住み慣れた家を失い、生活、介護、子育てなどの場の変更を余儀なくされることがあります。新たな生活の場が快適であればいいのですが、残念ながら、日本の「復興」のなかで、住まいは常に後回し。ただでさえバリアの多い住宅が、災害のあとでまた、多くのバリアを抱えることになるのです。

 

Contents.

 

災害時の「在宅介護」のゆくえ

高齢の親を抱える家族にとって、介護は深刻な問題です。

国は在宅介護から在宅看取りの普及に向けて静かに、けれど、大きく方向性を転換しようとしています。

 

お年寄りが入院しても昔のように、長期間入院はできず、すぐに退院させられる現実を目の当たりにされた方も少なくないでしょう。

 

施設はどこも満員です。

何年待ち、の現実を支えるのはわが家。

しかし、在宅介護では、暑さや寒さ、そして数えきれないバリア。

 

介護を担う家族は仕事を減らすか退職するなど、経済的な負担も一気に増大。

数ある介護メニューも複雑でわかりにくく、多くの人が途方にくれているのが現状です。

 

そこに地震や台風、大雨などの災害が降りかかってきたら――。

被災地ではその都度、仮設住宅が建設され、近くの公営住宅への転居を余儀なくされることもあります。

  

応急仮設となると単身用、小家族用(2-3人)、大家族用(4-5人)と区別はあるものの、間取りについては、どのタイプも居室は5帖前後が基本(下図参照)。

国の専門家たちが集まって決めた仕様なのでしょうか。

 

入居される方は、高齢者(を抱える世帯)も少なくありません。

岩手県に住む知人は、介護の必要な70代後半の実母を抱え、昨年まで7年間、わずか2間の仮設住宅で暮らしました。

 

病院や施設も被災し、人口の流出で医療rや在宅介護に関わる専門職も減っていきます。

在宅で介護をしてきた世帯の多くが、そのまま仮設での介護に移行せざるを得ませんが、訪問看護、訪問介護のどちらも難しくなるケースが生じてしまうのです。

 

また、生活できないほどの損壊があっても、家があるのだからと、在宅避難を続ける被災者もいます。

避難所に行けず、支援物資も受け取らず、自分は家があるからと遠慮をし、ひっそりと暮らす方々のことも忘れられません。

 

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応急仮設住宅 標準プラン(小家族 2-3人用)一般社団法人プレハブ建築協会

 

 

 

 

 

復興と並行して増幅するバリア

6畳での介護が難しいのは常識です。

 

ベッドでの介護は、周囲3方向に人が立つスペースがないと十分なケアはできません。

ポータブルトイレを備え、車椅子などが必要になると、看護も介護もさらに難しくなります。

 

テレビやタンス、デスクなどを置くことは不可能に近く、エアコンでの冷暖房は常に気流を感じることとなり、体力が奪われます。

 

私は身体にあたるエアコンの気流でさえも、バリアと考えます。

窓際のベッドでは、冬はコールドドラフト、夏には強烈な熱が身体にダメージを与え続けます。

 

被災した家をリフォームするケースもありますが、動かせない柱や梁、壁、階段などがバリアとなり、部分改修で終わってしまうことがほとんど。

実際、リフォーム工事ができるまでに数年かかることさえあるのです。

 

災害公営住宅ができる頃には、若い世代は地域から都会へと移住し、地域では高齢世帯が多くを占めます。

 

市街地から離れたところに建てられることもあり、クルマを使えない高齢者にとっては、買い物なども不便で、景色も殺風景。

 

災害公営住宅に入居できても、介護が難しい間取り、生活が困難な立地、若い世代との交流が難しい環境など、いくつものバリアが、災害のあとにも存在し続けることに気づくのです。

 

 

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北海道における公営住宅のUD

北海道では、15年以上も前から、高齢者や身体の不自由な人に最大かつ最多のバリアは「狭さ」との視点から、部屋やトイレなどの面積を広くし、ドアや廊下の幅を広げ、壁に可変性を持たせた公営住宅の普及に取り組んできました。

 

ここで何度も取り上げた「狭さ」のバリアが公的に認識され、公営住宅で改善されたことに大きな意味があります。

 

廊下をなくし、大空間を可変的に仕切ることができるのは、高い断熱性能によるものです。

 

ベッド周りに3人立つことのできるスペースを確保し(三方介護)、6畳の短辺に45センチ、4.5畳の2片に45センチを加えた新サイズは、在宅介護を前提にしています(下図参照)。

 

公営住宅だからこそ〝赤ちゃんからお年寄りまで安心して住めるのが本来の家〟というUD=ユニバーサルデザインの発想が具現され、車椅子の生活でも簡単な改修(下辺間仕切り等)で住み続けることを可能にしています。

 

すでに1万戸以上の道営住宅がこうした仕様で供給され、各市町村営住宅へとすそ野が広がっていることを知る自治体は多くありません。

 

全国の公営住宅、災害公営住宅、それに仮設住宅などがこうした発想の一部でも取り入れ供給されていたなら、介護に要する予算も大幅に削減され、何より被災家族への大きな支援ともなります。

 

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北海道公営住宅ユニバーサルデザインガイドブック : 安心居住のススメ 北海道建設部住宅局住宅課 編

 

 

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この瞬間の暮らしを支える意味

同じ被災地でも、自力で家を建てようとする人には複数の補助金、利子補給制度などが用意されます。

何もかも寄せ集めにすると、数百万円になるケースもあります。

国の支援制度だけでも、全壊・半壊で家を建て替えた場合、最大300万円が支給されるのです。

 

しかし、これらは「家を建てる人」のためのもので、建てない人に、それだけの金をくれるわけではありません。

一部損壊は支援対象外とされることがほとんどです。

対象となっても5万円から30万円など、300万円とは比較になりません。

 

例えば、1階の壁の数カ所が壊れ、そこから水が浸入しただけで、断熱材や構造材のダメージは2階もしくは躯体全体にまで及にこともあります。

 

一部を修繕しただけでは断熱、気密の効果は低下し、そこが内部結露の発生源となって大量のカビを発生させ、ダニを蔓延する室内環境をつくってしまうことなど、建築を少し学んだ人であれば誰もが想像できることです。

 

支援を受けるための資料を見ると、ビルダーがため息をついてしまうほど、複雑な手続き、作業にかかる時間と手間が要求されます。

書類だけで2、3センチの束になることなどざらです。

 

この補助金はこの部署、あれはあの部署といった具合で、個別に申請し、ワンストップの手続きはなかなか難しい現状も、なかなか改善されません。

 

お金のある人は補助金を得て新しい家。

資金がなく、建て替えが難しい人は補助金を使用できない、介護もままならない仮設での暮らし。

運が良くて、災害公営住宅への入居、という格差が生まれます。

 

大規模な公共工事も街の再建には必要です。

しかし、街づくり、大規模公共工事と同時に、車椅子の使える家、従来と同じように介護のできる仮設住宅や公営住宅など、いま、この瞬間の生活を支えることができるかどうかの検証が求められています。

 

介護の問題だけではありません。

子育て世代には、子どもが学習できる環境が確保されるか。職場が被災した人のための対策。

なかには、被災後にうつ病を発し、職場や学校に行けない人もいます。

そうした方々への対応は、家の対策ではなく、生活そのもののサポートといえましょう。

 

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身体の表面にできた「床ずれ」

北海道を例に出しましたが、災害のあとで建てられる仮設住宅を含む全ての住まいが、こうした仕様で建てられていたなら、一時期、仮設住宅や災害公営住宅での介護となっても、生活移行に伴う障害は大幅に軽減されます。

 

東日本大震災のあと、取材に入ったある町では、仮設住宅で寝たきりのお年寄りの身体の表面(胸や腹部)に褥瘡(床ずれ)が多く発生するという現場がありました。

 

仮設住宅は寒い。

寝たきりの人には、寝間着を重ね着させる。

重い布団を2枚も3枚もかける。

仰向けに寝ると、身体を動かせない。

寝返りも打てない。

仰向けのまま小刻みに身体を動かす。

こうして、ふつうは背中や腰、腿など身体の背面にできる褥瘡が、胸やお腹など身体の表面にできるのです。

 

室内の狭さもさることながら、いくらエアコンを稼働しても暖まらない環境での介護の過酷さを物語る現実。

 

これがもし、軽く薄いパジャマ1枚、軽めの羽毛布団1枚でも快適な温熱環境であったなら、胸や腹部に床ずれの問題などはないでしょう。

 

鳥取県では、2012年、全国ではじめて災害ケースマネジメントを法制度化しています(下図)。

災害ケースマネジメントとは、個々の被災者からニーズを聞き取り、個別のニーズに合致した支援を複合的に考え、提供しようという制度。

 

建築、医療、法律、福祉、お金など、それぞれの専門スタッフが行政と連携し、個別のケースに応じて、支援を模索します。

仙台市や岩手県の一部市町村でも取り組みが始まっています。

 

表を見ると、 「よく眠れない」「飲酒、タバコの量が増えた」などというメンタルな部分にまで調査が及んでいて、生活全般にきめ細かく寄り添う姿勢が見えてきます。

 

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出典:生活復興支援体制のイメージ(鳥取県) 

 

 

 

 

 

 

 

告発の叫びからもバリアを学ぶ

国や家、人も同様に、大きな困難に見舞われたときに、本来あるべき姿が浮き彫りとなってきます。

 

見えてきた姿に、いまこの瞬間、苦しんでいる方々の告発の声が潜んでいます。

私たちに与えられた創造の課題も、そこに在ります。

 

この数年、各地における災害で家を失った方々は、どんな思いで過ごされているでしょうか。

 

在宅介護の場を移さざるを得ない方々も、多くいらっしゃることと思います。

 

生涯、健康的で安全な住まいを求める視座をもつことで、仮設住宅や公営住宅の狭い空間でも、バリアを解消した暮らしが可能になることを、私たちはもっと学ぶべきかもしれません。

 

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In summary

こんなにも毎年、災害が繰り返されても、修正されることのない住宅のバリア、避難所のバリア。呆れてしまう前に、できることを、できるだけ、しておくことで回避できることが必ずあります。

もっとも大切にしなければならないことは「生命を守ること」。

耐震性だけでなく、酷暑の夏、厳寒の気候にも耐えられるか。身体の、ちょっとした膝痛、腰痛などでも生き延びられる環境か、なども大切なポイントです。

デザインの善し悪しとは、見た目だけではなく、生命を守る、という「用」を当たり前にクリアしているか否かも含まれます。