Where we belong【家を知る・家に住む・この家で生きる】.

そして、私たちの「居場所」について。

編集者がすすめる、家づくりの前に読んでおきたい本(1)。

 

 

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日本の学校教育には長らく住宅に関する教育カリキュラムはありませんでした。これだけ素晴らしい伝統を持つ建築技術と生活文化がありながら、かねてから不思議に思ってきたことです。建築を専門とする大学教育でも、構造を学んでも温熱環境について学ぶようになったのはつい最近のことです。

私たち日本人はクルマの燃費は気にしても、家の基本性能や燃費のことには無関心。日々の暮らしのなかでも、どことどこの窓を開ければ効率のいい通風・換気ができ、日射取得と日射遮へいの違いすらわからずに、家を計画し、建てたり購入したりしてきたのです。ここに紹介する本は全て買っても1万円ちょっと。その1万円ちょっとであなたがこれまで抱いてきた住宅に関する価値観ががらりと変わることをお約束します。

 

 

 

 

「家と身体(からだ)」

(くうねるところにすむところ 子どもたちに伝えたい家の本)

鈴木恂/ジェイ・インターナショナル

 

建築家、早稲田大学名誉教授でもあった著者が子どもの目線から家について語る、というコンセプトで上梓された絵本。地元の美術館のショップの片隅で見つけました。「ながいあいだ 家を見つける時代がつづいたのです」という既成概念から脱却し「ぐるりと家をみわたしても 触ったことがないことだらけ」なのだから、五感を駆使して「家を触る」ことを提案。「それもおもいきって 全身で」と、身体を物差しにして肌合い、温度、空間を感じ、確かめようというのです。

最後は「身体のひらきかたによって どこまでも どこまでも 触ることができる」という結論に導く発想は、家をただのハードとしての器ではなく、人とともに生きる生命体になり得ることを示唆しているようでもあります。

日本人は住宅教育を受けないまま成人してしまう、先進国では珍しい国。子どものころにこうした教育を受けていれば、家との関わり方はずいぶん違ってくるのではないでしょうか。いまからでも遅くありません。まずは大人の私たちが、家を感じるために何をどうしたらよいのかを、学びたいものです。

 

 

 

 

 


 「家は夏も冬も旨とすべし」温熱環境から考える快適・健康住宅

加藤大志朗/日本評論社

 

東北では一夜にして台所の水が凍りつくような環境で、関東以西では夏、蒸し風呂のような酷暑の環境で行われる過酷な介護の現場を目にしてきた著者が、全ての日本の住宅に性能の裏付けを、という揺るぎないコンセプトで書き上げた1冊。執筆途中に東日本大震災に遭遇し、震災の悲劇から立ち上がり、理想の家を模索する被災地の人々の姿も描かれています。

Q値、C値など住宅性能の基本がわかりやすく解説されているのが最大の特長であり、終の棲家となり得る空間、理想の温熱指標、エコロジーと住宅の関係などが、辛口ながら平易な文章で書かれ、根底にあたたかなヒューマニズムを感じます。

地道に住宅性能の向上を唱える研究者たちのインタビューも読みごたえがあり、バリアフリーに関する内容は、目からウロコ。日本の住宅性能が、依然としてこの本にある理想に追いついていないのが残念でなりません。

 

 


  「納得の間取り」日本人の知恵袋

吉田桂二/講談社α新書

 

日本の伝統建築、伝統家屋を後世に伝承するために尽力した建築家の一人。実際に多くの保存活動にも携わり、日本や世界の民家、町並みのスケッチもたくさん残しています。編集者の端くれでもある私が尊敬してやまないのは、文章のわかりやすさです。日本建築の源流、歴史、現代に応用できる間取りの実例などを、誰にでもわかるように解説できる建築家はほかに知りません。

単なる自国の伝統文化を誇るだけではなく、自分たちのDNAが感じる心地よさや懐かしさの原点にあるものを解き明かし、ああそうだったのか、なるほどと思わず膝を打って聞いてしまう明解さで住宅建築のいろはを教えてくれます。

和でも洋でもない無国籍的な住宅が少なくありませんが、日本建築の原点を少しでも学んでいるかどうかで、同じ無国籍スタイルでも奥行きが違ってきます。いつの時代でも応用できる、日本の住まいづくりの道筋を提示する名著です。

 

 

 

 

 

「宮脇檀の住宅設計 」プランニングからディテールへ

宮脇檀建築研究室/エクスナレッジ

 

少し年配の方なら、テレビやラジオ、あるいは雑誌などで著者が活躍した時代をご存じかもしれません。ダンディーでハンサムな風貌は、女性にも人気がありました。1960年代後半から70年代にかけ、小住宅の可能性を追求したことでも知られますが、歴史的・文化的な価値観を持たないまま持ち家を得ようとする志向に強い疑問を呈し、数多くの著書で繰り返し語られています。

本棚を眺めてみても「日曜日の住居学」「暮らしをデザインする」「父たちよ家へ帰れ」「それでも建てたい家」「日曜日の住居学」「男と女の家」など10冊前後が並んでいました。いずれも雑誌のコラムを読む気軽さで読むことができるのが魅力といえましょう。

家族はもちろんですが、とりわけ男と女=夫婦関係の洞察も奥深く、セックスについてもきちんと向き合っているあたりも他の建築家にはない個性といえます。キッチンを夢見る前に料理を学ぶ。収納を考える前に、片付けをする。そんな、やさしいお叱りを受ける覚悟でお読みください。

 

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「建築はほほえむ」目地継ぎ目小さき場

松山巌/西田書店

 

内容の面白さもさることながら、装幀のユニークさで購入した1冊。表紙カバーも本文も藁半紙のような用紙を使い、活版印刷なので、活字の1字1字に凹凸があるのがわかります。私がこの世界に入ったころは当たり前に使われていた印刷手法ですが、その後、活字は写植に変わり、Macのデザインソフトが普及してからは、活版も写植も瞬く間に消え去ったのでした。

この時代に、あえて活版を復活させているところに、新しさだけを追求する日本の住宅の将来に一石を投じようとする著者と出版社の意地のようなものが見え隠れします。副題は「目地 継ぎ目 小さき場」。

P14にある「建物を建て、築くということは、建てる場所が、寒いか、暑いか、湿っているか、乾いているか、それともそれ以外の場所なのかをいろいろと考えること」の言葉がプロローグとしての役割を担っています。手にするだけであたたかい、古き良き装幀を感じるだけでも価値のある本です。

 

 

 「木に学べ」法隆寺・薬師寺の美

西岡常一/小学館文庫

 

「わたしに何か話せゆうても、木のことと建物のことしか話せませんで」という言葉から始まる本文は聞き書きで構成され、それだけに目の前で棟梁の話をうかがっているかのような気軽さで読める構成になっています。

とはいえ、実は、気軽さという言葉を使うのがはばかるほどの大棟梁なのですが、編集者が介在することで多くの人に伝わりやすい内容となっていることに、まずは敬意を表したい気持ちです。

数百年に一度しか行われない法隆寺や薬師寺、法輪寺などの修復を手がけた宮大工。「棟梁というものは何かいいましたら、木のクセを見抜いて、それを適材適所に使うことやね」という言葉の奥深さが、じっくりと語られています。

住宅を建てる、購入するという方には関係のない分野に思えるかもしれませんが、私たち日本人が求める住宅の大半はいまも、石やレンガ造ではなく木で建てられる文化。寺社建築とはいえ、木を使った建築に向かう棟梁の気概や誠実さは、木造建築に住むDNAを持つ私たちが、必ず読んでおきたい1冊といえます。

 

 

 

 

 

  「住宅読本」

中村好文/新潮社

 

自らも「ジーンズのような流行に左右されない、普段着の定番みたいな住宅や家具が理想」と語るように、肩肘の張らない日常の暮らしの「内側」から居心地のいい住まいをつくる姿勢は若い世代からも絶大な支持を得ています。この本だけではなく、他の著作にも、住まいはただの身体的に人が住むだけの装置ではなく、心もまた安らかにそこに住みつける場所であるように、との願いと考察が散りばめられ「古びたときに美しくなるように」という普遍的なデザインが具現されます。

風景のなかにおさまる家、ワンルームになりたがっているプラン、とっておきの居心地、中心に火のある家、美しく散乱する台所や住み継ぐ作法に至るまで、私たちが住まいと対峙するための基本を多く学ぶことができる編集内容。

個人的には、この人の撮る写真も好きで、世界各地の建築を撮るアングルは、目には見えない架構や構造の美しさを知る人ならではのものと、いつも感心してしまいます。

 

 

 

 

 

 「ウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築」

山形政昭/創元社

 

アメリカに生まれ、1908年、京都で建築設計監督事務所を設立し、大正から昭和の戦後の日本各地で学校、教会、病院、ホテル、百貨店、住宅など数多くの建築を手がけた建築家。 神戸女学院、大丸心斎橋店、京都の東華菜館、東京の山の上ホテルなどは代表的な作品で、ご存じの方も多いはず。

その後拠点とした近江八幡を中心に、関西、関東、北海道にまで個人住宅を建築しており、30件以上が重要文化財や登録有形文化財に選ばれている建築家はほかにいません。現存する個人住宅はあまり多くないのですが、その多くをこの資料で垣間見ることができます。

一口で西洋建築とはいうものの、どの建築も日本の地方や地域文化のなかで使用されても違和感を感じないのは、人の暮らしの営みを前提に据えた普遍的な建築思想によるものといえます。その思想は人間への尊敬であり、自然への畏敬の念であり、時代を超えて継がれるデザイン性の高さでもあります。作品はいまもなお、私たち日本人に、日々の暮らしを丁寧にいきるための家とは何かという静かな問いを発し続けているように思えてなりません。

 

 

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