Where we belong.=【家を知る・家に住む・この家で生きる】

そして、私たちの「居場所」について。

【再読】=記憶がリサイクルされ、物語が血肉に刻み込まれる、究極の読書術。

 

 

 

 

 

 


 本棚

本好きの人は少なくありません。新築やリフォーム時には、自分の書斎をつくり、本棚を設け、毎日本を眺めながら暮らしたいと望む人も多いことでしょう。しかし、本来、本を読む目的は、暇つぶしや量を集めることではなく、生きる術(すべ)を学び、人生の仕組みを少しでも知ることにあります。人生の永い時間からすれば、本を読む時間はほんのわずか。だからこそ、自分の血肉になる読み方、集め方が必要なのかもしれません。

 

Contents.

 

本棚や書庫をつくる際の勘違い

本棚がたくさんほしいという人は、実は本棚が埋まっていないと落ち着かない人でもあります。

自分が、そうでした。

 

本棚を設けたはいいが、空きがあると、あとになって一層本を買い込むことになってしまいます。

ずっとそんなふうに、本を買い、読んできました。

 

本がインテリアや家具として考えられていたのです。

 

本はやはり読んでナンボ、気づきを得てナンボ、感動して、いつか得たものを世の中に還元してナンボ。

 

本がいつも身近にあるのは理想ですが、地下室や小屋裏(ロフト含む)までつくって、大規模な書庫を設けるとなると、今度は管理の問題があります。

予算も半端ではなくなります。

 

自分の知る限り、年間を通して、湿気、カビなどの問題なしで、地下や小屋裏の書庫を維持している人は半数に及びません。

 

機械的に温湿度を管理する場合、問題は少なくなりますが、ランニングコストが発生します。

書庫のためにコストをかけて維持する意味があるのか、考え込んでしまいます。

 

 

 

 

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 本

 

 

 

 

 

 

 

結露の原因は断熱欠損に尽きる

これまで日本の住宅の大半が、冷暖房のオン・オフを繰り返す「間欠(冷)暖房」であり、屋内全体の温度分布を均一にする「全館(冷)暖房」ではなく「個別(冷)暖房」でした。

いまも、そうした住宅が大半を占めます。

 

欧米の住居と比較して、薄っぺらな断熱。

すかすかの気密。

機械的な冷暖房のない時代は、世界に誇るパッシブデザインが駆使された伝統的な町家や農家も、いったん機械に依存するようになると、断熱・気密性能を向上させるしか道はないのです。

 

中途半端な断熱性能では、屋内に温度差をつくってしまい、空気の澱んだところや他よりも温度の低い部分に結露を招きます。

その結露がカビ、ダニの問題を引き起こしてしまうのです(下図)。

 

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通気性の善し悪しよりも断熱の弱い部分=冷えたに水分が集まる。結露はカビの原因となり、カビをエサにするダニが増える。ファンヒーターや開放式ストーブは水蒸気を大量に発生させ、使用する限り、結露の原因をつくり続ける。


 

本がカビだらけになってしまうのは、おおよそこのような場所、原因が多いもの。

通風の問題もありますが、結露の多くは屋内でも他の場所より「冷たいところ」に起きます。

 

暖かい部屋で冷たいビールをグラスに注ぐと結露ができます。

暖かい空気が冷たい部分で、瞬間的に冷やされて結露します。

 

カップ麺のカップに熱湯を注いでも、キンキンに冷えた水を入れても、手で、持つことができますし、結露はしません。

 

これが、断熱材の効果です。

通風とはまったく論点が違うことがおわかりになるはずです。

 

冷蔵庫、クルマ、衣類の全てが、断熱するための技術が駆使されているにもかかわらず、(伝統家屋以外の)住居で断熱不要論がなくならないのは、とても残念なことです。

 

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本棚の容量を超えたら処分する

通路やホールを利用して本棚や書斎コーナーを設ける方法もあります。

蔵書の多い人にはもっとも簡単な対処法ですが、あちこちに本棚を分散しすぎると、家中どこを歩いても、本が目に入ってしまいます。

 

あるお宅では、ご主人がこうした家を実現したものの、完成後、家族全員に「本ばかり目に入って気持ちが休まることがない」と反発され、蔵書の大半をホームセンターで購入した物置に入れることに。

 

物置ではカビこそありませんでしたが、細かなホコリで蔵書の全てが汚れてしまい、結局は選別して破棄することになったのです。

 

本を管理するのは、屋内の熱的な条件と家族の気持ちの持ち方の双方が大切になります。

対処法は3つあります。

①家族全員を本好きにしてしまうこと。

②定期的に本棚の本を入れ替えること。

③屋内の温度差を解消すること。

 

家族全員が本好きならば、家中が本だらけでもみなさん、気になりません。

問題は家の広さ。

体育館のような面積があるならともかく、一般住宅の面積などしれています。

 

あらゆる制限のなかで、何を持ち、何を捨てるかは、ミニマリストでなくても、生活者の基本です。

 

どんなに本棚を増やしたところで、やがては必ず本棚が埋まる日がやってくることは目に見えています。

どんな対処法をとるにせよ、定期的な入れ替え作業は避けては通れません。

これは他のモノと同じです。

 

どうしても蔵書全部を所有したいのであれば、③のように、図書館並みの温湿度で管理するしかありません。

 

 

 

 

 

 

 

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図書館は自分の本棚と思い込む

蔵書は多くありません。

アトリエと自宅を合わせても2000冊ほどです。

何年かに一度、定期的に、本棚の入れ替えをしているのです。

 

昔は、本棚がいっぱいになると古本屋さんに来てもらい、軽トラックで、まるごと持っていってもらいました。

捨てるべき本を数十数百と選ぶ面倒な作業を経ても、1万円か2万円にしかならず、やめてしまいました。

 

いまは、本棚に納まりきれなくなった時点で取捨選択し、自分でリサイクル施設に持ち込みます。

 

いつか、ここで書きましたように、本には線を引き、ページの端を折り、ときにはお風呂で読み、たまに湯船に落とし、再読を繰り返すために、とても売れる状態ではなくなるのです。

大事なところはメモをしてあります。

 

「あの本どこに行ったっけ?」

と本棚を血眼で探し回ることもしょっちゅうで、捨てたことを後悔し、また同じ本を買うことあります。

 

もう一つ、よかったことは、公共図書館やBOOK OFFなどの古書店を、自分の、もう一つの書庫と考えるようにしたことです。

 

どちらもクルマで数分のところにありますので、必要があれば、気分転換を兼ねて図書館やBOOK OFFに出掛けて、じっくり本を眺めたり、選んだりします。

ここはオレの屋外図書館だと、自分に言い聞かせながら。

図書館では、管理まで無料でやってくれていることになります。

古書店での購入費は、管理費だと思えばいいのです。

 

こうした発想の転換で、屋内の書庫は常にすっきりと整理され、外出して本を眺める楽しみも味わえるようになったのでした。

 

 

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本は繰り返し読んで価値がある

作家のKさんを取材したとき、こんな話をうかがいました。

子どものころから本好きで、大人たちも驚くような速さで近くの図書館にある本をほとんど読んでしまいました。

 

ある日母親に「もう読む本がなくなった」と告げると、母親はKさんをその図書館に連れていき、「この本には何が書いてあったか」と1冊ずつ尋ねた…というのです。

 

答えに窮したKさんは、読書の量ではなく、深く読むことの大切さを母親から教わった、と話されました。

 

同じ本を、何度も何度も繰り返し、「自分のものにするまで読むことが、とても大事」というお話しは、いまも心に残っています。

 

いわゆる「再読」です。

 

Aさんは、一人の作家の作品をたくさん読むことの大切さも話してくれました。

 

同じ作家の本を「量」で読むこと、それぞれを再読をすることで、さらに深いところで物事を思考できるようになるとの考え方に共感し、いまも実践しているのです。

 

 

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 本

 

 

 

 

 

 

新刊を買わなくても後悔しない

仕事のたびに、関連資料は購入しますが、読書に関しては、Aさんのお話をうかがって以来、新刊を買うことはなく、本棚にある本の「再読」を繰り返しています。

 

いま、この文章を書いているデスクの真後ろに本棚がありますが、ざっと眺めるだけで――

河合隼雄、宮本輝、三島由紀夫、吉本ばなな、森本哲郎、遠藤周作、三浦綾子、夏目漱石、森鴎外、志賀直哉、ヘミングウェー、モーム、トルストイ、ドストエフスキー、カフカ、谷崎潤一郎、カミュ、小林秀雄、大江健三郎、開口健――などが眼に入ります。

このなかで、一人につき30冊以上の作品を揃えている作家は5人、10冊前後ですと大半になります。

 

新刊、新進気鋭の作家の作品を読まなくとも、自分にとっては、再読をしなくてはならない作品ばかりです。

 

いわゆる教科書的な作家ばかりですが、時代を経てもなお世界中で読まれているには理由があります。

それだけ普遍的なテーマを、時代を超えて、提示し続けているからです。

 

あと何十年生きられるのかわかりませんが、自分としては、いま、本棚にある作品以外の本を1冊も読まなくても、後悔がないと言い切ることができます。

 

むしろ、かつて訪れたあの世界に、もう一度、足を踏み入れることが楽しみでしょうがありません。

読むたびに、故郷に帰って来るような気持ちになるのです。

 

能力的な限界があり、何度も繰り返して読まないと自分のものにならない…というのも理由の一つです。

 

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記憶をリサイクルする本の再読

1冊の本でも繰り返し深く読み込み、自分の血肉にして初めて、本の価値があります。

読んだ本の数、蔵書の量、ましてや書庫を誇るが大事なのではありません。

 

きのうの自分と、今日の自分の体調が異なり、仕事の内容が違い、会う人も、考え方も違うのですから、同じ本を読んでも、感じることが、その瞬間瞬間で異なるのは当然です。

このことだけで「再読」は、毎回、新たな発見を、より深く与えてくれることがわかります。

 

本に自分のいまを投影し、仮に違った読み方ができたら、それは一つの「成長」といっていいのかもしれません。

 

「再読」はまた、「記憶のリサイクル」でもあります。

 

繰り返し読むことで、記憶は自分のなかに確固たる物語を創り始めます。

物語は、身近な人と争わず、共に生きるにはどんなふうに考え、どう行動すればよいのか。

誰かが喜んでくれるために、いま、自分は何をどう考え、何に感謝し、どう行動すればよいのか。

自分が楽しく生きるために、誰かが喜んでくれる生き方をするために必要なこと――のことの全てを教えてくれます。

 

永遠よりも、長くて深い物語。

それらがいくつも自分の中に編まれるゆたかさが、本を読むことで得られるゆたかさでもあります。

 

 

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 本棚

 

まとめ

※本棚の考え方

①本は常に近くにあるのが理想だが、飾りや家具、インテリアとしては考えない。

②温湿度が管理されない書庫ではカビの危険性→光熱費をかける価値があるかどうかを再考する。

③本棚の容量を超える本は、その都度処分する。処分してよいと判断した本はすでに自分の血肉になっていると信じる。

④公共図書やBOOK OFF、古書店などは自分の「屋外書庫」として考える――発想の転換。

⑤量の読書ではなく、気に入った作家の本を何冊も何度も「再読」する読み方に切り替える。

⑥新刊、ベストセラーを読むことも大切だが、文豪たちの作品を繰り返し読むことも習慣にする。

⑦再読することで記憶のリサイクルがなされ、揺るぎない物語が自分の中にできる。