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そして、私たちの「居場所」について。

【断熱・気密】=暑さや寒さのストレスから身を守り、空間デザインを左右し、一生涯の家計に直結する「住宅性能」について。

 

 

 

 

 

 

by Bliss My HouseIdea
クルマを購入する際には、燃費など性能=スペックを確認して、購入します。しかし、人生でいちばん高い買物といわれる住宅建築の際、燃費や耐震性、耐久性、耐火性などのスペックを確認して建築に臨む人は多くありません。残念ながら、日本の住宅の品質は規格があるようでいまも多くはバラバラですし、年間の光熱費が10万円の住宅もあれば、30万円かかっても暑い寒いの住宅までふつうに存在するのです。この際、住宅の性能の基本について、少しだけ覚えておきたいこと。

 

Contents.

 

住宅の燃費を確認しない日本人

クルマを買い換えました。

2000ccのSUVから軽自動車にです。

以前のSUVでもリッター14キロは走っていましたが、今度の軽自動車は平均21キロ。

いずれもAWDで街乗りの場合ですが、軽自動車で長距離を乗ると26キロとほぼカタログ値となり、SUVの約2倍の燃費の良さです。

 

リッター10キロしか走らないクルマと30キロ走るクルマとでは、ガソリン代は3分の1になります。

単純に、これまで年間15万円のガソリン代だとしたら、5万円になる計算。

 

エアコンや冷蔵も、10年前と現在では年間の電気代が安くなる製品がほとんどで、使い勝手やデザイン、安全性能も進化しています。

パソコン、カメラなども同様で、性能が年々上がって、価格が安くなる。安くなるのはありがたいのですが、メーカーに勤める友人も多いので、彼らの苦労を思うと気の毒になってしまいます。

 

クルマの燃費を調べずに購入する人はいないと思います。

でも、住宅の燃費や性能はあまり気にしないというのが日本人の不思議なところです。

 

夏はうだるような暑さ、冬は室内が外と同じような温度になっても、エアコンの温度設定を調整するくらいの省エネ意識で暮らしています。

我慢もします。

 

日本のエアコンが飛躍的な進歩を遂げてきたのは、日本の住宅性能が遅々として向上しないため、設備で温熱環境を補うため、といった側面があったことを見逃せません。

 

少し前まで、新築やリフォームの際にも、ビルダーから住宅の燃費や性能を示されるケースはほとんどありませんでした。

 

夏暑くて、冬は寒い環境は結露やカビを増やし、健康被害を助長させます。加齢後や在宅介護が必要になった場合にも幾多の困難が待ち受けています。

 

壁や床下、天井裏などに結露が発生すると断熱材、構造材が腐ります。

そんなところには目を向けずにリフォームを繰り返し、少々の暑さ寒さ、結露も我慢。

日本の省エネは、建築の進化ではなく、設備の進化と住む人の「精神力」に支えられてきたといっても言い過ぎではないでしょう。

 

 

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躯体全体を高断熱・高気密化することで、内部に細かな仕切りが不要となり、廊下のない間取りとしても、温度はどこもほぼ同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 断熱・気密・換気の基本性能

これまで住宅の断熱性能は熱損失係数(Q値)などが指標として使用われてきましたが、現行の省エネ基準では外皮平均熱貫流率(UA値)が使われます。

 

数値が小さいほど断熱性能が高いことを表わし、日本全国を1地域~8地域に細分化して目安を提示しています。

北海道では0・46W/(㎡・K)、東京以西はおおよそ0.87W/㎡・K以下の断熱性能です。

数値の意味合いについてはまた別の機会に説明しますが、ここでは「0.46」という数字を覚えておきます。

 

「一次エネルギー消費量」という指標も定められています。

建物で使うエネルギー(電気・ガス)を作り出すのに必要なエネルギー(石油・石炭)を熱量で表したもので、冷暖房、換気、照明、給湯などの設備の性能から算出し、太陽光パネルによる再生可能エネルギー発電機器の有無も評価に加味します。

 

設備機器を含めた省エネ性能を評価することで燃費のよい住宅を増やしていこうというのが国のねらいですが、義務化の予定は2020年(見送りになりそうです)。

言い換えると、2020年までは住宅会社から基準以下の住宅を勧められたり、何も知らずに省エネとはほど遠い住宅を建ててしまう懸念も残ります。

 

C値=隙間相当面積は躯体全体の隙間を実際に測定して、隙間の面積を延床面積で割った値。

この値も小さければ小さいほど隙間が少ないことになり、換気が計画的に制御できることになります。

 

プロのなかにも高気密になると息苦しくなるといったことを述べる人がいます。

が、建築基準法ではシックハウス対策などのため24時間換気を義務付けており、気密性を確保しないと計画的な換気が機能しないことを知る人は多くありません。

 

穴だらけのストローでジュースを吸っても、ほとんど口に入ってこないのと同じで、隙間だらけの住宅は、いくら換気装置を稼働しても、室内で発生した汚れた空気が換気されることはないのです。

気密性能についても、別の機会を設けて詳しく解説しますが、ここでは最低でも「0.5㎠/㎡」以下という数値を覚えてください。

 

気密性をいくら高めても、住宅の場合は窒息するほど密閉されることなどありません。あくまで換気を計画的にするための気密であり、余計な空気の出入りを防いで省エネ効果を高めるための気密と考えるとよいでしょう。

 

 

 

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気密測定は1棟ごとに実測するのが基本。同じ材料を使っても、現場の技術により性能は大きく異なる。可能であれば0.5㎠/㎡以下をめざす。

 

 

 

 

 

 

 

 

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日本の基準はEU諸国の3分の1

欧州ではQ値やC値ではなく、単位面積当たりの消費エネルギーで計算するのがスタンダードです。

 

2010年7月に改定された「欧州連合・建築物のエネルギー性能に関する指令」では、2020年までに温室効果ガス排出量:1990年比20%削減、一次エネルギー量:同年比20%削減、再生可能エネルギー利用量:一次エネルギーに占める割合を20%の実現を示しています。

 

ドイツでは2008年7月から全ての新築住宅に、年間のエネルギー消費量、CO2の排出量の表示を義務付ける「エネルギーパス制度」がスタートしています。

建物がどれだけの性能を有し、1年間にどれだけのエネルギーを必要とするかが、誰にでもわかるようにしているのです。

 

デンマークなどの北欧諸国も同様で、新築でも中古でも、戸建て住宅やアパートが、年間(24時間・全館冷暖房を前提として)どれくらいの冷暖房コストがかかるかを明示しなくてはなりません。

 

冷暖房負荷15kWh/㎡(1年間・1㎡あたり15kWh)、家電・照明等を含めた年間一次エネルギー量120kWhといった具合で表現され、2021年までには全ての建物のカーボンニュートラルを義務づけようとしています。

 

この数値はQ値でいうと0.7W/㎡・K前後の性能となり、日本の省エネ基準の北海道仕様の2倍以上の性能値です。

日本の住宅性能はトイツで義務化された性能におよばないことを、私たちは肝に銘じる時期にきているといえます。

 

もともと日本の住宅は「徒然草」でいう「夏を旨とすべし」の思想と技術でつくられてきましたが、いまや全国各地でほぼ例外なく、エアコン設備による冷暖房を前提とした住宅となっているのは紛れもない事実です。

 

日本の伝統建築は、エアコンなしでも四季折々の快適さを具現する数多くの工夫をしてきました。その建築技術は世界にも誇るべき水準といえます。

 

しかし、現在の住宅のように、エアコンの使用を前提とすると、住宅は外に向かって「開いた」夏向きの状態ではなく、高断熱・高気密化を図って「閉じる」ことを前提とした北方系の構造のほうがエネルギー効率は良くなることがわかります。

 

換言すれば、エアコンなど冷暖房設備の導入を前提とした家では、もはや「閉じる」以外に選択肢はないのです。

 

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これまでの日本の家は水平=横にひろがる間取りが多かったが、断熱の効果で縦に拡張するデザインが可能になる。光熱費が余計にかかるわけではなく、温度分布もほぼ均一。

  

 

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住宅性能の尺度は24時間冷暖房

今回は難解な専門用語を並べましたが、ここで理解できなくても悩むことはありません。

住宅会社には胸を張って「四季を通じて快適で安全な家の『燃費』を示してください」といえる施主をめざしてほしいのです。

 

ここでいう「燃費」とは、全館どこでも夏は24時間28℃以下、冬は24時間20℃以上を前提にすること。

 

以前の記事でも取り上げましたが、屋内に輻射熱をいかにプールできるかがカギになり、冷暖房は連続運転が基本になります。

 

「UA値0.46」「C値0.5」という目安は、ビルダーとの打ち合わせ時に必ず確認します。

 地域によって、この数値がベストとは限りませんが、その際は、なぜ、この数値まで必要ないのかという理由を必ず確認します。

 

エアコンのスイッチを頻繁にオンオフするよりは、一定の温度設定で留守中も稼働させるメリットについては、このブログのなかでも各所で取り上げています。

 

省エネ住宅の基本はこの解説(資源エネルギー庁)がわかりやすくまとまっています。私たちが30年前から提唱してきたことが、ようやくこうしたかたちで示されることは歓迎すべきことかもしれません。

 

しかし、この30年で、何万の人たちが低い住宅性能が原因のヒートショックなどで亡くなり、暑さや寒さのなかで過酷な在宅介護を余儀なくされてきたかを考えると複雑な気持ちもあります。

 

究極の省エネ住宅として「ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」が注目されていますが、これについても機会を改めます。

 

 

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玄関を入った途端、快適な温度に包まれる。「温度」のデザイン、「燃費」のデザインには断熱・気密・換気のバランスを高いレベルでクリアする。

 

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Q値1.0W/㎡・Kまで性能を上げると、吹き抜け、半地下、ロフト、3階縦など多層化しても、温度分布は均一。床面の温度と天井面の温度差は1℃もない空間ができる。

 

まとめ

1.我慢=精神力、設備に頼らず、住宅の躯体そのものを断熱・気密化するのが性能化の基本。夏の暑さ、冬の寒さ、結露などは人体にとって大きなストレスとなってしまう。
 
2.省エネ基準には罰則規定がないだけに細心の注意を払い、ビルダーに性能の裏付けを求める。性能の裏付けが、ビルダーの誠意。
 

3.最低でも「外皮平均熱貫流率(UA値)」、「隙間相当面積(C値)」、「一次エネルギー消費」の意味を把握しておく。性能が高いほど、冷暖房費は安くなり、四季を通じて快適な温湿度の環境に近づける。得をするのは、あなた。
 
4.日本の省エネ基準のレベルはEU基準に遠く及ばない。これから建てるのであれば、関東以西でも現行省エネ基準の北海道基準をめざす。将来、この家に住む子どもたちへの最大の贈り物。

 

5.展示場見学などの際には北海道仕様=「UA値0・46W/(㎡・K)」「C値0.5㎠/㎡」の性能値に達しているかどうかを確認する。この数値に達していない場合は、その理由も尋ねておく。地域によってめざすべき性能に差はあるが、北海道の寒さに強い性能は、夏の暑さにも強い、つまり外気に左右されない環境を保つ基本。