Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

何かが足りない日常のなかで、生涯輝き続ける星を見つけた【ねずみ女房】。

  

 

 

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ありきたりの日常のなかで「ねずみ女房」は何がほしいのかわかりません。何かが足りないのです。そんなある日、ハトと出会い、外の世界のことを知ります。そして、ハトとの別れの日、「ねずみ女房」は初めて星の美しさを知ります。私たちが大人になっていく意味を静かに問いかける、大切な1冊。

 

 

Contents.

 
わたしではない、わたし

長い間、父との諍いがありました。

その気まずさから逃れるように、中学の頃から小さな旅を始め、やがてそれは数カ月単位の長い旅となっていきました。

 

夏の旅が好きでした。

旅を終えると、一文無しに近い状態でまた家に戻るのです。

よれよれになって駅に辿り着くと、ホームに必ず父の姿がありました。

 

下っぱの鉄道員だった父は、電車から降りた私を見つけると、少し照れた顔で歩み寄り「金、あるのか」と尋ねるのが常でした。

 

真っ白なワイシャツが夏の日差しに眩しく光っていました。

 

バス代すら残していなかった私は、無言で何百円かを受け取り、家路につきます。

そんな繰り返しが20代のはじめまで続き、それから10年もたたぬうちに、父は一人で天国へと旅立っていきました。

 

日に数本しか汽車が止まらない小さな駅でした。

旅から帰る日をけっして伝えることのなかった私でしたが、いつもホームに父を見たということは、父は毎日、汽車が着くたびホームで私の姿を探していたことになります。

 

このことに気づくのは、ささやかな弔いを終え、遠く離れた自宅へと戻る旅の途中のことでした。

 

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日常のなかにあった「世界」

大好きな本に『ねずみ女房 』(ルーマー・ゴッデン作 石井桃子訳 福音館書店 )という絵本があります。

 

ある日、野生のハトが捕えられ、ねずみ一家の棲む家の鳥籠に入れられます。

ねずみ女房は夫と子どもたちの世話に明け暮れていました。

 

ねずみ女房は、毎日のようにハトの籠のそばまで通い、空や風や雲、森や梢、草の露など外の世界の話を聞いたりします。

 

夫のねずみは時折やきもちを焼いて、ねずみ女房の耳をかじったりするのですが、ねずみ女房は、ハトのところに通うのが楽しくてしょうがありません。

 

ある日ハトが何も食べず、ぐったりとしているのに気づきます。

 

その夜、ねずみ女房はある決心をしました。

籠の留め金を咥え、全身の力を振り絞って戸をこじ開け、ハトを窓から逃がしてしまうのです。

 

ねずみ女房はそのとき初めて「飛ぶ」ということを知り、ハトを見送った窓の向こうに「星」を見ました。

 

目には「粟の種ほどの涙」が宿っていましたが、その涙をまぶたではたき落とし、外の世界を凝視しました。

 

ねずみ女房は平凡な暮らしに戻り、やがておばあさんになります。

物語のおしまいの言葉はこうです。

 

「おばあさんは、見かけは、ひいひいまごたちとおなじでした。

でも、どこか、ちょっとかわっていました。

ほかのねずみたちの知らないことを知っているからだと、わたしは思います」

 

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初めて見た星の美しさのこと

ほんとうに大切なことがわかったとき、それと引き換え、大切な何かを失うことがあります。

大切なものを失って初めて、得るものもあるでしょう。

 

整合性のない別れ、裏切りや絶望のたぐいで溢れる日常は、ときに残酷な姿となって目の前に表出しますが、それらは喪失だけを残していくものではありません。

 

ねずみ女房は「飛ぶ」ことを見た瞬間、大好きなハトを失いました。

しかし、次の瞬間、生まれて初めて「星」の存在、その美しさを知るのです。

 

星は天上に在りながら、彼女の人生の内側でも生涯輝き続ける星となりました。

 

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世界の果てまで彷徨っても、満足を得ることのない若い日々がありました。

父は、ときに数カ月も息子の無事を祈り、家では待ち切れず、毎日駅に電車が着くたびホームで私の姿を探し求めたのです。

 

それは、目の前の日常をけっして馬鹿にすることのない生き方の体現であり、不器用だった彼なりの愛情の表現であったに違いありません。

 

無駄と徒労の繰り返しとしか思えない日常をいったん引き受け、与えられた生を丁寧に生き切る。

父を失い初めて得た星は、いまも私の深い部位でチロチロと瞬いています。

 

ねずみ女房の短い生涯は、外の世界を夢見ながらも、ささやかな日常を抱えて生きる大切さを教えてくれました。

 

大切なものを失ってもなお、愛された記憶、心の内側で輝く星を抱き締めて生きていこう。

そう決意するとき、人はもう孤独ではありません。

 

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おすすめの本

この本を翻訳した石井桃子さんは、日本を代表する児童文学者であり翻訳家。

101歳で亡くなるまで、日本の子どもの本の礎を築いてくださいました。

 たくさん、素敵な言葉を遺しています。

 

子どもたちよ。

子ども時代を しっかりと

楽しんでください。

おとなになってから

老人になってから

あなたを支えてくれるのは

子ども時代の「あなた」です。 

 

 

 

 本は友だち。一生の友だち。

子ども時代に友だちになる本、

そして大人になって 友だちになる本。

本の友だちは一生その人と共にある。

こうして生涯話しあえる本と

出あえた人は、仕あわせである。

 

人との出会いがときに人生を変えるように、生きることの転機になるような本の多くは絵本にあったような気がします。

 

 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。この記事は過去に掲載したものを大幅に加筆訂正し、再掲載しています。

 

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