日本の家はこれまで「LDK」に代表されるように居室=Roomを基本に家づくりを考え、Roomの数で家のステイタスを主張してきました。しかし、小間割りにされた居室の数ではなく、大きめの空間=Spaceで家の有り様を想像してみると、縦にも横にもひろがりが生まれ、新しい光や風、家族の暮らしが見えてきます。
Contents.
大きな家とおおらかな家
家は不思議です。
30坪でも開放感にあふれた家もありますし、
60坪の広さがあっても、閉塞感を感じる家もあります。
家族の人数分の居室、人数分の書斎や趣味室。
あれをする部屋、これをする部屋。
ほしい空間、機能を居室に
置き換えて考えていくと、
いくら面積があっても足りません。
予算も足りなくなります。
小間割りされた居室が限られた面積に
ギュウギュウ詰めにされてしまうと、いかに住みにくいか、
想像に難くないでしょう。
日本の家が長らく
ウサギ小屋といわれてきたのは、
延床面積ではなく、2畳でも3畳でも
居室にしてしまう(しかも物置ではなく)光景だったのです。
書斎や家事室、趣味室などを設けても、
それらの使用頻度は週に一度か二度程度。
実際、ほとんどの方が、
機能を居室で考えてしまい、後悔しています。
ほとんどの時間、リビングでテレビを見ながら
過ごしているか、寝室に引っ込み、
ベッドのうえでスマホを眺めているのが
現実ではないでしょうか。
もっとも、それが私たちの等身大の
暮らしといえるのかもしれません。
定年後のご夫妻の住まい。リビングからトイレ、お風呂に直結という潔さ。細かな間仕切りをせず、空間で考える。
空間をあとで仕切る発想
家づくりを考えるときに大切なのは、
使用頻度を見極めることです。
週に一度、月に一度しか使わないような居室は、
思いきって使用頻度の多い部分に組み込んでみます。
例えば、書斎がほしければ、
小間割りした居室で考えずに、2階ホールを広くとって、
そこに書斎のコーナーを設けてみる。
組み込むという発想です。
リビングのテラスを広めに出し、
そこで趣味やパーティーを
楽しむデッキスペースにするとか、そんな具合。
小間割りありきではパズル遊びになってしまいます。
まずはがらんどうの大きな空間をつくる。
そのあと、必要に応じて、
機能を組み入れていくという考え方です。
間仕切りが必要になったら、
最初はパーティションや衝立、屏風、暖簾などを応用し、
できるだけ可動性をもたせた使い方とします。
壁を設けるのは、いつでもできます。
こうして考えていくと、だだっ広い玄関ホールや
暗くて細い廊下、あまり座ることのない
3人掛けのソファが置かれたリビング、
使わないものばかり
詰め込んだ収納や納戸やタンスなどが
――そういえばこの空間、
何のためにあるんだっけ、と思えるようになってきます。
こちらも定年後、夫婦だけの平屋の住まい。リビング、ダイニングを大空間でまとめ、天井を高くすることで開放感を演出。
回遊型デザインは楽しい
無駄を削ると、
空間がすっきりするだけでなく、
予算も浮いてきます。
浮いた予算で、
いい家具や庭にお金をかけることもできます。
無駄をなくしたところで
今度は「回遊型」のデザインを意識します。
目的の部屋に行く場合、
1本しか道がない「行き止まり型」ではちょっとつまらない。
毎日の移動が、飽きてしまいます。
階段を中心に、
玄関ホール→トイレ→浴室→洗面→収納→キッチン→リビング→玄関
といった具合に、
ぐるぐる回れる「回遊型」デザインは、
ただ廊下を行きつ戻りつするより、移動する行為
そのものに楽しさがあって、飽きることがありません。
回遊する動線を、
そのまま裏動線とすることもできます。
動線上に寝室を配置すれば、
来客時の視線も気になりません。
キッチンで料理をしながら、
洗濯、物干しなどの作業もスムース。
回遊型のデザインは、水回りとの相性がよく、
家事労働の軽減に貢献してくれます。
上記写真と同じ住まい。コンパクトのキッチンの左手にはトイレや洗面、後方には食品庫と勝手口。
空間をSpaceで考えよう
日本の家は、nLDKに代表されるように、
これまでRoomの数で家そのもののグレードを決めてきました。
nとは部屋数。
2DKより2LDK、2LDKより3LDKといった具合です。
Roomは、いうまでもなく仕切った居室の発想です。
昔の日本家屋では、
仕切りはわざと曖昧にし、家をSpaceで構成していました。
私たちには、このDNAが生きているのです。
世界でも例を見ないほど、
開けるでも閉めるでもない、絶妙な空間。
日本の家は、居室の数ではなく、
Spaceを大事にしていたことがわかります。
Spaceで家を考えていくと「ひろがり」が見えてきます。
リビングの「ひろがり」を縦で考えますと「吹き抜け」。
横の「ひろがり」を外まで伸ばしていくと、
庭へのアクセス、
つまりテラスやデッキが浮上してきます。
昔の土間、縁側もそうした発想です。
玄関や水回りとリビングの仕切りを開放し、
これも空間=Spaceで考えますと、
有効な動線が浮き彫りになって、
ホールや廊下が無駄であることがわかってきます。
おのずと回遊型のデザインも浮かんでくるのです。
その壁を取り払う勇気を
子ども部屋もSpaceで考えます。
最初からドアや壁を設けることなく、
2階にあがって
そのまま全部子どもSpaceという発想もありです。
子どもが小さなうちは、
ぐるぐる回れる面積が広い方がいいに決まっています。
個室を開放していくとホールと
個室の境目がそのまま大きなSpaceとなり、
贅沢な空間活用が可能になります。
壁やドアは、
思春期を迎えたときに改めて考えればいいのです。
極論ですが、子ども部屋など寝るだけにして、
勉強はリビングでという発想もできます。
少し前のデータですが、
アメリカの大学生にとったアンケートでは、
いちばん勉強する場所は、図書館でも自室でもなく、
寝室や寮、リビング、キッチンなどの
ティーテーブルというデータがありました。
最初から間仕切りするのではなく、子どもたちの成長に応じて、あとで仕切るという発想。by Bliss My HouseIdea
名ばかりの書斎など不要
書斎もRoomでなくSpaceで考える。
そうすると、ホールの端っこでも、
キッチンの隣接したコーナーだって書斎風に
デザインする工夫が見えてきます。
キッチンに隣接した窓際に、
それこそティーテーブル一つ置くだけで、
立派な書斎になるはず。
その工夫こそ「設計」の醍醐味といえましょう。
キッチンもRoomではなく、Space。
小間割りで考えがちな水回りですが、
Space発想では、リビングと横につながり、
縦にひろがると吹き抜けを活用し、
光や風の通り方まで見えてきます。
光と風が見えたら、
設計はより暮らしの本質に迫ってくるでしょう。
「あなたの家は、何LDKですか?」
と問われて 「1階に1つ、2階に1つのスペースしかないんです」
などと答えることが、
これからの日本の家のスタンダードになる日を、
ずっと願ってきました。
こうした空間づくりに欠かせないのが、
ここで何度も取り上げてきた
断熱などの住宅性能であることを忘れてはなりません。
機能イコールRoomという概念はいったん捨てて、
使用頻度に応じて考える。
あとは、自分の意志で住みこなす。
限られた面積なのですから、
最初は大きなSpaceを確保し、あとで閉じたり開けたり。
家の機能に合わせて、人が暮らすのではありません。
人が空間を住みこなすのです。
家づくり、リフォームなどの際には、
これらの考え方を頭の隅に置いておくとなにかと便利です。
いつでも「自由」を選択できることが、
「自由」なのではありません。
常に、自分の意志で「自由」も「不自由」も
選択できることが、ほんとうの「自由」です。
エアコンの便利さ、快適さより、
薪を割ってストーブにくべる「不自由さ」から
得るゆたかさもあります。
空間も同じです。
SpaceはいくつでもRoomをつくれますが、
RoomはいくつあってもSpaceにはなりません。
個室を並べるだけでは、廊下もホールもただの動線になる。【空間】で考えると、ホールもまた多目的な用を担う。by Bliss My HouseIdea
1.「LDK」の概念を捨て去る。
2.子どもの人数×部屋数、家事室、趣味室など、目的・機能×Roomで考えない。
3.つまりRoomの数はどうでもよく、まずは大きな空間=Spaceで発想する。
小間割りされた空間を大空間にするのは困難。
しかし、大空間を小間割りすることは、いつでもできます。
4.滞在時間の短い玄関ホール、暗い廊下などは不要と認識するところからスタート。
5.階段はリビングに取り込む。
6.その階段を中心に回遊型デザインを考える。
7.回遊型のついでに「裏動線」を考える。
8.横の「ひろがり」で間仕切りを開放し、縦の「ひろがり」で吹き抜けを検討。
9.Space=空間優先で計画するには、断熱・気密性能の裏付けを必須。そうしないと、エネルギーの無駄が生じる。
10.リビング10畳+ダイニング4.5畳+キッチン6畳=20.5畳という足し算的な発想ではなく、リビング+ダイニング+キッチン=(全部ひっくるめた大空間として)16畳(ここでの広さは例です)というSpace発想に転換する。