Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

天使が舞い降りる街 、微笑する人々と仮の棲家。フィリピン・マニラ & ネグロス島。

 

 

 

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アジア最大といわれるスラムを抱えていたフィリピン・マニラ。かつて、砂糖価格の大暴落で数十万もの子どもたちが飢餓に直面したネグロス島。灼熱の陽光に浮き上がる色濃い陰の深みに見たのは、無力感ではなく、輝かしい生命力とあふれんばかりの他者への愛であった。粗末で狭い家には家族の愛が息づき、人々から贈られる感謝の言葉に癒される。汚濁のなかに内在する家のかたち、人の尊厳、そして品格。

 

Contents.

 

 

路地裏に巣食う男たち

男が、褐色の生暖かいからだをすり寄せながら「女はいらないか」と声をかけてきた。

 

 「Enough(間に合ってる)」

 「マリワナ、ハッシシは」

 「No」

 

路地裏にたむろする男たちは、概して危険ではないが、腕のあたりやシャツのボタンを2つ3つ外した胸にタトゥーが見えると、多くは前科者である。

 

「骨董品はどうか。盗品で安いのがある。偽パスポートも揃えられる」

 

金さえ出せば、あらゆる欲望が満たされる街、マニラ。

通りを100メートル歩くうち、何人もの男がこうして寄ってくるのは、この街にその種の需要が溢れかえっているからにほからない。

 

一人の男が離れると、すぐにまたほかの男が寄ってくる。

古びたミラーのサングラス。

目つきはうかがい知れないが、頬骨が妙に突き出た痩せ方は、数日腹ごしらえをしていないか、クスリをやっているかのどちらかだ。

  

「チャイニーズか」

「ジャパニーズ」

 

男は「ほお」といって、薄気味悪い笑みを浮かべ、肩に下げたカメラを舐めるように上下に眺めた。

 

「あんたのような冷静な顔をした日本人は見たことがない。日本人はみんな丸くて幸福そうな顔をして笑っている」

 

気を取り直して男の話に応えてみる。

「ところで、トンドに行くにはどうしたらいいだろう」

そう尋ねると、男はすぐに、

「やめとけ。生きて出てこられるかどうかわからない」

 

横顔のサングラスの隙間から、三日月のような細い目が見えた。

拍子抜けするほど素朴な目つきであった。

男は私に向き直って、もう一度同じことをいった。

「やめとけ」

 

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アジア最大のスラム街

マニラ北西部にあるトンド地区は、アジア最大のスラム地帯である。

9.10km²のエリアに60万人もの人々が住んでおり、スモーキー・マウンテンの名で知られるごみの最終処分場もこの地区に存在した。

ゴミの山からは常にメタンガスが発生し、ゴミが自然発火して、絶えず煙が出ていることから、その名が付けられた。

 

住民の多くは、地方の島から大都市マニラに職を求めてやってきた元農民たち。

いまだ大地主制度が根深く残る国でもある。

 

農民とはいえ、自給用の作物を生産することもままならない制度があり、人々は、新たな職を求めて大都市をめざすが、生活は容易ではない。

 

ほとんどが鉄道の線路脇や川沿い、湾岸沿いに広がるスラムに住みつき、ゴミの山から換金可能なガラスビン、アルミ、鉄などを拾って生活することになる。

こうして生活する人々を「Scavenger(スカベンジャー)」という。

 

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都市に押し寄せる農民

「バロンバロン」と呼ばれる掘っ立て小屋は、木片やベニヤ板、ブリキの空き缶などあらゆる材料を使って建てられる仮の棲家である。

 

細い路地には排水設備はほとんどなく、一帯は生ゴミの臭いが充満。

汚水を垂れ流したドブの臭い、生活臭がそれに入り交じる。

 

人々は以前、他の土地で貧しいながらも家庭を持ち、日々の暮らしを営む、ごくふつうの生活者であった。

 

軒先はどこも真っ白な洗濯物で彩られ、家の内部は整理整頓が徹底されている。

壁に飾られたキリスト、マリア様の絵や像が、信仰の深さを物語る。

 

政府は、1995年、スラムの巨大化を懸念し、国家の恥部としてスモーキー・マウンテンを閉鎖に追いやった。

住民の多くが強制的に仮設住宅に移住させられたが、その後になって、ゴミ集積所は再開。

職業斡旋政策が不発に終わったこともあって、マニラにはいまも多くのスラムが形成されている。

 

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飢餓の島・ネグロスへ

労働の中心を担っているのは、子どもたちである。

当時、マニラのスラムやネグロス島に住む子どもたちの教育支援を行うNGOに属していた私は、取材も兼ねてフィリピンに飛んだ。

マニラやネグロス島・ドゥマゲテには現地スタッフが常駐する支部もあった。

 

ネグロス島は砂糖の島である。

 

スペイン統治時代の遺風を色濃く残す封建的主従関係と、極度に安い労働賃金の上に砂糖産業が築かれ、労働者の大半が農園に住んでいる。

農園にはニッパヤシの葉と竹と、わずかな木で建てられた小さく粗末な家が無数に点在する。

 

この島を飢餓の危機が襲ったのは1985年。

前年末から始まった国際砂糖価格の大暴落は砂糖経済を直撃し、およそ30万人が一挙に仕事を失い、労働者とその家族を飢餓の淵へと追い込んだ。

 

国際社会は「飢餓の島」と呼び、世界中から多くの支援が寄せられたが、農民たちの過酷な暮らしは15年にわたってつづき、砂糖市場が回復したのは2000年になってからであった。

農園=プランテーションの大半が大地主の私有地であることに変わりなく、いまも島内の貧富の差は大きなままである。

 

そうした大規模プランテーションと契約を結び、格安な価格で砂糖やバナナを輸入しているのが、日本や欧米の大手商社。

私たちが数本で150円、200円程度で購入するバナナの大半が、こうした農園から供給される。

 

日本の消費者の手にわたるまでに、地主がいて、商社があり、日本の流通があり、小売りが介在する。

当たり前のように安くておいしいバナナの房の向こうに、汗にまみれた農民の姿がある。

 

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感謝と微笑みを贈る人

マニラでもネグロス島でも、カメラを向けてシャッターを切ると、必ず「ありがとう」という言葉が返ってくる。

 

スラムの多くは住所そのものが存在しない地域である。

万に一つも写真が届くことがないことを知っていてもなお、感謝の言葉を述べ、別れ際には「あなたに神のご加護を」と笑顔を差し向ける人たち。

 

この過酷な現実と彼らの微笑を併せて凝視するとき、内なる家の輪郭がうっすらと見え始め、魂の在処のようなものが、むごいほどに美しく見えてくる。

 

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DATA///

フィリピン共和国(Republic of the Philippines)

面積/299,404㎢(日本の約8割)。7,109の島がある。

人口/約1億98万人(2015年フィリピン国勢調査)

首都/マニラ(首都圏人口約1,288万人)(2015年フィリピン国勢調査)

民族/マレー系が主体。他に中国系、スペイン系、及びこれらとの混血、更に少数民族がいる。

言語/国語はフィリピノ語、公用語はフィリピノ語と英語。80前後の言語がある。

宗教/国民の83%がカトリック、その他のキリスト教が10%、イスラム教は5%。

平均寿命/男性65.0歳,女性71.9歳(フィリピン国家統計局)

外務省資料:

 

 

ネグロス島(Negros)///

フィリピン中部のヴィサヤ諸島にある島で、フィリピン4番目の大きさの島。フィリピン一の砂糖生産でも有名。面積は12,706㎢。主要都市はパナイ島との海峡に面したネグロス・オクシデンタル州の州都バコロドとセブ島・シキホル島に面するネグロス・オリエンタル州の州都ドゥマゲテ。島西部のネグロス・オクシデンタル州では国内の砂糖の半分を生産。農地の大半がプランテーションになっているため、自給用の作物はほとんど作られず、食料は他の島からの輸入に頼る。砂糖貴族とも言われる大地主が大農園を所有する一方、島民の多くは砂糖産業に従事しプランテーションの労働収入に頼り、砂糖の市場価格に生活が翻弄されて飢えや貧困に苦しむ者も少なくない。1985年、砂糖の国際的な取引価格が暴落したことでネグロス島の砂糖産業は打撃を受け、地主の破産、プランテーションの放棄、農園労働者の解雇が相次ぎ、ネグロス島全土に急速な勢いで飢餓が広がった。 

 

 

まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。また、コメントをいただいた方にも心から感謝申し上げます。あえて、一点一点の写真にキャプションはつけませんでした。ご了承ください。

 

 

 

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