Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【照明】=日本の家も街も明るすぎる。うつくしい空間は「陰影」の演出から。

 

  

 

 

 

 

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光にも陰にも階調があります。色合い、光度は一定ではなく、無限のグラデーションの中に無限の美しさが潜んでいます。絵画や写真、文章、そして建築にも【陰翳】の演出は欠かせません。
 

Contents. 

 

線で形を描くことの難しさ

絵画教室に通ったことがあります。

父方の祖父や叔父2人が

画家であったことで(とても貧乏な)、

自分もいつか彼らのような

絵を描きたいと思ったのでした。

 

絵の表現を学ぶことで文章や写真の勉強にも

なるのではないか、

というひそかな願いもありました。

 

結果としては

スケッチもろくにできないまま

忙しさにかまけて

教室をやめてしまったのですが

一つだけ、

文章や写真のために

大切なことを学びました。

 

陰翳です。

 

デッサンに

ハッチングという手法があります。

線を横や縦、斜めなど同じ方向に引いて、

陰翳を表現するのです。

 

同じ線でも

縦に重ねて引くと硬い感じになり、

横に引くと、建物などの大きさが

浮き彫りになります。

 

斜めの線では

空間に拡がりが生まれ、

物体に感情のようなものが

にじみ出てくるから不思議です。

 

ふつう、私たちが絵を描くときには

輪郭から描こうとします。

 

それを抑えて、

陰翳から描こうとすることで

逆に、輪郭が浮き立ってくるのでした。

 

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無意識でも眺めている輪郭

文章にも

同じようなことがいえます。

 

主題そのものに

光をあてて表現するのではなく

周辺から描くことで、

主題がかえって浮き彫りとなり

を立体的に描けることがあります。

 

写真も同様です。

商品撮影などの際に用いられる

無影撮影などは

確かにきれいに見えますが、

モノの佇まいや

深いところにある性格が現れません。

 

ポートレートなども、

写真スタジオなどで撮影する

無影写真よりも、

顔の半分がシャドーになっているくらいの

写真のほうが人の心に響いてきます。

 

私たちの眼は、

はっきりと見えないはずの陰翳にも

無意識の中で

輪郭を描いて見ようとします。

 

魂の部分で

曖昧な境界を越えたの向こうにある世界を

必死に知ろうとしているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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無限の階調=【silhouette】

陰影というように、

同じ「かげ」にも「陰」と「影」があります。

 

英語では「陰」はShade、「影」はShadow 。

 

陰は光の当たっていない部分で

この陰があるから

物体が、立体的に見えてきます。

 

影は、光に遮られ

光の反対側に映される、黒い像。

 

たとえば、人の影は

人のかたちをしていますが、

人の陰は

明確な形をもっていないばかりか、

その人の性格の深さや裏面を表現し

その中に

無限の色調、曖昧さを湛えています。

 

西洋画では陰影を明確に描きますが、

日本画や水墨画は、

むしろ「陰」を多く用いて

その無限ともいえる階調を利用します。

 

どちらも、

輪郭=シルエット【silhouette】を

表現しようとするのですが

同じようで

同じでないところが興味深いところです。

 

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明る過ぎると疲れてしまう

昔はともかく、いまの時代に生きる

私たち日本人は

とにかく明るさを好みます。

 

家を建てる際にも「明るい家」が人気です。

夜の時間まで、

昼間の明るさを再現するかのような

煌々とした明るさが要求されます。

 

その結果、非活動的な夜の時間まで

「静寂」や「深み」のない

空間になってしまうことが少なくありません。

 

陰影のない空間は

奥行きも静寂も深みも感じられない

単調な空間になりがちです。

 

夜間は特に、明るさをデザインするより

陰影を意識して

照明計画をするほうが

素敵な空間になります。

明るさのデザインではなく、闇の演出です。

 

温熱環境にも同様のことがいえます。

全館暖房の手法は大切ですが

同じ建物の中に、あえてわずかな温度差を

創ることのほうが

より高度な熱的デザインとされます。

 

人も同じ。

陰影の欠片もなく、

いつも明るく元気で親切、ハキハキな人は

社会人の理想ではあるものの、

そういう人の近くに

長くいると

疲れてしまうこともあります。

 

人物はもちろん、

料理、建築分野の撮影でも、

人工光(ストロボ)は一切使わず、

主に自然光で撮ってきたのは、

そんなことも影響しているのかもしれません。

 

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おすすめ図書

しかけ部分に光をあてて、シルエットの美しさを楽しめる大人の絵本。もともとは、作者による手製本で制作されましたが、技術的な改良を加えて量産化。「世界で最も美しい本コンクール」銅賞を受賞しています。

 

 

影絵といえば、藤城清治さん。なかでも「銀河鉄道の夜」は、子どもたちと何度も何度も繰り返し読んだ本。この本も藤代さんも、日本の宝物といっていいと思います。